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転生して未来を変えろ  作者: ゲンタ


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示談か、刑務所か、どちらか選べ!

その日の午後、平山弁護士は会社で仕事をしていた千葉に連絡を入れ、近くの喫茶店で向かい合って座った。

テーブル越しに弁護士を睨む千葉の表情には、苛立ちと警戒心が滲んでいる。


弁護士はメモ帳を開き、淡々と切り出した。


「千葉さん、あなたはB社と共謀して、少なくとも10年近く横領を続けてきましたね。その件については、B社の社長もすでに認めています。しかも、不正な納入をB社に持ちかけたのは、あなた自身だそうですね?」


千葉の頬がわずかに引きつる。だが弁護士は表情を変えず、静かに続けた。


「刑事告訴されて刑務所に入るか、それとも金銭を支払って示談にするか。選択肢はその二つです」


冷徹な声音で突きつけられ、千葉の顔はみるみる蒼白になっていった。


「刑事告訴されれば、2年以上の実刑判決が下るでしょう。執行猶予はつきません。刑務所行きは確実です。これは私が弁護士として申し上げているのですから、間違いありません」


千葉は唇を震わせ、かすれた声で問い返した。

「……示談にするには、いくら払えばいいんだ?」


平山弁護士は一気に畳み掛ける。


「商品納入の不正に基づく会社の損害賠償額4,000万円。そのうち40%、1,600万円があなたの負担分です。2週間以内に、こちらの口座に送金してください」


千葉の目が大きく見開かれ、次の瞬間、血走った目で弁護士を睨みつけた。

「そんな大金、持っているわけがないだろ!」


平山弁護士は眉ひとつ動かさず、淡々と返す。

「B社の社長は、必死に資金を工面して支払うと約束しましたよ」


「……刑務所に入りたくなければ、どこかから借りてこいってことか。つまり俺を脅しているんだな!」


「私は脅してなどいません。あなたの置かれている現実と、選択肢を説明しているだけです」


静かに言い切る弁護士の目は、氷のように冷たかった。


「ただし実刑となれば、出所後は前科がつきます。仕事探しは容易ではないでしょうね」


平山弁護士は一拍置き、さらに言葉を重ねた。

「それに……あなたの奥様も共犯です。次は奥様にお話を伺うことになるでしょう」


妻の名が出ると、千葉は一瞬目を泳がせ、深い沈黙に沈んだ。

拳を握りしめ、顔を伏せたまま長い時間が過ぎる。


やがて搾り出すように声を発した。

「……相馬は、何と言っている」


平山弁護士は口角をわずかに上げ、冷ややかに応じた。

「少なくとも、ニコニコはしていませんよ」


千葉は顔を上げ、悔しそうに歯を食いしばる。

「……相馬に会わせろ!」


「私に依頼したのは相馬さんですよ。相馬さんは刑事告発を要望されていました。示談交渉を提案したのは、むしろ私なのですよ」

「……刑事告発されれば、あなたは警察に身柄を確保され、警察での捜査、その後は検察へ送検され、裁判に至るまで長い勾留が続きますよ。もちろん奥様も同様です」


「分かった。示談に応じる。ちくしょう、相馬の野郎」


「では、この書類にサインしてください。判子は拇印でもいいですよ」


「それと、退職届も書いてもらえますか……奥さんの分は郵送でもいいですよ」


これで千葉との交渉が終わる。


***


翌日――


会社に出勤すると、千葉夫婦の姿はなかった。

千葉夫婦がいつまでたっても出社しないので、社員の一人が不安そうに声をかけてくる。


「社長……千葉さんたちはどうされたのですか? 何か聞いていますか?」


父は机に書類を置き、社員たちを鋭い目で見渡した。


「千葉は製品の不正納入に関わり、納入業者から裏金を受け取っていたことが判明した。横領罪で刑事告発する。夫婦そろって刑務所に入ることになるだろうな」


その言葉に、社員たちの顔色が一斉に青ざめる。

視線を泳がせ、互いの表情を探るように落ち着きなく身じろぎした。


父は机を軽く叩き、低い声で続けた。


「ところで……お前たちはまさか、千葉から金をもらってはいないだろうな。思い当たる者は、退職届を置いて即刻立ち去れ。そして、二度と会社の敷居をまたくな。そうすれば告訴はしない。ただし、退職金は一切出さん!」


沈黙のあと、慌てて引き出しから用紙を取り出し、退職届を書き殴る音が事務所に響いた。


社員たちは顔を上げることもなく机に退職届を置くと、荷物も持たずに逃げるように会社を後にしていった。


扉が閉まった後の事務所には、重い沈黙だけが残る。

彼らの背中を見送ることはない。二度と会うこともないだろうが、告訴を免れただけでも感謝すべきだ。


しかし――これで全てが解決したわけではなかった。


***


翌日――。


なんと千葉が自宅に怒鳴り込んで来た。

玄関前で仁王立ちになり、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしている。


「今まで散々会社に尽くしてやったのに、この仕打ちは何だ! 弁護士を頼む前に、一言話をしろよ。お前、やることがいきなり過ぎるだろ!」


工事現場で鍛えた声はやたら通る。近所中に響き渡り、通りがかりの人が足を止めて振り返るほどだ。もちろん、わざと騒ぎを大きくしてこちらを追い詰めるのが狙いだろう。


(どこまでも……卑劣な奴だ……)


俺は父に「部屋にいろ」と言われ、2階に隠れているが、怒声は壁を突き抜けて響いてくる。


大声で威圧すれば全て解決できるとでも思っているのか。

あの祖父さんが、よくこんな奴を社員にしたものだと呆れる。


父の怒鳴り返す声が聞こえた。

「お前が横領したからだろ! 会社にどれだけ損害を与えたか、信用をどれだけ傷つけたか分からないのか? 横領は泥棒と同じで犯罪だぞ。ちょっとしたことじゃ済まない!」


千葉は玄関に仁王立ちしたまま、口角を歪めて吐き捨てる。

「安い給料で働いてやってるのに、ちょっとぐらい何だ! 刑事訴訟とか大げさだろ! あんたみたいな、何も分からない素人社長の言うことを、俺は黙って聞いてやったんじゃないか!」


言葉の端々には居直りの開き直りがにじむ。

そして、不意に声を柔らげ、にやけ顔を浮かべる。


「……ところで、良い酒を持ってきてやったぞ。一緒に飲もうじゃないか! お前の綺麗な奥さんも一緒にどうだ」


卑しさと狂気の入り混じった笑い。場違いな冗談に、空気が凍りつく。

すでに平山弁護士には連絡済みで、すぐに駆けつけてくれるだろうが――それまで耐えるしかない。


(それにしても、何なのだ、千葉という男は。酒1本で話をつけようというのか? しかも大声を張り上げて……常識がなさすぎる……)


だが、ふと気づく。

これは挑発だ。父を怒らせ、手を出させるのが狙いに違いない。


思わず自分の部屋から声を張り上げた。

「父さん、手を出したらダメだよ! こいつの目的は、父さんに手を出させることなんだ!」


俺の叫びに、千葉は舌打ちをして顔をしかめた。

父の拳が震えていたのを見て取り、もう少しだと思っていたようだ。


それでも千葉は帰ろうとせず、玄関先で延々と喚き散らしていた。

怒鳴り声は枯れかけ、それでも意地になって続けている。


やがて1時間ほど経ち、ようやく平山弁護士が駆けつけてくれた。

颯爽と玄関前に立つと、冷ややかな目を千葉に向ける。


「示談ではなく、刑務所をご希望のようですね」


一言で空気が凍りついた。

千葉の顔がみるみる歪み、悔しさと恐怖が入り混じった目を父に向ける。


「相馬……覚えていろよ!」


捨て台詞を残し、弁護士の姿を目にした途端、千葉は逃げるように駆け去った。


平山弁護士は小さく鼻を鳴らし、肩をすくめる。

「まったく、悪知恵ばかり働く姑息な奴だ」


母は深いため息をつき、胸に手を当てた。

「本当にね……私も二度とあの人の顔は見たくないわ。もう来ないわよね」


父はしばらく黙り、固く握った拳をゆっくり開いた。

「さすがに、もう来ないと思う」


その場に、ようやく静けさが戻った。



ここまで、お読みいただきありがとうございます。


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