第八話:編入!
私たちはど魔道学校、正式名称サステンシア国立魔道学院への編入の手筈を整えた。明日から新学期らしく、そこから私達は編入することになる。つまりは、夏休み明け学校に行ったら知らない人がいるって訳だ。制服の採寸は済ませたが、一つ問題が。
「ぶかぶか…」
「ユニちゃんには少し大きすぎるね…。これが最小サイズだよ」
それでもまだ丈が余るな。萌え袖みたく、手が完全に隠れて、なお袖が垂れ下がっている。ユニは嫌々ながら、これでいいと妥協したようだ。まぁ、今は半袖なので、ぶかぶかしてるだけに見えるけど。
次は、担当の講師さんたちに挨拶。いきなり3人も生徒が増えたらびっくりしちゃうでしょー?とのこと。魔術実技を教えてくれるフィリアさんにはもう挨拶は済ませてるので、その次は文学と歴学の講師、ドルージさんに挨拶。
おー、ここがサステンシア魔道学院。清潔感のある外見の白いレンガ、そして、巨大な噴水。まさに名門学校を具現化したような校舎だ。
「大っきいですねー」
「うん。ここが都会の学校。凄い」
確かに、かなり広いな。大学の二倍くらいだろうか。いや、それ以上かも。移動とか大変そう…。
「あなた田舎の学校も見た事ないでしょう」
「喧嘩しないのー」
火花を散らせる二人をなだめ、正面玄関から中に入る。どこかクラシックな雰囲気があるな。洋風だからか下駄箱はなく、そのまま土足で中まで入る。
ドルージさんの研究室は、321号室。フィリアさんから貰ったメモに、五人の講師の名前と、その人の研究室の番号が書かれている。
「ふーん。あなたが有名なサツキね。お目にかかれて光栄だわ。私はドルージ・アルフェット、よろしくね」
なんだかとても優しそうな人だ。物腰柔らかそうで、笑顔を絶やさない、そんな人。
研究室には、大量の本が陳列されていた。フィリアさんとは違い、見事に整理されている。
「私はサツキ・ハタノです。あの、学院での会話の際は、偽名を使わせていただきます。セッキ・ハルファという名で呼んでください」
これは、フィリアさんにつけてもらった偽名だ。私もかなり気に入ってる。
「あなたはこの国でも三本の指に入る有名人だものね。無理もないわ。ほかの講師にも私から伝えておくから」
「ありがとうございます、まぁ、そうみたいですね。あはははは…」
ほぼフィリアさんのせいだけどな!乾いた笑いしか出ない、全く…。この噂を皮切りに、見境のないアンデッドハンターが押しかけてきたらどうするんだ。まぁ、そんなことは今まで無かったのだが…。
「私はルグラです」
「ユニ、よろしくお願いします」
ユニもさすがに先生には敬語を使うか。でも、少し慣れていない面があるな。正確には「ユニです、よろしくお願いします」だ。
「さて、少しあなたに私の授業内容について説明しておくわね。文学はともかく、私の歴学は真実しか語らないわ」
「真実?」
「私の歴学は私の見てきた私の軌跡よ。まぁ、詳しい内容は授業で話すわ」
な、なにそれ新手のナルシズム!?こんなに人の良さそうな見た目してただのナルシストか!?
「最後に一つ。月は傍から見るのは綺麗だけど、実際は太陽の光がないと見ることすら出来ないのよ。それはまさに、愚者の象徴とも言える存在よ」
「月…?」
「まぁ、太陽も太陽で傍から見れば綺麗だけど、近くにいれば身を焼かれかねないのだけどね」
月と太陽…一体何?ドルージさんは何故私たちにそんなことを伝える?
「それには、どんな…」
「それは、あなたの目で確かめなさい。それが一番確かで、一番手っ取り早い方法よ」
そう言うと、ドルージさんは膝に置いた本を読み始めた。もう語ることは無い、と遠回しに伝えているんだな。
「失礼しました」
私たちはドルージさんの研究室を出た。次は、錬成術の講師のサラーサ先生。
「なんだか、私でさえ敵わないと、そんな空気が充満していました」
「あの人、少し怖い。なんだかピリピリする。だから敬語になった」
「そうかな?私には優しそうな人に見えたけど」
なんだろう、この二人は野生の勘とかあるのかな?私にはちょっぴりも感じとれなかった。
でも、少しわかる。あの人の笑顔は、なにか裏がある気がする。そして、あの含みのある言い回し…。何者だ、あの人は。
305号室。
「どうぞ」
中に入ると、光を放つ結晶が大量にあった。しかし、それ以上に目に付くのは、至る所に水路のように張り巡らされた彫刻に流された水。
さらに、薬品の匂いもする。調合も錬成に含まれるのか。
つまりは、この人と私は少し気が合うかも…、ということ。私だって錬成に少なからず精通してるからな。調合なら尚更だ。
「あなたはサツキ様ですね。そして、ルグラ様、ユニ様。あなたの噂はかねがね聞いています。稀代の大魔女殿であられると」
「は、はぁ…」
なんだろう、この人はなんだか、融通が効かなそうだ。こう決めたらこうだ、といったかんじ。
でも、そこまで持ち上げられると恥ずかしいよな。ほんと、フィリアさん…本当によくもやってくれた…。
「聞いた話では、錬成もなされるのですね。初歩的なものではありますが、出来栄えは素晴らしい。私の講義で、あなたに更なる知識の譲渡と錬成の視野を広げることが出来たのならば、幸いです」
まぁ、確かに錬成はするけど、御守りくらいしか作らないんだよな。フィリアさんの知り合いなら、あの御守りを見て私の度量を判断したのか。
「それでは。明日からよろしくお願いしますね」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますー」
なんだか少し妖艶な雰囲気のある人だった。魔女像を具現化したような、そんな感じ。
よし、サラーサさんへの挨拶も終わらせたし、次は体術講師のフレイさんの所か。
「魔術学院なのに、体術の授業があるんですね」
「私も師匠に体術を教えて貰ったこともあるよ」
「なるほど、サツキ様のような一流の魔女になりたくば、体術をも学ばねばならないのですね」
そんなご大層なものじゃないけど…。
えっと、研究室は…408。四階だな。フレイ・バーンズさん、体術の先生か。少し怖いなぁ。体育の先生とか私苦手だ。
ドアは普通だ。私がノックをすると、中から元気な声が聞こえてきた。
「おう!入れ!」
「失礼しま…ず!?」
何これ暑!空気が焼けているように暑い!まるでサウナだ!
中に居たのは、ダンベルを片手にこちらにほほ笑みかける男性。うーん、悪い人ではなさそうなんだが…、その…。むさ苦しい。
「あ、あの、私の名前は…」
「いや、お前はいい。サツキだろう?俺はフレイ・バーンズ!そこの二人は?」
あ、確かにそうか。わざわざ自己紹介するまでもなかったか。でも、自己紹介しようとした時に話を折るのは出来ればやめて欲しいんだが…。
「私はルグラです」
「ユニー」
「ふむ、ルグラにユニか。短い間だが、よろしくな。ところでお前ら。なぜ魔術学院で体術を学ぶか分かるか?」
学ぶ理由か。心当たりはある。フィリアさんが私に体術を教えてくれた時に言ってた。たしか…。
「えっと、魔法は詠唱がある分、魔術は媒体を利用する分だけ隙が生まれる。体術はあまり隙がないため、近接戦闘においては部類の強さを発揮でき、さらに魔術や魔法での強化も可能。さらには動体視力の向上や基礎体力もあがるので学ぶ…という感じですか?」
「ブラボー!素晴らしいじゃあないか!伊達にこの街の一番の有名人してないな!」
「いやぁ、あはは」
照れるなぁ、この人、やっぱり悪い人じゃないみたい。暑苦しいけど!
ルグラとユニは額に汗を浮かべている。この部屋、サウナ状態だからな。無理もない。
「さぁ、お前らも一緒にトレーニングするか!」
『しません!失礼します!』
私とルグラの声が盛大に被り、その部屋を後にした。あぁ、本当に暑苦しい人だった。やはり体育の先生は苦手だ。
「ドルージさんが言っていた太陽って、彼の事じゃないんですか?」
「有り得る。あれはそばにいるとジューシーに焼かれる。次の人は?」
「えっと、戦術のシグルド・アルフェイル先生は…、忙しいから挨拶に行けないんだって」
まぁ、この先生たち全員隠密精鋭部隊の人達みたいだし、忙しいこともあるだろう。逆にこの人たちの方がおかしいのかも。多分命令に従っているだけなので、現在進行形で任務遂行中なのだろうが。
「そうですか、では講義があるまでお楽しみですね。そうなれば次の方で最後です。どのような方なのでしょう?」
「最後はアインツ・ウォードリィ先生。魔術全般の講義をしてくれるんだって」
「今度はもっと落ち着いた人がいい」
「同感です。あのような方が複数人いると思うと少し頭が痛くなってきました」
私も同感だ。あの人、私たちと話している時もずっとダンベルでトレーニングしてたからな。輪をかけてあの部屋が暑く感じられた。外に出た瞬間、天国かと思った。
「えっと、研究室は、413…ここだね」
「ん?サツキ様、これを」
ルグラはドアにかけられたプレートを指さした。何なに?
『ただいま昼寝中。質問は他所でやれ』
なにこれふざけてるのか?講師が研究室で昼寝とか…。たしかドルージさん、言ってたな。月は愚者の象徴だって。この人が月?フェイルも、問題のある講師がいるって言ってた。顔を合わせた訳じゃないが、この人がなにやら問題がありそうなのは明らかだ。
「すみませーん!」
私はどんどんとドアを叩く。惰眠を貪る講師を妨害するのだ。ドアに鍵がかかってるし。
ん?何やら声が聞こえる。
『永遠…燃ゆる…よ・地獄…いで…炎よ・吾が手に…りて…』
なんだろう、寝言か?にしては物騒な。地獄だのなんだの言ってたぞ?ん?でもさっきの詠唱、聞いたことがある。師匠が言ってた…、
『爆ぜろ』
プロミネンス・バーストっていう上位魔法詠唱だ!
「下がってください!」
ルグラは私たちの前に立ち、瞬時に障壁を貼る。ドラゴンの彼女だからこそできる技だ。ドアが吹き飛ぶものの、障壁のおかげで私たちの俄然で留まった。凄い勢いだった。学校中の窓が震えていた。
「ふぁー、お前ら字が読めないのか?ったく、ドア壊れちまったじゃないか」
「あなたが魔法ぶっぱなして壊したんでしょう!」
私は思いっきり抗議の意を示した。何だこの人!確かにこちらもドアを執拗以上に叩いたのも悪かったが、吹き飛ばすことは無いだろう!
「あぁ?って、お前小売の魔女か。なるほど、お前らが編入してくるってこったな。わかった、もうわかったから帰れ」
「分かりました、って帰れるわけないでしょう!謝罪してください!過剰防衛にも程があるでしょう!」
「へーい、すまんかった。じゃ」
そう言うとアインツ先生はドアを直し、勢いよくパァンとドアを閉めた。私はふつふつと内面から溢れ出てくる怒りに身を焦がした…!
「なんですか、あの講師!私に向かって上位魔法放ってきたんですけど!」
「ほ、ほんとですか!?あの先生、ついにそんなことまで…」
私たちは、フィリアさんの研究室に帰ってきて、そこで二人に愚痴をこぼしていた。
「へぇ、そんなことが。それじゃ今から雷を落としてくるよー」
「え?師匠?」
「弟子を危険に晒したんだ、相手を痛い目に合わせるのは当然だよね?」
「あ、あの、せめてお情けは掛けて上げてください。私のせいで人が死んでしまったら…」
「そだね。死なない程度に殺してくるよー、じゃあねー」
明るい口調で笑顔だが、目が笑ってない。軽い足取りで、フィリアさんは部屋を出ていく。
「フェイル。大丈夫だよね?」
「まぁ、先生もアインツ先生のこと気に入ってるから、殺すことはしないとは思います。でも多分…」
しばらくして、魔道学院の方向で閃光が走ったような気がした。あぁ、フィリアさん。そのろくでなしを制裁したことに関しては感謝するけど、せめて半殺しで勘弁してあげてください。
「瀕死状態にはなってるでしょうね」
それからしばらくして帰ってきたフィリアさんの顔は、晴れ渡る空のように清々しい顔だった。
一応村のみんなへの手紙を村長宛に送り、私たちはサステンシア魔道学院へ向かう。昨日はフィリアさんの研究室で寝させてもらってた。結構大きめのベッドがあったから、四人で添い寝する形になった。もうあそこ、私室扱いだな。
「結構重いですね。魔術の教科書って」
「んー、それより、今日ってテストとか、オリエンテーションとかじゃないの?」
「はい。フィリアさんは実力テストを行うと言っておりました。その他の講義でも同様…と。しかし、フェイルさんいわく、魔術座学の教科書は絶対に持参するようにと言われましたので…」
「私も持ってきたんだけど。ほんと、重いねー」
魔術座学の教科書、辞書みたいに分厚いんだよな。そんなの、三年あっても学びきれるかどうか。
王城から、魔道学院まではあまり遠くない。徒歩五分程度だ。
「始業式にはまだ時間があるね」
「そうですね。私たちのクラスは二年二組です」
「どんな人がいるのかな?」
「きっと、いい人も多いと思うよ?」
まぁ、一概に言えないのだが…。ふと前を見ると、私たちと同じ制服を着ている少女が歩いている。もしかして、私たちのクラスメイトだろうか?
さて、私たちは教室に向かう。高校の教室というより、どちらかと言うと大学の講義室に似てる。階段状に机と椅子が置かれていて、正面には大きな黒板がある。
大して決まった席もないのか、特に座席を知らせる張り紙もなかった。なので、私たちは窓際に座った。
当たり前なのだが、二学期ともなると、もうグループが出来てるんだ。周りのみんなは、それぞれ話で盛り上がっている。私たちには興味も示さない…、と思っていたのだが、一人の少女がこちらに歩いてきた。
そして、私たちの前に座り、振り返る。
「あなた達、編入生?」
眩しいほどに輝くその髪は、銀色に輝いている。その少女は、明らかに私たちに向けて話しかけていた。
「う、うん。セッキ・ハルファだよ」
「私はルグラです」
「ユニ、よろしくー」
「そう、私の名前はシャルロッテ・ヒューズ。シャロって呼んで。よろしく」
「シャロ、よろしくね」
シャロか。その後ろから、見覚えのある金色の髪が見えた。フェイルだ。というか、私の家に尋ねてきた時の服装、制服だったんだ。
「あ、フェイルー。転入生さんよ」
「おはよう、シャロ。セッキ、ルグラ、ユニもおはよ」
「お、おはよ」
な、なんだか今まで敬語だったからか、少し違和感があるな。すると、フェイルはぱちぱちと察してくれと言わんばかりにウィンクした。そして、シャロの隣に座る。
なるほど、あの態度は小売の魔女とその弟子としての私達への態度で、今の態度は一編入生の私たちに対する態度というわけか。バレないように配慮してくれてるようだ。
「なんだ、知ってたのね」
「うん、先生に頼まれて、三人をここまで案内したんだ。編入試験の時」
「ふーん。私にも教えてくれたら良かったのに」
見たところ、二人はかなり仲がいいみたいだ。
「それより、そろそろ来るね。先生」
「あのろくでなし、今日こそはまともな授業させてやるわ…!」
「が、頑張ってね…」
それと同時だろうか。ガラリと扉を開け、アインツ先生がやってきた。え、えっと、なんだろうか。
「お前ら、廊下ならべ…」
「あ、あの。先生、二学期デビューってやつですか?随分と肌が焼けているように見受けるのですが」
確かに、かなり肌が焼けてる。でも昨日あった時はそんなこと無かったんだけどな。
「じ、実はな。昨日学院から帰る途中雷に打たれてな…」
「そんなことないでしょう。昨日は晴天でしたよ?」
「それはだな…」
そう言いかけた瞬間、フィリアさんが入ってきた。一瞬アインツ先生の表情が固まる。
「みんなー、始業式始まるから早めに並んでねー」
私には、その雷に心当たりがあった。そしてさっきの反応、間違いない。フィリアさんがその名の通り雷を落としたのか。あぁ、とりあえず生きててよかった。
「じゃ、行こっか」
「う、うん」
少し気になることもあるけど、黙っておこう。それが私のためだ。
「さ、アインツ先生も早く行きましょ?」
「あ、あぁ、そうですね。フィリア先生…」
そんな二人を見ていると、シャロが「三人も行きましょ」と話しかけてきた。
「そうだね」
うーん。私は少しアインツ先生に同情してしまった。フィリアさん、とっても優しそうなのに怒ると怖いんだなぁ…。
私は怒らせないようにしよう、そう誓ったのだった。




