ファンさん
俺たちも自己紹介しないとな……。
でも紹介できるような経歴はないな……得意分野でも説明しておくか。
とにかくミーティング開始だ。
「天才児」とは聞いているけど、9歳くらいの子供たちとどうディスカッションすればいいのか、全員が戸惑っているようだ。
それにしても保、なんで……緊張でプルプル震えているんだよ……
早くこの場から逃げ出したいと、顔に書いてあるぞ。
そんな態度では、開発スタッフが気を使って会議にならないぞ。
自由闊達にディスカッションしなければ意味がないのだ。
保は次回から連れてこなくてもいいな。
本人もそのほうが楽だろう。
宮原会長が気を利かせて、保を連れて散歩に出てくれた。
考えてみたら、保は未来技術研究所のメンバーじゃないから、参加しちゃダメなんだよね。
量子コンピューターについての構想を説明し始めた後は、スムーズにディスカッションが進んでいく。
参加メンバーからも、いろいろと建設的なアイデアが出される。
それに対して、俺と優子がコメントを加えて、より有意義なアイデアに導いていく。
いや〜、何か楽しい。
優秀なメンバーとディスカッションすることで、参考になる理論を発見したり、奇抜なアイデアが飛び交う……実に有意義だ。
こういう時間が一番楽しい。
次回から保は、自宅でのんびりしていてもらおう。
打ち合わせは3時間続く。
楽しい時間なので、どんどん時間が過ぎていく。
当面の開発方針が決まったので、量子コンピューターに関するミーティングは終了する。
俺たちが秋葉原からサンノゼに移ってしまったので、KSセキュリティ社の開発部門もサンノゼにやって来ている。
昼からは、KSセキュリティ社の開発スタッフとミーティングだ。
こちらも優秀なメンバーがそろっている。
セキュリティ理論に関する腕自慢のメンバーたちによる建設的なディスカッションとなる。
主に優子が開発の方向性を主導していき、俺が時々理論を補足する感じだ。
2つのミーティングが終了したので、サンタクララの住宅に戻って、早く自分たちのAIシステムの改良をしたいな……
子供は疲れないのだよ。急にエネルギー切れにはなるけどね。
「保君、次回からは、俺たちが研究所に行く時は、自宅で好きなことをやっていていいよ」と言うと、保はすごくうれしそうな顔をする。
うれしいのかよ……今日は相当つらかったのかもね。
でも保は、A製薬の社長の息子だよね……このままの大人になったら困るんじゃないかな。
そんなことを考えているうちに、ヘレンさんの車が自宅に到着する。
ヘレンさんにお礼を言うと、人懐っこい笑顔で帰っていった。
家に、誰かお客が来ているようだな……
お客さんは中国系の小柄なお姉さんで、ひと目で賢そうという感じがする人。
母は、まったく英語を使いこなせないはずなのに、その中国系のお姉さんと楽しそうに会話している。
(さすが母さん。楽しそうに話せば、とにかくコミュニケーションは成立するのだよ……)
中国系のお姉さんの名前は、ファンさんという。
「やっと会えたわ、スーパー天才児に……あなたが匠だよね! あなたに会いたかったのよ……!」
笑顔で俺に握手を求めてくる。
「シリコンバレーでは、あなたは有名人! みんながあなたに会いたがっているわよ。AIを研究し、セキュリティソフトの開発もして、量子コンピューターの開発までやってるわよね」
「……エクセレントな坊やね! 私は、AIの開発を“グ……”という会社でやっていて、それなりに有名人なのよ。よろしくね」
「来年から、近くにあるS大学に転職することが決まっていてね。どう? 私と一緒にS大でAIの研究をしましょうよ!」
「僕たちはまだ9歳と8歳で、S大の大学生でもないんですよ……難しいと思います……」
「来年の1月に、S大学で大勢の学生を集めて、AIの研究について講演会をするのだけど、あなたたちも何か発表しない? いや、ぜひ発表してほしいのよ。どうかしら?」
保だけが、自分の部屋に戻りたそうにモジモジしている。
「保君は部屋に戻っていていいよ」
「え〜、僕だけ……」みたいな表情で、保は自分の部屋に移動していく。
母が追いかけて、保にお菓子を渡している。
「その発表は、S大学の学長も聞きに来るのよ。発表の後、みんなで会食しましょうよ! 一緒に研究するかどうかは、その時の成り行きで決めたらどうかしら?」
「面白そうですね! 3人でお伺いします。発表時間は20分で大丈夫ですか? ただし、公開してもいい研究内容に限定しますけど」
「今はどんなことを研究しているの? 差し障りのない範囲で教えてくれない?」
俺は、鈴森会長に見せたテニスボールの軌道予測とか、癌の画像診断の一部を説明する。
ファンさんは、ニコニコしながら聞いている。
「忙しくなるわね。S大をよろしく」とか言いながら、ニコニコして帰っていった。
「忙しくなる」って……どういう意味だろ……何に忙しくなるんだ?
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