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転生して未来を変えろ  作者: ゲンタ


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優子は、こちら側の人間か?

簡単なプログラムなら、もう作ってみたわよ。すごく楽しかった。作ったコードを見てくれる?」


優子はノートパソコンを抱えて、誇らしげに俺の前へ差し出す。指先はまだぎこちないが、目の奥は輝いていた。


(もうこんなプログラムが書けるのか……すごいな)

俺は画面に視線を落としながら、内心で驚きを隠せなかった。


(ひょっとして、優子は……こちら側の人間か? 両親は、俺を基準にしているから気付いていないかもしれないけど)


俺は思わず口元を緩める。

(仲間ができた……やったな……!)


胸の奥がじんわり熱くなる。妹というだけでなく、理解者が加わったような心強さを感じた。


***


2008年1月――


秋葉原ビルの新居で迎える初めての正月。

昨年は怒涛のような一年だった。ビルが完成し、そして妹ができた。


元日の朝、家族そろって屋上へ上がり、ビルの谷間から昇る初日の出を眺める。

冷たい空気に頬を刺されながらも、皆の顔は晴れやかだった。


「きれいだね……」と優子がつぶやく。

彼女の表情はどこか安堵していて、心からリラックスしているのが伝わってくる。


(幸せな人生を歩んでいると、みんなが思っているんだな。その余裕が、正月をこんなにも心地よいものにしてくれるのかもしれない……)

俺は家族の笑顔を見渡しながら、静かにそう実感していた。


早朝、家族全員で着物に着替え、神社へ初詣に向かう。

冬の空気は身を刺すように冷たいが、背筋が伸びる。


俺は神様にお世話になっているし、伝えたい報告もあるから、自然と祈りは長くなる。

目を閉じて手を合わせると、隣で同じように長い時間をかけて祈る家族の姿が視界の端に映った。


(そうだよな……それぞれ、いろいろあったからな……)


祈り終えて振り返ると、皆どこか晴れやかな表情をしていた。


***


家に戻ると、母が張り切って台所に立つ。

今年は優子がいるので、いつにも増して力が入っているようだ。


優子も嬉しそうにエプロンをつけ、慣れない手つきで野菜を切ったり盛り付けを手伝ったりしている。


「これでいい?」と不安げに母へ尋ねる優子。

「上手よ、優子!」と母が満面の笑みを返す。

二人のやりとりを見ていると、こちらまで温かい気持ちになる。


一方、父は昼前だというのに、すでに顔を赤らめて上機嫌だ。

「正月だからな」と笑いながら盃を傾けている。


(毎年こんな幸せな正月が続けばいいな……)


小さな女の子の世話をしたかった母としては、夢が叶ったようで楽しくて仕方がない様子だ。


あれから頻繁に優子と二人で出かけ、女の子用の洋服や小物を両手いっぱいに抱えて帰ってくる。


買い物袋を並べながら「かわいいでしょう」と笑う母と、照れながらも嬉しそうに頷く優子。

母娘そのものの光景に、自然と胸が温かくなる。


会話の弾む声がリビングに響き、家の中は柔らかな笑い声に包まれていた。


母が、優子の口から叔父夫婦の家での生活を聞いている。

もう叔父夫婦の家に戻ることはないので、優子もいろんなことを話し始めた。

その中で耳を疑う事実が出てくる。


なんと優子は、小学校に行かせてもらっていなかったのだ。


「な、なんですって……?」

母の顔がみるみる険しくなっていく。


(村岡の意地悪ババア……小学校にさえ行かせないなんて、あまりにも酷すぎる!)

(不登校の俺が偉そうに言えた義理じゃないけど、自分の意思で学校に行かないのと、行かせてもらえないのとでは、意味がまったく違うんだ……!)


母の中で何かがバチンと弾ける音が聞こえた気がした。

目の色を変えて、優子の両親が亡くなった後の経緯を根掘り葉掘り聞き始める。


俺と父も黙っていられず、怒りを押し殺した顔で耳を傾けていた。

やがて母が低い声で言う。

「……平山弁護士を、すぐ呼びましょう」


(母さん、また怒りのスイッチが入ったな……!)

もちろん、俺と父の胸の中でも同じ火が燃えていた。


さすがに正月の真っ最中に呼ぶのは気が引ける。

日を改めることにする。


***


1月5日――


至急の連絡を受けた平山弁護士が、すぐにやって来てくれた。

「他の用事を後回しにして来ましたよ!」と言いながらも、嫌な顔ひとつせずに玄関に現れる。


頼りになる弁護士――いや、我が家の最強の味方だ。


母がすぐに優子の横に座り、彼女の言葉を補いながら事情を説明していく。

平山は、ところどころで、優子に事実かどうかを確認した。


優子は少し緊張した顔をしていたが、母に背中を撫でられ、震える声で叔父夫婦の仕打ちを語っていった。

俺も父も、拳を握りしめながら黙って聞いていた。


「2006年11月、帰宅するお父さんを、優子のお母さんが駅まで車で迎えに行ったそうです。ところが駅からの帰り道で交通事故に巻き込まれ、両親ともに帰らぬ人となってしまいました……」


母が言葉を切り、優子の肩をやさしく抱き寄せる。小さな体がびくりと震え、優子の目が潤む。


「その時点で、優子にとっての親族は――両親の親たち四人と、お父さんの弟である叔父夫婦だけになりました」


母の声に怒りと哀しみが混じる。俺と父も黙ったまま耳を傾ける。


「叔父の亮太は気が弱く、頼りない性格の男。そして妻の明美は気が強く、意地の悪い女です。先日明美には、お会いになっていますからおわかりだと思います。二人は同じスーパーで働いていて……亮太は明美が怖いらしく、何でも言いなりです」


母が冷たい目を細める。優子は小さく頷き、唇を噛んでうつむいた。


「事故の夜、病院から両親の訃報を知らされ、叔父夫婦と両親の親たちが駆けつけたのですが……」

母は一瞬、声を震わせ、深く息を吐く。


「――その病室で、誰が優子を引き取るか、という話を始めたといいます」

父の顔がさっと赤くなり、机を叩きそうになるのをぐっと堪える。俺の胸も煮えたぎるようだった。


「両親の親たちは、“高齢で生活も苦しい”と理由を並べ、最初から引き取りを拒否しました。そして叔父夫婦もまた、“生活が苦しい”と拒否したそうです」

母の声が低くなり、目には怒りが宿っている。


「……最終的に、気の弱い叔父が説得され、結局優子を引き取ることに決まったのだとか……」


話を聞きながら、優子は小さく肩を震わせていた。

その小さな姿が痛々しくて、俺の胸の奥にも怒りと哀れみが入り混じる。


(優子がいる前で……よくもまあ、そんな酷い話ができたもんだな……!)


「両親の火葬が終わると、優子は親戚たちと共に遺骨を抱えて帰宅したそうです。両親の親たち4人は、遺骨を一度拝んだだけで、そそくさと帰っていったとのことでした」


(この4人は高齢とはいえ……あまりに冷たすぎる。優子は本当に、親戚に恵まれていなかったんだな……!)


「そして、自宅に優子と叔父夫婦だけが残ると、明美(あけみ)の態度が一変したのです。『この子を引き取るには金が必要』と言わんばかりに、勝手に家の中を探し回り、両親の通帳と印鑑を見つけるや否や、自分のバッグに入れてしまったそうです」


(優子の両親の死亡届が提出される前に、預金を下ろしてしまおうという魂胆が透けて見えるぞ……!)

(それは明らかに泥棒だぞ……!)


「しかも、通帳と印鑑を奪ったにもかかわらず、優子は三日間、自宅に置き去りにされたそうです。どうしたらいいのか不安でたまらなかったとき、イライラした様子の明美が突然やって来て、半ば強引に叔父の家へ連れて行かれたというのです」

「……その後の優子への仕打ちは、皆さんが先日ご覧になった通りです。以上が、優子から聞き取った内容になります」


「優子さん、今のお話はすべて事実で間違いありませんね?」


「はい……本当です」

答えながら、優子はその時の記憶が甦ったのか、小さな肩を震わせ、今にも泣き崩れそうになっている。


両親の貯金をネコババしたからこそ、形だけでも“養育している”という証拠を残す必要があったのだろう。だが、その仮面が剥がれると、最後には自分の手を汚さず、優子に「勝手に出て行け」と仕向ける――まったくもって酷すぎる話だ。


平山弁護士は、ペンを走らせながら母の話を一語一句もらさず記録している。その眼差しは真剣そのもので、叔父夫婦がネコババした金をどうやって取り返すか、頭の中で幾つもの作戦を組み立てているのだろう。



ここまで、お読みいただきありがとうございます。


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