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第九話:波乱!

 私たちは始業式にて、長い話を聞き、その後錬成のテストが始まった。テストの内容というのが…。


「あなた達にはそれぞれ、素材を渡します。それらを加工し、魔道具を作りなさい」


 机の上に、いくつかの素材が入った箱が置いてある。それを囲むように、私とルグラ、ユニ、フェイルとシャロが座る。


「効果、難易度、完成度が評価点です。制限時間は三十分。では初め!」


 私は箱を漁ると、そこにある素材を見つけた。これってまさか…、子供ユニコーンの角!?これは悪意を消し去ると有名な代物だ!これと…あった。白金鉱(はっきんこう)だ。これは、魔力を広域化させることが出来る鉱石で、これらを加工することでかなり高ランクの御守りを作れる。あとはそこに用意されてた加工道具で形を整えて…、今回はユニコーンの形にした。ユニコーンの角を使ってるからな。そして、その首の部分に白金鉱をはめ込み、錬成。これにて完成だ。退魔の御守りー。


 ルグラも問題なく出来てるみたい。でも問題はユニだ。あの子、まだ錬成すらしたことないだろうに。テスト中だから、アドバイスは出来ないけ…ど!?


 ユニは、ものすごい手さばきで鉱石を削る。目にも留まらぬスピードだ。絶え間なくガリガリと削る音が聞こえる。まさかこんな才能があるとは…。そして出来上がったのは…、小さな城のオブジェだ。先生に見つからないようにチラチラと見てたのだが、心配する必要なかったな。加工技術に置いて、恐らくユニの右に出る者はいないだろう。


「そこまで!」


 サラーサ先生の声がして、みんなが手を止める。そして、それぞれの作品に名札を着け、箱に入れて提出。


「へぇ、凄いわね、四人とも」


「私はそうでも無いよ…、それより、二人のもすごいけど、ユニの作った置物、すごく綺麗」


「確かに、売り物としてバザールに置いても遜色(そんしょく)ない出来だわ」


「ほんと、凄いね」


「見直しました、ユニ」


「ありがと…」


 褒められなれていないのか、ユニは顔を赤らめた。


 その時だ。ドアが開き、その奥から少女が現れた。私は、その少女に釘付けになる。容姿が特殊すぎたのだ。

 動く椅子に乗り、目にはバイザーサングラスのような目隠しを着け、髪は太ももの辺りまで伸びており、完全におしりで踏んでしまっている。


「おはようございますぅ、サラーサさぁん」


「おはようございますではありません、アインゲイルさん!少しは遅刻してきたことを反省してください!」


「遅刻ですかぁ。ちょっと遅れただけじゃないですかぁ」


 アインゲイルと呼ばれた少女は、すごくゆっくりな喋り方で、全ての語尾を伸ばしている。とてもマイペースさを感じられる。


「遅刻は遅刻です!それにもう少し急いできてください!」


「せかせかするの嫌いなんですよぉ、ゆっくりのんびりしましょうよぉ。それに、授業時間はもう少し残ってますぅ」


 そう言うと、ドアから一番近い私たちの机にやってきて手を材料の入った箱に突っ込む。


 すると、箱の中身が淡く輝き、中から物の見事に出来上がったスノードームが出てきた。


「これでいいでしょぅ?」


「ぐ、ぐぬぬ…」


「錬成とは、素材を作りかえ、意味を持たせることであるぅ。それならば、錬成の素材の物質自体を作り替えることも錬成と言えますよねぇ?」


 黙ってしまったサラーサ先生、ニヤリと笑みを浮かべるアインゲイル。その決着を知らせるかのように、授業終わりのチャイムが鳴る。誰よりも早く、アインゲイルは遂にはここに来てから一回も椅子から降りることなく、教室を出ていった。


「ありがとうございました…」


 その後消え入りそうな声でサラーサ先生が呟き、教室を後にする。ガタガタと後を追うように生徒たちはようやっと次の授業のために移動を始めた。


 その次のテストは、魔術実技。フィリア先生の担当だ。


「さて!このテストでは正確性と持続力、そして魔術のレパートリーが評価点だよー」


 なるほど。あの的に当てればいいのか。大小10個の的が用意されている。


「では、早速やってみよー。アインゲイル、トップバッターよろしく!」


「はぁい、わかりましたぁ。『我その手に輝きをなす・我この胸に暁を抱く・我世界の天秤を狂わせ・我世界の均衡を保つ者』」


「あ、ちょ!」


 全く知らない詠唱。全く知らない魔法。魔術の授業というのに、魔法を放つのか。なんだろうこの子、破天荒な性格なのか?


『トール・ハンマー』


 突如、ピシャリと雷が落ちたように、視界が真っ白になり、轟音が鳴り響く。やがて光が収まり、目を開けてみると、前方が焦土と化していた。


「あらら、極力絞ったのにぃ」


「対軍魔法の使用は禁止!」


「ごめんなさい、何も言われなかったのでぇ…」


「常識を知ってよ!あと、これは『魔術』の授業なの!」


「でも、アインツ先生の授業では魔術座学の授業なのに魔法の詠唱を教えてくれますよぉ?」


「あの先生は…、特別なの!それに魔術は座学で学ぶことは少ないから、どうしても仕方ないの!あれは立派な『魔術師』を目指す授業だから、魔法を学ぶのは当然でしょ!」


「そういうことにしましょうかぁ」


 今回はこれくらいで勘弁してやる、とでも言うようににたぁ、と笑う。あの子の印象は今のところ、あまり良くない。そもそもあの動く椅子何なんだ?


「あ、あのさ、フェイル、あの子って…?」


「あぁ、アインゲイルさんだね。ここでの話…」


 コソッと、フェイルが耳打ちする。


「あの人が、星雲隊の一人です。あと二人、生徒に居るんですが…」


「ほんと!?だから先生にも臆することなくあんなこと言えてたんだ」


 何か腑に落ちなかったことがすとんとなくなった。となると、あの椅子も何か私の知らない魔術で作られてるんだろうか?


「次ー、シェルカ!」


「はーい、僕の出番だね!」


 ふと、私の前を少女が通る。胸はないが、それはセクシャルな問題なのであまり触れないことにしよう。たしか、シャロの前に並んでいた子だよな。シャロの後ろが私なので、少し見えた。


「魔法は禁止だからね?」


 アインゲイルの一件以降、フィリアさんは毎度みんなにそう言い聞かせていた。


「大丈夫だよー」


 わはー、とシェルカが笑う。しかし、彼女は独特な杖の持ち方をしているな。右手は拳を握り、そして人差し指と中指で杖を挟む。そして、左手で弓を引くように構え、そして指を開く。


『ラブ・アロー!』


 シュババババッと、何本かの弓が的目掛けて飛んでいく。それはそれぞれ、的の中心を的確に撃ち抜いていった。


「わはー、どんなもんだい!」


「うん、オールクリア!普段の実技で魔術のレパートリーに関しても申し分ないのは知ってるし、きちんと正確性もある!」


 シェルカは二本の指を立て、「ピース!」と笑いながら言った。すると、なにが起きたのか。女子生徒から、黄色い歓声が上がったのだ。


『きゃー、シェルカくーん!』


「わはー、どうもどうも」


 男子生徒達からは、嫉妬と羨望の眼差しを向けられているのか、どこか煮え切らない様子。


「あんな女々しい奴のどこがいいんだか」


「まぁ、女の子はみんな可愛い人が好きだからね?」


「ん?何か変だ…」


 私は少し違和感を感じた。ぺったんこな胸、僕という一人称、それでもあまりある可愛さに、シェルカくんという呼ばれ方…。私の脳がフル回転し、弾き出した答えは!


「あの子、おとこの娘!?」


「何よ、おとこの娘って。ただの女装男子よ」


 若干冷めた口調で、シャロは説明してくれる。うん、男であることに違いはないようだ。もしかしたら、この世界には『おとこの娘』という言葉自体がないのかも。いや、ネットスラングだし、無くても当然か。


「二人はキャーキャー言わないんだね」


「当たり前でしょ。よく見なさい、キャーキャー言ってるのは女子の中でも半数よ。全員って訳でもないわ。それに私は特に好きな人とかいないし。あれが好きじゃないのは分かるけど」


「私は忠告されたから、あまり好きになれないなぁ」


「忠告って?」


 シャロがそう聞いた時、フィリア先生から「次、シャルロッテー」と声がかかった。


「あ、行かなくちゃ。後で聞かせなさいよー」


「しっかりねー」


 フェイルが呼びかけると、シャロは手を振った。二人はほんとに仲良しだな。見たところ、他のみんなとも仲はいいみたいだけど。浮いている印象はない。どちらかと言うと、委員長気質だ。


「で、フェイル。忠告って?」


「あの人も、星雲隊の隊員の一人です。フィリアさんいわく、一二を争う狂人…なのだとか」


「狂人?あの形(なり)で?」


 あの子、男子生徒に嫌われているのかと思いきや、普通に仲良くしてる。まさにクラスの人気者って感じだ。そんなあの子が狂人?少し信じ難い。


「詳しいことは分かりませんが、なんでも愛の表現の仕方が異常なのだとか」


「うーん。確かに…」


 何となくわかる。だって男なのに女子の制服着てるし。それに、フェイルの言い方では、もっとやばい本性が隠れているかもしれない。


「あの、アインゲイルとどっちがやばい?」


「断然前者かと」


 そこまで言えるんだ…。私も少し気をつけよう。遅刻上等、一般常識の欠如、さらにバイザーサングラス状の目隠し。そんなかなり世間離れした属性を持つアインゲイルよりも狂人とは…。


 私を思考から現在に呼び戻したのは、シャロが魔術名を叫んだ時。


『アイシクル・ランス!』


 突き出されたシャロの杖の前に、ガトリングのように氷の槍が十本現れる。そして、それぞれが的に直撃した!


「ほう、あの子もなかなかやるようです」


 そんな上からなルグラだが、彼女なりにシャロを認めているのだろう。ルグラは氷龍。氷のエキスパートと言っても過言ではない。


「うん、お見事!アイシクル・ランスはかなり難易度の高い魔術、そして正確性もある…けど」


 すると、ふらりとシャロの重心が崩れた。それをフィリア先生が担ぐ。


「自分の魔力の底を把握してない、その点は減点かな。少し寝てれば元気になるけど、実践においては命取りだよ?」


 魔力切れだ。なるほど、無理してたのか。すると、ある生徒が手を挙げた。シェルカだ。


「僕が連れて行くよー。医務室までだよね」


『きゃー、シェルカくんかっこいー!』


 私は背筋がぞくりと凍った。まるで喉元に刃物を突きつけられたような気分だ。彼の笑顔には、明らかに狂気を孕んでいた。


「じゃ、お願いしようかなー。さ、次はセッキね」


「は、はい」


 シェルカはシャロを抱き抱え、校舎の方に戻って行った。その様子を、私は呆然と見つめる。すると、フィリア先生は、私にそっと耳打ちした。その言葉が、私には信じられなかった。


「あなたの測定が終わったら、校舎中探してシャロとシェルカを探して。このままじゃ、シャロが危ない」


 シャロが…危ない?ど、どういう…。それを理解も出来ないまま、私の測定は始まった。


 落ち着け、今は…、いち早く、あの二人の元へ!


『レインボー・レイ』


 私は複雑に交差する七色の光を放った。師匠に教えて貰った中でも、かなり高ランクな魔術だ。


「うん、編入生だから不安だったけど、実力は確かだね!でも…」


 フィリア先生は、シャロをそうしたように私を担いだ。


「そのまま動かないで」


 私はフィリア先生に従い、狸寝入りを決め込んだ。なるほど、これで私をこの場から逃がすつもりなのか。


「全く、近頃の若者は無茶がすぎるんじゃない?アイン、連れてってね」


「えぇ、面倒ですぅ」


 アイン、めっちゃ乗り気じゃないんだけど!この子で大丈夫か?


「お願いだよー」


「嫌ですぅ」


「アイス奢るよ」


「やりますぅ」


 即決だな!まぁ、協力してくれるのなら…。フィリア先生は私をお姫様抱っこのような姿勢で膝の上に置かれた。そして、かこかこと椅子が動き出す。


「はてぇ、面倒なことになりましたぁ。それよりあなたぁ、いつまで狸寝入り決め込んでるんですぅ?いい加減にしないとぉ」


 アインは何やら私の脇腹にぽんと手を置く。すると、何故か私の服が解けていく!


「ひ、ひゃあ!何すんの!?」


「あなたが起きないからですよぉ、サツキさん?」


 私は跳ね起き、服を確認する。よ、よかった、服戻ってる。それより!


「私の名前なんで知ってるの!?」


「こう見えて私、フィリアさんと仲良いんですぅ。前もって、フィリアさんは私ともう一人の生徒にあなたの正体について話されてたんですぅ」


「そ、そうなんだ…、ところで、シャロにどんな危険が迫ってるの?」


「うーん、実はですねぇ、彼、愛の表現がとても歪なんです。そう…」


 私は、受け入れ難い可能性を突きつけられた。シャロが、本当に危ない!




 うぅん…。はっ!クラクラする頭をゆっくりとあげる。なに、ここ。そうだ、私無茶して、魔力切れ起こして…。医務室?いや、そうは思えない。空き教室か。じゃらりと金属音がすることに気がつく。え、私の手と足に、錠がされている…!?


「気がついたんだね。シャロ」


「あんた、これ外しなさいよ!」


 私は暗い教室の中、うっすらと見える人影に訴えかけた。クソ、なんでこんなことに…!


「嫌だよ。これを外したら、君、逃げちゃうじゃん。鳥かごから逃げた小鳥は、もう二度とその鳥かごには戻らないんだ。だから、ちゃんとつなぎ止めないと、ね?」


 こ、こいつはシェルカ!よりによってこいつか!いや、こいつだからか。こんなに狂ったことするの、こいつくらいしかいない!


「なんでこんなことすんのよ!」


「そんなの決まってんじゃん。君が、僕のことを嫌いだからだよ」


「…は?」


 少しは真っ当な返答が返って来ると思っていた私が馬鹿だった。こいつは心が壊れてる。好き好んで女装してる奴に、まともな奴がいるわけないじゃないか。


「僕さぁ、僕のことを嫌いな子を屈服させるのが好きなんだ。あのクラスじゃ、僕のことを心底嫌ってる人は君くらいだもん。だから君を選んだ」


「クソサド野郎ね。さて、私にはどんな躾をするのかしら?」


 少しでも時間を稼いで、助けを待たなければ。正直、もう泣きそうだ。でも、虚勢を張る。張ってないと、何もかも諦めてしまいそうだから。


「うーん、性欲にものをいわせるのは無粋で嫌いなんだよねぇ。だから…」


「確かに、あんたの粗末なそれじゃ、私を満足させることなんて到底無理だろうしね。そんな短いスカート履いているんだもの。下から見れば丸見えよ」


 ぶつんっと何かが切れる音がした。堪忍袋の緒だろうか。顔はよく見えないが、ガっと顔を蹴られた!


「ぐぅ!」


 なんて言う馬鹿力、あんな女みたいな見た目して、私を蹴飛ばすなんて…!


「何を言うんだ、このアバズレ!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねェ!」


 顔を何度も蹴られ、口の中が鉄の味でいっぱいになる。やばい、本当に死んでしまう…。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇ!死んで死んで死んでしまえ!」


「がはっ!」


 何度も何度も踏みつけられ、私は地面に突っ伏した。起き上がることさえままならない。くそ、魔力が潤沢にあればこんな手錠…!


「何だ、誰か居るのか?」


 ふと、廊下から声がする。私は床にへばったまま、その方向を見た。その声は酷く聞き覚えがあった。

 ドアが開かれ、光が差し込む。そこには、アホ面を引っさげたアインツ先生の姿が。そして、しばらく足蹴にされている私を見たあと…。


「邪魔したな」


 と一言言ってドアを閉める。こ、このろくでなし講師ー!

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