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転生して未来を変えろ  作者: ゲンタ


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会長に認めていただくために

「技術本部のネットワーク担当、山田部長をすぐに呼んでくれ!」

会長が秘書に短く指示を飛ばす。その声音には、先ほどまでの柔らかさとは違う、緊張感が混じっていた。


5分も経たぬうちに、山田部長が小走りで会長室に飛び込んでくる。

額に汗をにじませ、眼鏡を押し上げながら、こちらを鋭く見つめる。


デモが始まると、山田部長から次々と質問が飛んできた。

俺は深呼吸をしながら一つ一つ的確に答え、さらにAI機能を付加することで得られる利点を、具体例を交えながら説明する。


「……これは、君が本当に作ったのか?」

再び投げかけられる問い。会長と同じ疑念だ。


俺は、参照した論文の理論をどのように応用し、自分の手で仕組みに落とし込んだのかを丁寧に解説する。

話を聞き終えた山田部長は、椅子から半ば立ち上がる勢いで、大きな声を上げた。


「これは……何と言うか……素晴らしい! 会長、この子は間違いなく天才です!」


その言葉に、会長の口元がわずかに緩む。だが瞳は真剣そのものだった。

「そうか……素晴らしいものを見せてくれてありがとう。ところで君たちは、どういう目的でここに来たのかね? ただ見せるためだけなのか?」


会長の問いかけは柔らかいが、核心を突いている。

空気が一瞬、静まり返った。

だが会長の目は、自分の孫を見つめるような優しい目だ。


「このソフトを売り込みに来たわけではありません」

俺は背筋を伸ばし、会長を正面から見据えて言葉を続けた。


「私と妹は小学校に通う年齢ですが、知能が他の子供よりも高いため、学校には在籍していても不登校を続けています。義務教育が終わっても、おそらく高校や大学には進学しないと思います」


会長の眉がわずかに動く。驚きか、それとも興味か……。


「将来は自分の会社を作るつもりなので、インターネットでダウンロードした学術論文を精読しながら勉強をしています」

俺は拳を膝の上でぎゅっと握り、言葉に力を込める。


「人と違う生き方をする人間を認めたがらないこの国で生きていくには、“あの人が認めたというのなら!”と言われるような人物に、私たちの才能を認めていただくことが必要だと思いました。持参したセキュリティソフト、いかがだったでしょうか?」


会長は椅子にもたれ、顎に手を当てながらじっと俺を見つめている。

「……面白い子供たちだな。君たちは、普段はどうしているのかな?」


「秋葉原のビルの中に研究室を作り、2人で研究をしています」

答えると同時に、優子も隣でこくりとうなずいた。


すると、今まで静かに聞いていた母が前に身を乗り出し、柔らかい声で口を開く。

「そのビルは、匠が自分の力で建てたビルなのです」


会長の目が大きく見開かれる。意外さに思わず息を呑んだようだった。

(母さん、会長のオーラを前にしても全然怯んでないな……さすがだ)


「ますます面白い子供たちだな」

会長は声を低め、口元に笑みを浮かべる。

「東京に行く際に、匠くんの研究室に寄らせてもらうよ。それで、君たちを認めたことになるのかな?」


「ありがとうございます」

俺は深々と頭を下げた。隣の優子も小さな肩を震わせながら一緒に礼をする。

「会長にお会いできて光栄です。ぜひ秋葉原の研究所にお越しください」


会長の目が優しく細められる。その瞬間、緊張で固まっていた俺の胸の奥に、ようやく温かい安堵の光が差し込んだ。


俺は自分の名刺を会長に渡す。

その名刺には、未来技術研究所 所長 相馬匠 と記載しておいた。


「来月の7月に、何人かの技術者とともに研究所を訪問させてもらうよ。そのときに、もう一度君たちの研究をプレゼンしてくれるかな。今日のプレゼンは、とても参考になったよ。ありがとう」


「ところで、この近くに美味い料理屋がある。秘書に案内させるから、食べて帰るといいよ。そこの料理はうまいぞ! 支払いは私がしておくから心配しないで、お腹いっぱい食べるといい」


***


秘書に案内されたのは、老舗の会席料理の店だった。

自腹なら、まず入るのをためらうだろう……見るからに高級感漂う佇まいの料亭である。


通された個室で、3人は上品に並べられた料理を前に、少し緊張しながら箸を進める。旬の食材を使った彩り豊かな料理はどれも見事で、口に入れると自然に頬が緩んでしまう。


「よくあんな大きな会社の会長が、会ってくれたものだわ。しかもアポなしで!」

母は感嘆の息を漏らし、箸を置いて俺に視線を向けた。

「世の中的にはあり得ないことだわね。母さんでもそのくらいは分かるわよ! それに、こんな高そうな料理までご馳走になって……会長さんに感謝しなきゃね」


「私もそう思う」

優子も真剣な顔でうなずく。


「絶対に受付で追い返されると思っていたわ。それなのに、どんどん奥へ案内されて……会長室の扉の前に立ったときには、もう足が震えてしまったの」

そう言いながら、自分の膝を両手で押さえ、恥ずかしそうに笑った。


「母さん、優子、上手くいくときは案外こんなものだよ」

俺は茶碗を手に取りながら肩をすくめる。

「実は僕だって、声が震えそうになるのを必死でこらえていたんだ」


母は少しだけ口角を上げ、箸を置いて俺をじっと見た。

「まあ……いちいち匠のやることに驚いていたら、きりがないわね。匠なら“そういうもの”だと思っておくことにするわ」


(いや……あの状況で平然と座っていられた母さんの方が、正直すごいと思うよ)

心の中でそう呟きながら、俺はそっと椀に手を伸ばし、お吸い物を口に運んだ。


出汁の香りがふわりと鼻に抜け、優しい旨味が口いっぱいに広がる。

緊張で強張っていた気持ちが、少しずつほどけていくような味だった。


向かいでは、母が穏やかな笑みを浮かべながら箸を進めている。

優子も「美味しい……」と小さな声でつぶやき、頬をほんのり赤らめていた。


高級料亭の空気にまだ慣れないながらも、家族で囲むこの時間が何とも心地よかった。


「私もそう思うことにする」

優子は笑みを浮かべ、嬉しそうに刺身を口に運ぶ。


「でも、今日は本当にすごく楽しかったわ。相馬家の家族になって良かったって、心から思えたの。胸がドキドキして、ずっとワクワクしてた」


母も優子も笑顔になり、湯気の立つ鍋を小鉢に取り分けながら、家族のように自然に会話が弾んでいく。

料理の味とともに、会長に会えた余韻がじんわりと胸に広がっていた。


***


翌日、新幹線で研究所に戻ると、会長から「来月、研究所を訪問する」とのメールが届いていた。


母も優子も目を輝かせて大喜びだ。

一方、父は腕を組みながら、「あんな有名な会長が本当にここに来るのか……?」と半信半疑の顔をしている。


***


2008年7月――


あれから優子と二人で、AIプログラム構築のためのプラットフォーム作りに没頭してきた。

イメージとしては、AI関数ライブラリのようなものだ。


関数に引数を与えて呼び出すだけで、AIネットワークの構造を自由自在に設計できる仕組みを組み上げていく。


この仕組みさえ整えておけば、開発するシステムごとに最適なネットワーク構造を簡単にアレンジできる。


会長へのプレゼンも視野に入れ、俺と優子は毎日遅くまで作業を続けていた。

天井に固定したプロジェクターや、大型スクリーンも準備済みだ。


さらに、会長用に立派な椅子を研究所の中央に据えた。

さすがに、パイプ椅子に会長を座らせるわけにはいかないからな。


(そうだ……会長のお付きの人も何人か来るはずだ。椅子は余分に並べておかないといけないな)


***


約束の日――


いよいよ鈴森会長が到着する時が近づいてきた。

窓から覗くと、ビルの前に黒塗りの高級車が4台連なって停まるのが見える。


やがて後部座席のドアが開き、鈴森会長が姿を現した。

その瞬間、テナントの社員や秋葉原の通行人たちがざわめく。

誰もがテレビで見たことのある人物が、なぜこんな場所に……と驚きの視線を向けていた。


相馬家の家族は、揃ってビルの前に立ち並び、深々と頭を下げる。

「研究所にお越しいただき、本当にありがとうございます」


父は、目の前に現れた大物を見て呆然とし、驚きが隠せない様子だ。

母は微笑みを浮かべながらも、緊張から背筋をピンと伸ばしている。

優子は小さな手を胸の前でぎゅっと握りしめ、顔を少し紅潮させていた。


家族の中で一番緊張しているのは、やはり父だった。

視線を合わせることさえ恐れ多い、という表情だ。


会長は軽く頷くと、秘書や随行の者たちに囲まれながら、8階の研究所へと向かう。

俺たちも同じエレベーターに乗り込み、心臓の鼓動を必死で落ち着けながら、ゆっくりとドアが閉まるのを見つめていた。



ここまで、お読みいただきありがとうございます。


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