飛び込みでプレゼン
セキュリティソフトを持参し、「何とかなるさ」で飛び込みでプレゼンでもしてみるか!
事前にアポを取っても、却下される可能性が高いと思うしね。
K社の本社は東京じゃないから、新幹線で移動することになる。
9歳と8歳の子供2人だけで新幹線に乗ると、迷子扱いされるかもしれないな!
母に引率をお願いするか。
母に引率をお願いしたら……
「子供2人だけで、そんな遠くまで行かせられるわけがないでしょ! 私が連れていくに決まっているわ!」と怒られる。
***
数日後――
母に引率してもらい、3人で新幹線に揺られている。
ありがたいことに、母は何をしに行くのか聞かずにいてくれる。
優子は事情を知っている。
膝の上で手をぎゅっと握りしめ、もう緊張で表情が硬い。
……そりゃ、俺だって緊張するさ。
でも、行動しなければ何も生まれない!
新幹線を降り、小さなキャリーバッグをゴロゴロと引きながら、広いコンコースを歩く。
中にはノートパソコンが入っている。
歩きながら、優子と声を潜めてプレゼンの手順を再確認。
ビジネスマンならよくある光景だが、小学生二人がやれば、どう見ても奇妙な子供にしか見えないだろう。
駅を出て、タクシー乗り場で車に乗り込み、運転手に「K社の本社までお願いします」と告げる。
エンジンの振動に揺られるうち、鼓動がさらに早まっていく。
ほどなくして、本社ビルの前に到着。
ガラス張りの巨大なビルを見上げて、思わず息をのむ。
「……この企業の頂点にいる人に会うのか……」
怖さと同時に、不思議とワクワクもこみ上げてくる。
(怯んだら負けだ……気合を入れろ!)
どうか、受付で門前払いされてUターンする羽目になりませんように。
前世であれだけ不運を味わったんだ。今回は少しくらい幸運をくださいよ、神様!
俺たちは真っ直ぐ受付へ向かって歩いていく。
子供二人と、その母親らしき人が並んで受付に立つ。
俺が先頭に立って堂々とした態度を取ったせいか、受付の女性は一瞬驚いたように目を瞬かせた。
どうやら「社員の家族が訪ねてきた」と勘違いしたらしく、声のトーンが柔らかい。
『ひょっとしたら、取締役のお孫さんかもしれない』と思っているのかもしれないな。とにかく、やけに丁寧に対応してくれる。
(……いや、K社とまったく縁のない俺からすると、恐縮するばかりなんだけど!)
だが、ここは堂々と振る舞っておこう。
優子を見ると、不安そうな表情だ。額に「不安」という文字が浮き出ているよ。
まあ、それが普通だよな。
俺も同じだけど、不安スイッチを強制的にOFFにしている。もちろん、そういうイメージを心に描いただけだけどね。
当然のように受付のお姉さんに伝える。
「鈴森会長をお願いします。アポは取っていませんが、大事な用事です」
この勢いで押し通すしかないだろう。
お姉さんは、俺の堂々とした態度から、会長のお孫さんではないかと、勝手に思い込んでいるようだ。
「少々お待ちください。すぐに連絡をお取りします」
何度もペコペコしながら、会長室に連絡を取っている。
受付から連絡をもらった会長も、「何か変だな……」と思いつつ、小さい子供2人とお母さんが私に相談に来たということは、何か特別な事情があるのかもしれないと、5分だけ時間をとってくれる。
3人は会長室へと案内されていった。
会長フロアの廊下には分厚い絨毯が敷かれており、あまりにフカフカすぎて歩きづらいほどだ。
すれ違う重役たちも、こちらを一瞥すると、まるで「会長のお孫さん」と勘違いしたかのように、わざわざ立ち止まって丁寧に会釈してくる。
やがて、重厚な会長室の扉が開いた。
圧倒的な存在感を放つ扉の奥へと足を踏み入れた瞬間、胸の奥から緊張が一気にこみ上げてくる。
俺はキャリーバッグを開け、プレゼン用のノートパソコンを取り出した。
優子に目配せをして、準備を始めるように合図を送る。
(怯んだら負けだ……!)
心の中で何度も繰り返し叫ぶ。
一度死んだ人間は強い。失敗しても、怒られるだけだ。
命まで取られることはない。
「この度は、突然の訪問にもかかわらず、お時間をいただきありがとうございます。相馬匠と申します。会長にぜひお話ししたいことがあり、参りました」
小さな子供が堂々とした挨拶をしたものだから、会長の口元に自然と笑みが浮かんだ。
「で……お話とは何でしょうか……?」
声のトーンも柔らかい。子供を相手に怒鳴って泣かれては困ると考えたのかもしれない。
だが、その温和な笑顔とは裏腹に、会長の体から漂う圧倒的なオーラに気圧されそうになる。
数多の修羅場を潜り抜けてきた者だけが持つ、威圧感と風格だ。
下手な嘘など、この人の前ではすぐに見抜かれてしまうだろう。
怯んだら負けだ……もう一度自分に言い聞かせ、お腹に力を込める。
「AIを搭載したセキュリティソフトを開発しました。ぜひ会長にご覧いただきたく思います。どうか、よろしくお願いいたします」
会長の眉がわずかに動く。
(……AI? セキュリティソフト? 何のことだ? )
一瞬「技術部門の社員の子供か? それとも部屋を間違えたのか?」と首をひねり、秘書に視線を送る。
だが、必死に言葉を紡ぐ子供を前に、会長は「とりあえず話くらいは聞いてやろう」と心を決めた。
この部屋で大泣きでもされたら予定が狂う。何より、ここまで堂々と扉を叩いた勇気に免じて。
(退屈な内容だろうが……少し褒めてやって、帰りに机の上のチョコでも渡してやるか)
会長はそう心の中で呟きながら、静かに俺たちのプレゼンを待った。
「では、概要を1分で説明させていただきます」
俺はノートパソコンを開き、画面を会長に見せながら、スライドを手際よく切り替えていく。
専門的な言葉を交えながらも、要点を分かりやすくまとめる。
会長の目がわずかに細められる。
(……ふむ、このシステム……もし本当に動くのなら、なかなかのものだぞ)
重役のような鋭い視線で俺を見つめながらも、内心では驚きを隠せないようだ。
(……何者だ、この子は……。理論の背景や論文まで正確に引用し、淀みなく説明している。理解していなければ、こんな説明はできまい)
「これは、本当に君が作ったのかね?」
会長が身を乗り出し、じっと俺の顔を見つめる。
「はい。私が理論を構築し、妹がプログラムを組みました」
隣の優子が緊張しながらも、しっかりと頷いている。
「……ちゃんと動くのか?」
「はい。ノートパソコンは2台あります。ネットワークで接続しましたので、片方からウイルスを送り込みます。その上で、もう一方のノートパソコンがそのウイルスを駆除する様子をご覧ください」
俺は画面に視線を戻し、実演の準備を整える。
「処理の流れは、アニメーションを使って分かりやすく表示します。もし可能でしたら、セキュリティに詳しい方を呼んでいただければ、さらに専門的な解説を加えられます。専門家の方であれば、このソフトの優秀さを正しく評価していただけると思います」
会長の目に、さっきまでの「子供扱い」の色は消えていた。
今はただ、未知の才能を測ろうとする、真剣な眼差しになっていた。
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