第七話:使者!
私は少女を中に通し、テーブルを挟んでソファーに座り、話を聞くことにした。
「私はフェイルと言います。王都にて学を修めていたのですが、あの人物にあなたを紹介され、ここに来た次第です」
「王都から…はるばるご苦労さま」
ここらの王都っていえば、サステンシアだろうか。師匠が向かった街。いつか顔を出そうとしていたのに、いつか忘れてしまっていた。いや、多分私は拗ねていたんだろう。全く連絡をくれない師匠に一抹の苛立ちを覚え、連絡をくれるまで王都に行かないとどこかで意地を張っていた。
「サツキー」
「サツキ様、お客様ですか?今お茶を…って、もう出されてましたか。すみません、お手を煩わせてしまい」
「いいよ、そこまで気を使わなくても」
二人も私の両脇に座り、話に参加する。
「私は弟子のルグラです」
「同じく弟子のユニ。よろしくー」
「ご丁寧にどうも…。あの、本題はもうひとつ。これを渡すようにとある人物に言われまして…」
フェイルは、腰掛けのポーチの中から紙を取り出した。これって、手紙?
私はそれを受け取り、開封して内容を確かめる。
『小売の魔女、サツキ・ハタノへ。これを読んだのならば、迅速にサステンシアに来られたし。
追記:あなたに会えるの楽しみにしてるね!』
うーん、要するにサステンシアに迎えってことか。それよりなんだこれ。追記だけふざけてないか?
「あの、サツキ様。行くんですか?何かの罠かも…」
「ユニは、行ってみてもいいと思う。都会、行ってみたい」
ユニは相変わらず自分の欲に正直だな。でも、私もこの機にサステンシアに向かうのもいいかもしれない。
「あのさ、黎明の魔女の墓場知ってるかな?」
師匠はサステンシアではかなりの有名人らしいからな、もしかしたら知ってるかも。
「はい。私は黎明の魔女、フィリア様の雲孫に当たります」
「うん…そん?」
なんだろう、雲孫って。とりあえず、この人がフィリアを、知っているようだった。
「つまりフィリアさんは、私の八代前の先祖ってことになりますね」
「えぇ!?師匠の子孫!?」
通りで髪色が似てるわけだ!うわぁ、面影ある!目鼻立ちとか結構似てる!
「はい。なので墓標の位置も存じております。出発は何時頃になさいますか?出来れば早めにお越しいただきたいのですが…」
「あ、あのですね。サツキ様にも予定というものが…」
「ルグラ。私の国には、思い立ったが吉日って言葉があるの。何かやろうと決めたなら、その日が吉日。さぁ、出発の準備始めるよ。昼過ぎには出発だ!」
私たちは、早速準備に取り掛かった。カバンの中に携帯用の食料と、着替え、替えの下着、お金、そして何かあった時のためにかさばらないくらいの回復薬。
「あの…弟子の件は」
「あぁ、ごめんね。その話は後で聞くよ。まずはこの手紙の主に会わないと」
弟子三号ともなると、少し躊躇してしまう。ユニの時はあんなこと言ってしまったけど…。しかし、フェイルは「分かりました」と笑顔で返した。謙虚だな、この子。
護身用の杖を持って、準備万端。ここでひとつ、重大な欠陥が存在することに気がついてしまう。
「ユニ、空飛べない」
「えぇ、ユニコーンパワーでどうにかならないの?」
「サツキ、ユニコーンに夢を求めすぎ。何でもかんでもできる訳じゃない」
言われてしまった…。それもそうか。私今までユニコーンが空を飛んでたところ見たことないや。
「そしたらユニは一人残ることに…」
「やだー、サツキと一緒がいいー」
困ったなぁ…。私はどうやら、ユニのワガママに弱いらしい。私の小さい頃もこんなに駄々を捏ねていたんだろうか。いや、捏ねてたんだろうなぁ、迷惑かけてごめん、お父さん、お母さん。
「ならば私におまかせあれ!」
あ、その手があったか。ルグラは足元に魔法陣を出現させ、その姿をドラゴンへ変貌させていく。
「へ、へぇ!?ルグラさんってドラゴンだったんですか!?」
「そうなんだけどさ、ルグラ、少し目立ちすぎない?」
「大丈夫です。幻惑魔術を駆使して、周りからは何もいないように見せかけますので。ユニは私が背中に乗せていきます」
なるほど、それなら安心だ。今度こそ出発!
「いざ出発ー!」
『おー!』
「お、おー?」
私とフェイルは箒、ルグラはユニを乗せていざサステンシアへ。
日が傾き出した頃、フラフラとフェイルが地面に着地した。魔力切れか。かなりの長距離移動だから無理もない。
「はぁ、はぁ…すみません、サツキ様…」
「謝ることないよ。幸いそこに街もあるし、一泊していこう!」
私たちは、「ようこそココルト街へ」と書かれた看板を横切り、宿屋へ向かう。なるほど、ここはココルトという街なのか。
フェイルを私が背負い、街を歩く。
「あの、サツキ様。私が背負いましょうか?」
「いいよ。私の弟子候補なんだし」
それにとっても軽いから、大して苦じゃないし。フェイルは、眠ったように静かにしていた。
しかし、サステンシアにはまだ遠いらしい。店員さんに買い物がてら聞いてみたのだが、サステンシアから来る人は滅多にいないとのこと。それだけ遠いってことだろう。見たところ、辺鄙な街という訳では無いみたいだし。宿屋の一室を借りてフェイルを休ませ、明日の朝また出発することにした。
「すみません、私、魔術学校でも魔力が平均以下でして…、皆さんに迷惑をかける自体になってしまい、申し訳ございません」
「大丈夫、気にしてないよ。それにもう日も暮れてきたし」
机に突っ伏して、フェイルはため息をつく。魔力切れとは、疲労感、目眩が伴い、魔術、魔法が使えなくなる、というものだ。私もフィリアさんとの修行の時、何度か陥った。
解決策としては、休む、魔力水を飲む…など。
にしても、なんだかフェイルはフィリアさんとはかなり違う。フィリアさんは、どちらかというと才能がある方だろう。サステンシアから直々に要請があるほどに。
しかし、フェイルは…、こういうのもなんだが、飛び抜けた才能はない。本人が気がついていないだけかもしれないが。
「サツキ様ー、お風呂上がりましたー」
「もしゅもしゅ、気持ちよかった」
「そっか、私も行こうかな」
夕飯はまだだが、長距離移動で塵とか砂埃とかが体に付着してしまっている。さっさと風呂に入りたい。
「あの、私も一緒に入ります」
「大丈夫なの?」
「はい。もう真っ直ぐ歩けるくらいには回復しました」
ならいいけど。確か、一階に大浴場があるんだったよね。
「階段降りられる?」
「はい。問題なく」
まだ少ししか魔力回復してないからな。ちなみにご飯などを食べて栄養を採ることで、早期回復を図ることも可能だ。
「はぁ、おっきい!」
「そうですか?サステンシアのお風呂はもっと広いですよ?」
まじか。これでもスーパー銭湯位はあると思うけど。露天風呂も、水風呂も、サウナまでも完備とは。なかなかの気合いの入れようだ。通りでほとんど部屋が埋まってたわけだ。
夕食は部屋に持ってきてもらう手筈になっている。料金は少し上がるが、許容範囲だ。しかも鍋に刺身にとかなり和食メイン。やはり久々の外食での和食は心が踊る!
「ところでさ。王都はどんな街?私まだ一度も大きな都市には行ったことないんだ」
「えっと、サステンシアは難攻不落の巨大な要塞都市です。中でも魔道に長けた者共を寄せ集めた、王直属の隠密精鋭部隊、『星雲隊』と呼ばれる組織が武功を上げているらしいです」
隠密精鋭部隊…。何それ、めっちゃエリート集団がいるってこと?響きだけはめちゃくちゃかっこいい。あれ、でも待て?
「なんでフェイルがそんなこと知ってるの?」
「その1人が私の知り合いでして」
そういうのって他言無用じゃないのか?えらく口の軽い隠密精鋭部隊の方もいたものだ。
「あとは、見てもらった方が早いです」
「そっか」
百聞は一見にしかずという。サステンシアがどんな街か、それは私の目で確かめよう。にしても要塞都市かー。巨大な壁とか、大砲とか、数人がかりで開ける門とかあるんだろうな。
私は想像を膨らませて、サステンシアへの到着を心待ちにしていた。あんなことが起きるなんて、知る由もなかった。
翌朝。
朝食を食べたあとまた箒に跨り、サステンシアを目指す。山をひとつ超えると、遥か彼方に何やらぽつんと小さな何かがあった。
「あれがサステンシアの防壁、難攻不落の壁グレートウォールです」
「ってことは、あそこがサステンシアだね」
しかし、見えてからもかなり長い。まだつかない、まだつかないと蜃気楼を追いかけているような気になってくる。
そこから半日。日も頂点に差し掛かった頃、ようやっと門の前に来ることができた。
「はぁ、着いた…!」
「かなり長い距離の移動になりましたね」
「うん。楽しかった」
にしても大きいなぁ、この壁。これで敵の侵入を阻んできたんだ。私たちが辺りを見渡している間、フェイルは門番らしき人物に話をつけているようだった。そして、話が着いたようで走ってくる。
「小売の魔女様御一行ならば喜んでお通しすると言ってくれました」
「そんな顔パス効くような人物なの、私って!?」
「はい。この国の人達はみんなサツキ様が大好きですよ」
え?師匠が噂を立てたのか?悪い噂じゃないみたいだけど…。
「お通りください、小売の魔女様」
「国を上げて歓迎致します、小売の魔女様」
「あはは、どうもどうも」
な、なんだか恥ずかしいなぁ、そこまで歓迎されると。落ち着かないというか、なんというか。
私たちは、門を抜け、街並みが見えてきて、目を背けたくなった。町中の至る所のペナントやのぼりに、私をモデルにして描かれたであろう絵が描かれていたのだ!子供たちは私と同じ服装してるし!一体何があったんだ!
「サツキ様、ここの人達は随分とあなたを歓迎しているようですね」
「お祭りみたい、たのしー」
「そうだねー」
としか言えない!なんでこういう事態になってんの!?フィリアさん?もしかしてフィリアさん!?200年前に何かしでかしてくれたのか!?
「ようこそ小売の魔女様」だの、「サツキ様バンザイ」だのと、様々な文句が書かれたのぼりも目立つ。あぁ、もう早く帰りたい…。こんなんじゃ落ち着けないよ…。
「あ、あの、手紙の差出人の家ってここから近いの?」
「はい。正確には工房ですが、そこに入り浸っている人ですので」
そう言うと、フェイルは大きな城を指さした。
「あそこに工房があります」
「あれって王城?」
「はい。その人は王宮付きの魔女です。なので、王城の一室が工房になっているんです」
王宮付き魔女!?そんな高位な人が、私に何のようだ?フィリアさんくらいしか心当たりは無いのだが、それこそ有り得ない。あの人はもうとっくに亡くなっているだろうから。
私たちは、騎士さんに王城の扉を開けてもらい、王城の中に入れた。まさに顔パスというか、「サツキ様、よくぞお越しくださいました、どうぞお通りください!」と言って快く通してくれた。
そこからフロアの中央に聳える大きな階段をあがり、2階へ向かう。すると、2階の一室の前で、フェイルは足を止め、ドアをノックした。
「小売の魔女、サツキ様御一行。お連れしました!」
「あぁ、ありがとね、さ、中に入っていらっしゃいな」
はぁ、とフェイルはため息をつき、ドアを開いた。中から聞こえてきたのは、優しそうな老人な声だ。なのに、なんでため息?
「あのー、先生。またそんなことやってるんですか?」
「何を言っているのですか、いつも通りですよ」
先生、と呼ばれた老人は、とても優しそうな笑顔をしながら薬の調合をしていた。ローブを目深に被っているが、どこか不思議と不気味さは感じられなかった。
「いつも通りなもんですか!」
フェイルはまるで過去の私がフィリアさんの布団をひっぺがすように、老人からローブを剥いだ。な、なんでそんなに強引に…。
「あぁ、何をするのですか!って、ローブ取れてる!そんなぁ…」
その声は、どこか懐かしい響き。ずっと聞いていなかった、そんな声。ずっと聞きたかった声。ローブを剥ぎ取られ、そこに倒れていたその人は…。
「師匠!?」
「えぇえええ!?」
「えー」
私だけでなく、2人も驚いている。いや、ユニだけリアクション薄くない?というか、フィリアさん、なんでここにいるの!?
「こほん。改めて…。200年ぶりだね、サツキ!」
「師匠ー!」
私は、フィリアさんが偽物である可能性など考えずに彼女の胸に飛び込んだ。あぁ、あの時と同じ、薬品の臭いが染み付いた真っ白な服、そして私のあげた御守り。やっぱりフィリアさんだ!
「師匠…、亡くなっていると思ってました…、というか、なんで亡くなってないんですか!?」
普通、私みたいに不老不死にならないと200年前も生きていけないだろう。そもそも生きてる方がおかしい!
「いやぁ、師匠としての意地というか、師匠として弟子と同じ時間を過ごしたいというか…。私も、違う方法で不老不死になったんだ。禁忌の森のトコシエ草を使ってね。不老不死の霊薬っていう、国家機密級の薬。それを服用して、私は不老不死になった」
つまり、私が不老不死になったから自分も不老不死になったと。にしても、そんな薬あったのか。さっき国家機密級って言ってたし、公表されていないのかも。
「へぇ、ともかく、また会えて嬉しいです!」
「私もー!むぎゅー」
フィリアさんも私を抱きしめてくれた。最近年上の人に出会ってなかったから、久しぶりに甘えちゃおう!
「むふー」
「おうおう、愛いやつめー。存分に甘えてくれていいんだよ?」
「はーい、師匠ー」
「ユニもー」
私とユニは思いっきりフィリアに甘えた。甘えて甘えて甘えまくった。その様子を、ルグラがなんとも言えないという表情で眺めていた。
フェイルは、剥ぎ取ったマントを綺麗に畳んでいた。にしてもこの部屋、やっぱりフィリアさんの部屋だからなのか、ララベルの町の家と似てる。
でも、どうやらプリント類はまとめられているみたい。あぁ、フェイルがフィリアさんの身辺整理をしているのか。200年前の私と同じだ。
「変装マント、先生のおふざけマストアイテムのひとつです。時に老人、時に子供。その姿は使用者の思考に合わせて変幻自在。それで卒業までに何度振り回される事か…」
「師匠、先生をやってるんですか?」
「うん。副担任だけどね。何せ、担任がどーしようもないグータラでさ。私がいないとダメなんだよね」
へぇ、フィリアさん、人に教えるの苦手って言ってたのに。あ、そういえば、フェイルが言ってた、『星雲隊』って何だろう。フィリアさんが入ってるのか?
「あ、あの、星雲隊って」
「あぁ、星雲隊ってのは、私の所属してる組織ね。そこからの命令で、副担任やってるの。魔術学校の優等生たちのさらなる意識の向上、もとい優秀な魔術師の育成が命令だった…、んだけどね」
「先程も話されていましたが、その担任が少し問題があるんです。さらに、魔術や魔法が面倒だからと副担任兼魔術講師に抜擢された先生を始め、もう四人の先生、さらには転校生を装い、競争心を刺激するために生徒役として抜擢された他の隊員さんも合わさって、もうカオスです」
「フェイルは私の身内だし、私の腰巾着みたいなものだからね。そういう情報は教えてあげてるの。信頼もできるしね」
なるほど。まぁ、隠密精鋭部隊が学校の先生なんてしてもいいのかとは思ったのだが、もうその点はどうでもいい。
そういえば、フィリアさんが私を呼んだ理由をまず聞いていなかったのだ。
「で、なんで師匠は私を呼んだんですか?」
「あぁ、実はね。あなたに、期間限定ではあるけど、魔術学校に編入してもらいたいの」
なるほど、私が魔術学校に…、え?
「へぇ!?私が!?」
「えぇ!?先生、さらにあそこにプラスするんですか!?今まで以上に混沌が…」
「いいのいいの。一ヶ月だけだからさ。お願い!」
うーん、魔術学校か。少し興味がある。それに、私人見知りだったからほとんどクラスの人達とも話すことできなかったからな。失った青春を、一ヶ月で取り戻すんだ!というか無駄に長いな!
「分かりました、引き受けます」
フィリアさんの頼みともなれば断る訳には行かない。だが、私を学校に行かせるってことは…。
「サツキ様が行くのなら、私も行きます!」
「ユニもー」
とまぁ、こんな感じで弟子の二人もくっついてくる。
「もちろん、二人も編入できるよ。あ、あと偽名使ってね。この国じゃ、有名人だから」
「そこです!なんで私こんな有名人なんですか!」
フィリアさんの仕業だ、絶対にそうだ!それ以外に考えられない!
「え?それは私がサツキのあることないこと話してサツキはすごいんだよってみんなに教えたあと、適当に記念日を作って、みんなでお祝いしてただけだよ?」
「あることないこと話さないでください!」
やっぱり師匠だったー!




