S大でのプレゼン
2009年1月――
S大学の講堂には、人気企業“グ……”のAI開発者ファンさんの講演を聞こうと、たくさんの学生たちが、講演用の大ホールに続々と集まって来る。
ファンさんの講演の前半部分が終了したタイミングで、「面白い研究をしている天才児がサンノゼに来ている」として、俺たちが紹介された。
天才児というのはどれほどのものかと、興味津々の学生たちがワイワイと盛り上がっている。
S大学には、優秀な学生が集まっている。
内容のないプレゼンだと、「やはり子供の研究だな」と馬鹿にされてしまうだろう。
俺は、公表しても差し障りのない範囲で、いろいろなAI研究を紹介していった。
学生たちには大好評だ。
最後に、自分で構築したオリジナルAI理論を少しだけ解説してみた。
AI理論は数式が並ぶ内容だが、解説もしっかり理解しているようだ。
プレゼンが終わった段階で、学生たちからどんどん質問が出る。
俺と優子が交互に答えていく。
保は、立ったまま下を向いているだけだ。
質問に答えながら、「この大学は学生のレベルが高いな」と感じる。
質問者には、大学の研究者も混じっている。
放っておくと、どこまでも質問が続きそうなので、ファンさんが良いタイミングで質問を締めくくってくれる。
講演会が終わり、ファンさんと学長、そして俺たち3人で、学内のレストランへ向かう。
食事が終わると、「今までどんな研究をしてきたのか」と各人に説明を求められる。
まるで口頭試験を受けているような気分だ。
いつもの保なら、何か聞かれても下を向いたまま黙り込んでしまうのだが、この学長さんとは相性が良いのか、小さい声ながらも質問に答えている。
学長の質問タイムが終わると、満足そうにコーヒーを飲んでいる。
「君たちの研究発表を聞いて感激した。君たちの研究は、世界の技術革新を先導する可能性があると思う! どうかね、16歳になったら飛び級で、この大学の学生にならないか?」
「匠は、KSセキュリティ社の大株主であり、K社の量子コンピューター開発のリーダーだよな。AIの研究もなかなかのものだ。入学後は、希望すれば飛び級で直ぐに卒業しても構わない。匠は特待生扱いでいいぞ」
「学長、ずいぶん先の話ですので、あまりピンときませんよ……」
「匠たちは、これからも日本とアメリカを行き来するようになるのだろ? 日本では小学校に通っているのかな? 米国に来ている期間は、この大学の“天才児用教育プログラム”を受講することにする方が良いのではないか?」
「確かにそうですね。アメリカに来ている期間は出入国記録が残りますし、今のままだと、アメリカにいる間は“教育を受けていない”ことになりますね」
「教育プログラムの名称は、“特別研究体験プログラム”にした。君たちのために作ったのだよ。もちろんお金なんて必要ない」
「……君たち天才児がファン教授の研究室で研究を体験しながら、興味を持った講義を受講できるというものだ。取得した単位は、将来S大に入学した時に、取得済み単位として使えるようにしておくよ」
「それは、すごく魅力的ですね」
「そうだろう。ただし、こちらからもお願いがあるのだ。君たちが特別研究体験プログラムに参加していることを、大学から公表させてほしい。つまり、大学の宣伝に貢献してほしいということだな」
「分かりました。3人が参加ということでいいですか?」
「了解だ。さあ、握手しよう」
アメリカは面白いな。
お互いにメリットがあるということか。
大学側のメリットの方が大きい気もするけどな。
まあいいか。俺たちは不登校だし、大学生気分を味わうのも悪くないかもしれない。
学長と握手をして別れる。
握手で契約成立ということだよね。
隣に座る保を見ると、「不安」という文字が顔に書いてある。
保、しっかりしろよ。運が逃げていくぞ……
優子は、もちろんニコニコだ。
家に帰って、さっそく父と母に報告する。
「何だって! S大学の学生になったのか? とにかく3人とも良かったな! 小学校不登校でも良かったのか?」
「入学したわけじゃないよ。S大学の教育プログラムに参加するだけだよ。アメリカでも“何かしらの教育を受けていた”という記録が残せるだけだよ」
「何だ、大学生になったわけじゃないのか。残念だな」
「中学校を卒業して、高校卒業認定資格を取りさえすれば、S大に飛び級で入学できるところまでは決まったよ。3人とも」
「とにかくおめでたいわね。良かった」
両親は本当に喜んでくれる。
夜逃げみたいにしてアメリカに来たけど、結果的に良かったということか!
優子もニコニコ、保君はまだ心配そうな顔をしている。
保は大学に行くのが嫌なのだろうな。
「保君、教育プログラムに参加するのをやめる? どちらでもいいよ」
「2人が参加しないのなら、僕も参加しない……」
「俺と優子は、もちろん参加するよ」
「僕1人だけ違うのは嫌だ……」
「じゃあ、もっとうれしそうな顔をしようよ。会長も喜ぶと思うよ」
(保……面倒くさいよ……君は……)
父はアメリカに来ているのだが、左ハンドル・右側運転に慣れたり、英語を覚えたりで、やや疲れ気味のようだ。
しかし、両親にとって海外は新婚旅行以来だそうで、なんだかとっても楽しそう。
日本では、あれから3ヶ月が経過していて、世間では天才児ネタも飽きられてきている。
俺たちが日本にいないために、新ネタが更新できないからだろう。
半年、いや1年経てば、俺たちは忘却の彼方に行ってくれそうだ。
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