ダメ家族になられても困るのだ
それにしても、示談金が4,000万円入ってきても、銀行から借りているのが6,000万円もあるから、借金残高は2,000万円もある。
実際には、弁護士報酬を6%ぐらい払っているから、借金残高は2,000万円より多くなる。
父は秋葉原のボロビルを売却して、その借金をチャラにするつもりなのかな。
残務整理は半月ぐらいかかるらしいけど、父の見通しでは、会社に残るお金はほとんどない見込みらしい。
(……なんだよ、それ! 前世の結末よりは数百倍いいけど……!)
それにしても、いったいどんな見通しで商売していたのやら。
お祖父ちゃんは1990年前のバブルが、またやってくると信じていたのだろうな。
少なくとも俺が生きていた2013年までに、そういうのはなかったよ。
父も今回のことを、大いに教訓にしてほしい。
本当に早く会社を畳んでもらってよかった。
(父さんはエンジニアとして、会社に雇われている方がいいと思う……!)
自分で会社をやるにしても、小規模な会社を個人ベースでコツコツとやるのが向いているよ。
さて、現在の相馬家の問題は、借金がある上に、父が無収入状態なことだ。
「早く転職先を探さないといけないな……」
「大丈夫! 私もパートの仕事を増やすから!」
夫婦の微笑ましい会話なのだけど……
その様子を見ても、俺はホンワカできない。
現実のことを考えないといけないからね。
父は無収入になり、銀行の借金に対する返済は毎月きっちり発生する。
住んでいる家の家賃だって、水道光熱費や、諸々の生活費もかかる。
それに「入学金や授業料の高い“曰く付き”の私立小学校に通いたい――いや、不登校のまま籍だけ置きたい」と主張している子供までいる。
建設不況だから、建設業界での職探しは難しいだろう。
ヤクザな消費者金融に追いかけられていないことは良いのだが、経済的には大ピンチでしょ。
秋葉原のボロビルを売れば、銀行の借金はなくせるが、不動産なんてすぐに売れるものではない。
(俺としては、秋葉原のボロビルは売らないでほしい……! そこに、自分の会社を作りたいからね)
とは言うものの、倒産危機に備えて、お金を6.4億まで増やしているから大丈夫だけどね……。
(しかし……「実は6.4億円持っているから、お金のことなんて心配いらないよ」と言ってしまっていいのかな……?)
「何だ、6.4億円もあるのか! もう働かなくてもいいじゃないか。なあ母さん、豪華客船で世界一周でも行こうか」と、両親が働く気を失ってしまう危険がある。
(ダメだ……両親には、真っ当な人でいてほしい!)
会社を畳んでもらい、やっと悲惨な未来を回避できたのに、やる気なしの、ぐだぐだのダメ家族になってしまったら、別の意味で悲惨な未来が到来だ。
父にはこれからも張り切って働いてもらいたいし、母も今まで通りでいてほしい。
では、どうすればいい……。
やる気なしダメ家族にしないためには、父が一生懸命になれる仕事が必要だ。
だったら……秋葉原のボロビルを建て替えるのはどうだろうか?
そうなれば、新しいビルの設計を父にしてもらう。
自分のビルだ、設計にも熱が入るだろう。
ビルができたら、今の会社をビル管理会社に変更し、建て替えたビルの賃料で家族の生活費を稼いでもらうことになるから、ビル管理の仕事で暇にはならないはずだ。
よし、それでいこう。
***
「僕の話を聞いてくれませんか?」
真剣な表情で切り出すと、父は驚いたように目を細めた。
「もちろんいいよ。どうした、何かあったのか?」
「秋葉原のビルを解体して、10階建てのビルに建て替えるというのはどうですか?」
父は言葉を失い、しばらく俺を凝視していた。
「……そんなお金はどこにもないよ」
完全に「賢すぎる我が子の頭がとうとう壊れたのでは」と思っている顔だ。
「僕に、父さんの口座で株式投資をさせてもらえませんか? ビルの建て替え費用を作ってみせます」
「インターネットで勉強して、株取引で絶対に勝てる理論を考え出しました。その理論を使って、母さんに貸してもらった40万円も大きく増やすことができています」
株式投資必勝理論……夢の理論だね……この世に絶対存在しないけどね。
あるよと言われたら、詐欺だと思ってください。
両親ともに株式投資のことはまったく知らないので、どうか詐欺師の俺に騙されてください。
「40万円がいったい幾らに増えたの?」
「約5,000万円になりました」
金額は、微妙な金額に抑えておいた。
5,000万円はあればうれしいけど、そのお金でずっと遊んで暮らすことは無理な金額だ。
両親は「何だって……?」と同時に息を呑み、目を大きく見開いた。
匠なら、もしかしたら株の必勝理論を本当に見つけたのかもしれない――そんな顔だ。
(よし、うまく騙せたかな……?)
母がふっと表情を和らげる。
「でも、それは匠が将来会社を作るために増やしたお金でしょ? 私たちが使うわけにはいかないわ」
父も頷き、真剣な口調で言った。
「そうだぞ、匠。お前の将来のために使うべきだ」
……良い展開になってきた。
「1年ぐらい使わないお金があれば、僕に預けてくれませんか!
必ずビル建て替えの費用に役立つだけのお金を作ってみせます」
俺は拳を握り、強い眼差しで訴えた。
重い沈黙が、部屋に落ちる――。
ここまで、お読みいただきありがとうございます。
励みになりますので
ぜひブックマークや評価などをお願いします。




