株式投資でビルの建設費を稼いだよ
2006年3月――
父の証券口座の残高が、1億円に増えた。
その口座では信用取引が使えるので、ゲーム会社の“ニ……”を、信用取引で2億円分購入する。
この株を年末近くまで持っていれば、3倍にはなるはずだ。
もちろん、俺の口座でも6.4億円で同じ銘柄を全力買いしておく。
俺の方は、2007年末まで保有する予定だ。
俺の株式投資必勝理論を信じてもらっているのか、父はビルの設計に熱中している。
やっぱり、父は技術屋さんだなと、つくづく思う。
もとは建築設計の技術者だし、何と言っても自分のビルだ。
実に楽しそうに設計している。
父は、こういうコツコツと積み上げる仕事が向いていると思う。
ビルの9、10階を自宅にし、8階は父の会社と、自分の研究所にする。
1階から7階まではテナント向け賃貸にして、家賃収入が入るように父にお願いしておいた。
俺の希望を聞きながら、ビルの設計を楽しそうに進めている。
人気のテナントビルにするぞと、設計にも張り切っている。
ところで父の設備工事会社だが……
業務変更と名称変更を行い、「AKビル管理」という名前で変更登記する。
(ビル管理の仕事ならコツコツ型だし、父さん向きだと思う……)
さて、俺にはどんな仕事が向いているのかだけど?
やっぱりコツコツ派かな。
研究コツコツ型だ。性格は遺伝しているみたいだ。
きっと、多くの社員を使うのは不得意だと思う。
ビルの設計が終われば、次は施工費用の積算だ。
積算した予算を基に、施工業者を選定することになる。
「建設会社に全部お任せします」なんてことはしないみたいだ。
2006年中は、いろいろやりながら、父は忙しく過ごすことになるだろう。
2007年から工事が始まれば、進捗状況と工事の品質をチェックだな。
手抜き工事なんかされたら、株で稼いだ儲けなんて簡単に吹き飛ぶからね。
施工内容と工程をチェックしながら、テナントの募集。
ビルが完成すれば、ビルの設備管理と、忙しいほうが、やりがいがあっていいと思う。
***
2006年12月――
父の証券口座の投資資金は、4.8億円まで増えた。
俺はまだゲーム会社の株は売らずに持っているが、資産評価はざっと19億円になっている。
4.8億円は、ビル建設の工事費でほとんどなくなるし、銀行の借入金の返済もある。
両親にお金を4.8億円まで増やしたことを伝えても大丈夫かな。
「匠がそんなに簡単にお金を作れるなら、働かなくてもいいか……」
……とか、きっと俺の両親は思わないと信じたい。
俺の証券口座が5000万円に増えた話の後で、
「ビルの建設費を株式投資で作って見せる」と宣言した後も、父はビル設計に夢中になっていたし、母もパートで働いていた。
外食が増えたりもしていないし、着るものが立派になったりもしていない。
父は、ビルの建築費は銀行から借りようと思っているのかもしれないな。
いずれにしても、今のところ日々の生活は何も変わっていない。
両親は、お金でおかしくなるような人じゃなくて良かった。
小学校に行きたくない話をした時のように、今回もダイニングテーブルで、両親と向き合って座っている。
両親をしっかり見つめて、父から証券口座に入金してもらった1000万円を、4.8億円に増やしたことを伝える。
その話を聞いて、両親はしばらくの間、口が開いたままになった。
4.8億円という金額に、理解が追いついていないようだ。
「匠が言っていた株式投資必勝理論は本当だったのか……」と思っているのかもしれない。
しばらく時間が経過した後……
「匠はすごいな。どうやってそんな金額に増やしたのか、父さんも母さんも想像がつかない。金額に心臓がドキドキして考えがまとまらないが、匠が作ってくれたお金だ。大事にビル建設に使わせてもらうよ……」
「ん〜、待て、待て……。株式投資でお金を増やした話は、外で話したりしたら絶対ダメだぞ。7歳の子供にそんな才能があることが世間に知られたら危険だ。本当に危険だぞ……!」
両親は、お金のことより、俺のことを心配してくれているみたいだ。
普通、1000万円がそんなに増えるとは思わないから、理解が追いつかなくて当たり前だと思う。
俺だって、前世の記憶がなければ怖くて、こんな相場なんか張れない。
「……株式市場というのは常に変化していて、景気や金利、為替や国際情勢といった要素のいずれかが動いたのかもしれない。あるいは、前提としていた条件そのものが少しずつずれてきているのかもしれないんだ」
少し肩をすくめて補足すると、母は腕を組み、父は顎に手を当てて神妙な表情になる。
「つまり、勝率が落ちてきている以上、ここで無理に続けるのは危険だということだよ」
俺の言葉に、父は深く息を吐き、母はほっとしたように頷いた。
またまた適当なことを言っている。
それでも両親は、「匠が言うのなら、そうかもしれない」と信じてくれているらしい。
(困ったら、いつでも株でお金を作れる……なんて思われない方がいいからな!)
「分かっている、分かっている。世の中とは、そういうものだよ」
父が苦笑しながら頭をかき、母も微笑みながらうなずく。
「簡単にはお金が儲からないようになっているのだよ」
そう言って、二人ともどこか嬉しそうな顔をしていた。
悲惨な未来と決別して、この人生は着実に良い方向に向かっている気がする。
前世の悲惨な人生に、揺り戻そうとするようなイベントなんかは、起こらないでほしいな。
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