学校の経営難に感謝
「銀行預金に父さんの退職金がそのまま入っているから、そこから1000万円を出そう。だが、300万円以上の損が出たら即刻止めるのだぞ! これは約束だぞ」
(3割損したら止めるというのは、株式投資の初心者がよく言うセリフだ……)
(とにかく許可してくれて、ありがとう父さん……!)
「任せてくれて、ありがとうございます。ところで、父さんは証券口座を持っている?」
「持っているよ! だいぶ前に通信会社の株を1回買っただけだ。そのときに損をしたから、それ以後は1回も株式投資をしていない」
「後でアカウントとログインパスワード、取引パスワードの3つを教えてください。それと、証券口座に1000万円を入金しておいてください。お願いします」
「2006年の間に、できるだけお金を作るので、父さんは10階建てのビルを設計しておいてください」
次の日、父が証券口座に1000万円を入金してくれた。
パソコン画面から信用取引もできるように申請しておく。
これで準備OKだ。
実は、来年1月に“ラ……ショック”があるのだ。
これを利用させてもらおう。
さっそく、“ラ……”の株を信用取引で2500万円分空売りしておく。
***
2006年1月――
前世の通り、“ラ……ショック”が起こり、株価は大暴落する。
でも、少しドキドキした〜!
(父さんのお金は、絶対失敗できないからね……!)
(本来は、絶対失敗できないお金で株を買ったらダメなのだけどね……!)
株の本なら、どれにも書いてある。
「余裕資金でやりなさい」と。
1月末近くになって、株を買い戻して精算する。
投資資金を約1億円に増やすことに成功する。
***
2006年2月――
もともと人気がなくて……少子化の影響で経営が一段と苦しくなった私立の小中一貫校を、昨年のうちに探しておいた。
入学試験はあるものの、受ければ全員合格みたいだ。いわゆる“全入”ってやつ。
口コミを調べても良い評価は一つも出てこなかった。
だが、世間の評価が悪くても、不登校志望の俺にとっては光り輝いて見える学校だ。
お金になりそうな入学者がどうしても欲しい学校なら、交渉の余地は必ずあるはずだ。
2月中旬に学校見学会が予定されていた。
急いで申し込みを済ませ、母に行ってもらうことにした。
数時間後――。
帰宅した母は、少し疲れた顔をしてコートを脱ぎながら、ソファに腰を下ろした。
「経営が苦しいのかしらね。修繕費用が足りないみたいで……昔は豪華だったのかもしれないけど、校舎も教室もかなり古びていたわ」
母は苦笑しつつ、両手を広げて古い建物を思い出す仕草をした。
「キャンパスの豪華さに憧れるような保護者だったら、すぐに候補から外すでしょうね」
「……もちろん授業参観もしたのよ」
母は腕を組んで首を傾げる。
「だけど、公立の授業とあまり変わらなかった。公立より高い授業料を払う理由が、正直見当たらなかったの。教育の質こそが大事だと思う保護者は、ここを選ばないでしょうね」
ため息をつきながら、母は髪をかき上げた。
「そんなことを考えていたら、校長を兼務している理事長さんに声をかけられたのよ。とにかく腰が低い人で、丁寧すぎるくらいだったわ」
母は少し身を乗り出し、声を落として続ける。
「匠の言っていた交渉のタイミングだと直感して、“子供が学校に行きたくないと言って困っているんです”って切り出してみたの」
「……すると、その校長は揉み手までしながら、“この学校にはそういう親御さんも多く来られていますよ”って言ってくるのよ」
母は手を擦り合わせる仕草をして、呆れ顔になった。
「さらに、“今からお話しするのは、寄付金をお願いできる保護者にだけ伝えていることですが……”って。どうしようか迷ったけど、聞くだけ聞いて損はないと思って続きを促したの」
「……“学校で配布する課題を自宅で学習し、保護者がコメントを書いて返送してもらえれば、登校しなくても出席扱いにできます”……そう説明されたわ」
母は目を丸くして肩をすくめた。
「“この学校は個性を大事にしています。保護者の要望にもお応えできます”って。どうしても寄付金を取りたいのが見え見えで、校長というより営業マンと話している気分だったわ」
少し間を置き、母は苦笑しながら両手を広げる。
「それでも匠に入学してもらいたい一心で、学校の良いところを一生懸命説明してきたの。私が見た範囲じゃ良いところなんてなかったけど、“見方を変えれば素晴らしい”って力説されたわね」
「……なるほど、そういう子供が集まる学校なんだと思ったから、寄付金の金額を確認して、その場で入学手続きを済ませてきたわ。入学試験は免除だって……まあ、当然のことよね」
(俺には理想の学校だ。ありがとう母さん、グッドジョブ……!)
お金もあるし、問題まったくなしだよ。
しかし世の中、いろんなニーズに対応したビジネスがあるものだと感心する。
母は、その学校は俺が卒業するまで、地震などで校舎が壊れないか心配らしい。
そんなに古い校舎だったのかな?
しかし登校しないわけだから、どんな校舎だろうと関係ない。
とにかく俺は、その学校のおかげで堂々と不登校ができる。
学校の経営難に感謝だ!
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