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第三話:遭遇!

 転生から、約半年が経った。フィリアさんに稽古や薬草採取のコツなどを教えて貰い、その結果、Lvはどんどん上がっていく。また、スキルも上がった。

 フィリアさん曰く、「そこらの魔術学校の生徒よりも強いんじゃない?」との事。一応魔法も習ったし、魔術も属性魔術はほとんど使えるようになった。箒(ほうき)で空を飛べるようにもなった。


『名前…サツキ・ハタノ

 職業…魔女

 Lv…26

 保有スキル

 ノーマルスキル…魔道具制作2、薬品調合3、薬草鑑定3、錬成鑑定3、魔術2、魔法1

 ユニークスキル…動物愛撫(あいぶ)』


 錬成鑑定とは、その名の通り錬成に使える素材を鑑定するスキルである。これにより、薬品調合の視野が広がるのだとか。


 そんなある朝。フィリアさんが病にかかった。


「ごほっごほっ」


「大丈夫ですか、師匠…?」


「こ、これまずいね。難病だよ…!」


 自分で言うのか…、いや、自分だからこそ分かるのか。一番苦しいのはフィリアさんだもんな。


「私、薬を調合します!って!もう切らしてる!取ってきます!」


「た、頼んだ…よ…」


 私は急いで森に行き、薬草を探した。薬草鑑定がLv3になると、種類、鮮度、有効期限まで分かる。前にフィリアさんの言ってた通りだ。

 というか、フィリアさんの病気の病名って何なんだ?薬というのはその名の通り病気への特効薬であり、それ以外の病気には効果はない。つまり、喉風邪を引いているのに鼻風邪の薬を飲んでも意味が無いというわけだ。

 難病としか聞いてないけど。

 そうだ、確かこの本の最後の方に…あった!私は薬品事典を開いた。これは天使様から貰ったものだ。


「万病に効果のある薬、秘薬!これを渡せば、治る!」


 サラリと目を通した時、そんなものあるのかと驚いた。フィリアさんもまだ調合したことがないのだとか。


 調合素材『ユニコーンの角、ニッコウ草、オウゴン花、湧き水』…?そうだ、これにはユニコーンの角が必要なんだった。

 オウゴン花とニッコウ草ならともかく、ユニコーンの角?そんなのどこに…。

 ユニコーンと言えば、この世界では世界各地を渡り歩くとされる、極めて珍しい動物、幻獣の一種だ。癒しの魔力を操るとされている。それに、非常に警戒心が強いのだとか。そんなの、無理じゃないか…。

 って、へこたれてる場合じゃない!

 オウゴン花は森の奥地にちょっとした群生地があった。ニッコウ草もそこかしこに生えてる!湧き水もすぐそこに湧き出てる!急げ、フィリアさんの命が危ない!


 私は湧き水とニッコウ草を回収し、そのままオウゴン花の群生地をめざし、走り出した。


 こ、これは…群生地は崖際にあったのだが、崖崩れを起こしてる!?

 一つだけ見つけた!でも対岸だ。クソ、諦められるか!私はこちら側の木を掴み崖から身を乗り出して、、対岸のオウゴン花に手を伸ばした!届い…た!オウゴン花の蜜を零さないように慎重に瓶に詰め…?

 かつてない浮遊感が私を襲う。いや、そういえば半年前、同じようなことがあったっけ。どんどんと地面が近ずいてくる。

 あ、そうだ!クッションとして…!私は何とか杖を構え、風魔術を放つ…が、しかし、少し位置が悪かった。私は錐揉(きりも)み回転して、そのまま背後の木に激突する。そこで私の意識を失った。


「うぅん…はっ!」


 目を覚ますと、私は崖の下の木の根元で倒れていた。頭が痛い…。これだけ頭が痛いんなら、幻覚を見ててもおかしくないだろう。


 だって、目の前にいるのは…、ユニコーンだ。へ?そんなわけ、ないよね?私はぐにぐにと頬を引っ張る。痛い…なら!


「これ、夢じゃない?」


 白い体毛、虹色の鬣(たてがみ)、一本の角。その容姿は、物語で語り継がれる容姿そのままだった。

 すると、ユニコーンはこちらに一歩歩み寄る。私は後ずさろうとしたが、擦りむけたひざと打撲した背中が痛いため、上手く動かず倒れてしまった。

 それでもユニコーンは歩いてくる。倒れている私の方に。何をする気かと思いきや、みるみるうちに私の傷が治っていく。まさか、治してくれてるの?


「ありがとね」


 そう言うと、ユニコーンは嘶(いなな)いた。そして、何やら角を木に打ち付け始めた!な、何が起きてるの!?


「ストップストップ!」


 私が止めると、しょうがないなとでも言うように、今度は低音で嘶いて打ち付けるのをやめた。んー、私も動物と会話できる訳じゃないし…。


 というか、よく見たらこの子の角傷だらけだ。癒しの魔力を操るなんて言われてるのに。って、なんだか邪魔そう。角が顔の長さの2倍くらいある。つまり、このユニコーンは角を折りたいの?って、また角打ち付けてる!


「やめてー!分かった、私が折ってあげる!」


 実際、私の目的もそれだ。ユニコーンのためになり、私のためにもなる。ウィンウィンってやつだ。言葉が通じたのか、私を一瞥して、「折って」とでも言わんばかりに頭をこちらに向けて角を突き出してくる。


「ウィンドカッター!」


 風魔術を使い、ユニコーンの角だけを切り落とした。顔を傷つけないように配慮したのだが、どうやら大丈夫そうだ。それをポシェットの中に回収。

 角を折られたユニコーンは気性が荒くなってるんじゃないかと心配になったが、どうやらとても機嫌がいいようで、私に擦り寄ってきた。


「あはは!くすぐったいよー」


 ぺろぺろと舐められ、少しの間ユニコーンとじゃれていた。って、そんなことしてる場合じゃない!

 見ると、日もだいぶ傾いてる。早くしないとフィリアさんが…!


 って、そういえば私落ちてたんだ。これ登るのキツそうだな。崖崩れの上を歩くのは…。私が上を眺めていると、何やらユニコーンが姿勢をかがめた。


「もしかして、乗せてくれるの?」


 いいよ、とでも言うようにユニコーンは高音で嘶いた。ならお言葉に甘えて…。私、乗馬とかは子供の時にお父さんと牧場でやったっきりなんだけど。


「しょっと…わっ!」


 グンッと景色が移り変わる。崖をかけ登り、一瞬で木々が通り過ぎていき、森の入口までひとっ走りだった。これがユニコーンの見てる世界か!すごい早い!


 まだ全身に鳥肌が立ってる。とりあえず降りよう。私がユニコーンから降りると、ユニコーンは森の中に消えて行った。


「ありがとね!」


 その言葉に反応したように、より一層大きな嘶きが聞こえてきた気がした。


 私は急いで家に帰り、調合方法を確認し、調合を開始する。


「まずユニコーンの角を砕く…って、めっちゃ硬!」


 ゴリゴリとなんとか崩してみる。おお、慣れれば簡単だ。削るように潰す。そしたら普通に砕けた。


「それと、ユニコーンの角の粉末とニッコウ草、湧き水を0.5:2.4:7.1の割合で調合し、オウゴン花の蜜を一滴…」


 薬品調合がLv3になった私にかかれば、秘薬だろうとも調合できる。見たところ、かなり調合は難しいみたいだけど。


 よし、爆発は起きない!完成だ!私は秘薬を小瓶に詰めて、フィリアさんの元に急ぐ!


「師匠!薬です!」


「遅かったね…、もうお迎えが…」


「さ、これをずいっと!」


 万病を治す秘薬、きっとフィリアさんの病気にも効くはず!私はフィリアさんに強引に秘薬を握らせた。「う、うん」と若干押され気味のフィリアさんは、私に言われるがまま秘薬を口に運ぶ。これで、助かるはず!


「こ、これは…?」


「秘薬です!万病を治すと言われるあの!」


「どこで手に入れたの?ユニコーンの角が必要なんだよね?」


「はい、分けてもらいました」


 フィリアさんは信じられないとでも言いたそうな様子。そりゃそうだ。伝承があるとはいえ、幻獣と言われるほど珍しい動物なのだから。


「警戒心もすごいのに?」


「私動物に嫌われない体質なんですよ」


「へぇ…ともかく、これが本物の秘薬であることには間違いないみたいだね。よし、合格!」


「へ、合格?」


 何言ってるんだろう。先程とは立場が逆。今度は私がフィリアさんの言ってることが分からない。


「というか、師匠、病気は…?」


「あぁ、あれ?かかってしまったのだよ、五月病という難病に!」


「は、はぁ…」


 要するにただの仮病か。まぁ、安心した。師匠が無事で本当に良かった。


「それに、君はもう、一人前の魔女だよ。どこに出しても恥ずかしくないくらい」


「一人前って…師匠、私はまだ…!」


「王都に招集がかかったんだ。サステンシアだよ、大都会。私の噂を聞いた王宮付きの魔女様が、私を雇いたいって」


「そ、それは…よかったですね」


「だから、私明日には王都に出発するよ。そうだ。今日は泊まらない?出発する前に、いっぱい話したいんだ!」


 そっか。その言い方からして、私は行けないんだ。当たり前か。招集がかかったのはフィリアさんだけなんだから。フィリアさんとは、明日でお別れか。それに、サステンシアっていえば、ここらで有数の大都市だ。フィリアさんにとっても本望だろう。


「分かりました。今日は師匠の大好きなビーフストロガノフです」


「わーい!サツキ大好き!」


 こうやって人に抱きつかれるのも、人に撫でられるのも、明日でおしまいだ。寂しいな。


「師匠、実は、私…」


 楽しい団欒(だんらん)の夕食と風呂まで一緒に入り、ベッドに寝転ぶ。それから、何か話そうと思い立った。

 そうだ。私の秘密、話してもいいかな。元の世界のこととか。こういうのって、あまり話さない方がいいって思うけど、フィリアさんなら…。


「何?」


 虚ろな目をして、フィリアさんは私を見つめる。私は覚悟を決めた。


「私、実は一度死んでいるんです」


「そっか」


「あまり驚かないんですね」


「驚かないよ?だってさ、大事なのは今のサツキがどう過ごすかじゃない?死んでたとしても、少なくともここ半年君と過ごして、私は楽しかったし、あなたも楽しそうだった。それでいいじゃん」


 何当たり前のこと言ってるの?とでも言いたげな様子で私を見つめるフィリアさん。あぁ、この人本当に変わってるや。でも、この人を師匠にして、この人の弟子になって。本当に、良かった!

 それから、タガが外れたようにベラベラと向こうでの暮らしをフィリアさんに語った。フィリアさんは、やはりとても楽しそうに聞いてくれた。


「次は私だね!私ね、王都に行くのにはもう一つ理由があるんだ。それはね?旦那さんを見つけるため!」


「もう私も25だからねー」とフィリアさんは続けた。確かに、フィリアさん一か月前の誕生日の時も「そろそろ結婚とか考えた方がいいのかなー」なんて言ってたっけ。その時は確か、「まだまだお若いですよ!」などと言った気がする。


「フィリアさんならきっといい人と巡り会えますよ!だって、とっても綺麗ですから!」


「サツキー!あぁもう好き!大好き!子供が出来たら絶対に見せに来るからね!」


 またむぎゅうっと私に抱きついてきた。く、苦しい…。


「はい、約束ですよ?」


「ん、約束!」


 抱きつかれながらも、私は終始笑顔だった。やっぱり、フィリアさんの包容力というか、母性というかに惹かれてるんだろう。それはきっと、私以外にも通じる。きっと、きっとだ。


 そうやって語り合っているうちに、いつの間にか師匠は眠りについた。可愛い寝顔だ。ほんと、子供みたい。

 私も眠るか。おやすみ、フィリアさん。




 翌朝。

 私の料理を食べたあと、フィリアさんは私にペンダントを渡してくれた。これは…。


「今日で、小売の魔女は引退。王宮勤めなんかしてたら、小売なんてやってらんないからね」


「それって…」


「うん、あなたに受け継いで欲しいの。今日から、君が小売の魔女。私の一番弟子のサツキなら、きっと私以上に有名になっちゃうよ」


 そっか。王宮勤めって忙しいイメージだからな。フィリアさんと言えど、両立させるのは難しいか。私が、小売の魔女を継承する。歴史はあまり深くないのかもしれないのだが、この場合そんなことは関係ない。フィリアさんの魔女名を継承するということに意味があるんだ。

 魔女名とは、その名の通り魔女を象徴する名だ。小売業を生業(なりわい)としてるから、小売の魔女。

 その名を背負うには、私は若すぎる。まだその心構えもできてない。


「あんまり気負わなくていいの。この魔女名はね、他人と支え合いながら生きる。そんな魔女名なんだよ」


「支え合いながら、生きる…?」


「そう!小売ってさ、ひとりじゃ成立しないんだよ。売り手がいて、買い手がいて。そうして初めて、成立する。そんな風に、時に他人に支えられ、時に他人を支える。それが魔女名の由来なんだ。だからさ」


 フィリアさんは私の首にペンダントを掛ける。これは魔女の身分証明書みたいなもので、魔女でそれぞれ少し違ってくるらしい。そして、宝石には小さく、小売と掘られていた。

 これで、正式に魔女名の譲渡が完了したのだ。


「分かりました。私が、小売の魔女を受け継ぎます。でも、師匠はどうするんですか?魔女名の変更って可能なんですか?」


「できるよー。もう手筈は整ってる。それに新しい魔女名も考えたんだ!黎明の魔女、どうかな?」


 黎明って確か、明け方って意味だったかな。フィリアさんがいつも着てる、真っ白な服にピッタリだ。


「すごく似合ってますね、それにかっこいいです!」


「だよね!さすが愛弟子!わかってくれるかー!」


「はい!」


 そんな他愛のない会話をしつつも、着々と準備を完了させるフィリアさん。着替えと携帯食をリュックに詰めて、髪をくくる。箒に乗る時だけ、髪が鬱陶しいから結ぶらしい。


 外に出ると、村のみんなが広場に集まっていた。


「もしかして、知らなかったの私だけですか…?」


「魔女さんに、サツキちゃんには言わないでって言われてたからねー」


「ねー」


 少女二人が顔を合わせて笑う。はぁ、みんな知ってたのかぁ。


「サツキさん、これを」


「これって…」


 村長さんが、私に筒状の魔道具だろうか?を渡してくれた。これ、クラッカーだよね。フィリアさんが作ったのだろうか。


「みんな行き届いたかな?では、手に構えて…」


 すると、皆がクラッカーの紐部分に手を掛けた。私も慌てて手を掛ける。


「小売の魔女改め、黎明の魔女様の新たな門出に祝福と幸運を願って!そーれ!」


 パンっとクラッカーが作動し、色とりどりのテープが空を舞う。私は、フィリアさんのこれからに溢れんばかりの祝福と幸運を、心から願った。


 小さな荷物を背負い、師匠は箒にまたがって空へ浮かぶ。


「みんなありがとー!」


「お気を付けて!」


「元気でねー!」


「達者でなー」


 フィリアさんは大きく手を振りながら、さらに高度を上げていく。私も、フィリアさんに見えるように負けじと大きく手を振った。


 そして、猛スピードで日の出の方向に飛んで行った。黎明の魔女は、朝日の中に消えていく。


「お元気で…」


 呟いた言葉は、フィリアさんに届かないだろうけど。少しでも、私の心が、私の感謝が。フィリアさんに伝わったら、嬉しいな。


 それから、私の生活は少し変わった。前と同じように、午前中は薬草を回収し、午後は調合をする。しかし、そのどこにも、フィリアさんの姿はなかった。時々、誰もいない空間に、「師匠!」と語りかけて少し寂しくもなるけど、私はいつかまた会えると信じて今日も『小売の魔女』として生きていく。


 あぁ、変わったといえば…。あれから何故か、ユニコーンをよく見かけるようになった。私には警戒しないからだろうか。それと、一日一回ほど角が伸びてしまって癇癪(かんしゃく)を起こしているユニコーンを見かけた。

 癇癪を起こしてる理由だが、私は角が地面につっかえて草が食べられないからだと睨んでいる。


 休日は前に貰った合鍵を使って、フィリアさんの家の掃除もしている。いつひょっこり帰ってきても良いように、毎週欠かさずにやってる。


 そして秘薬はと言うと、時々小売の魔女の噂を聞き付けてやってきてくれる商人の方に売っている。回復薬の約2倍の値段で売れるのだ。一度も来たのを見たことは無かったので、なぜ私を知ったのか、理由を聞いてみたら、口を揃えて「黎明の魔女様がいつも話しているから」と言う。師匠、かなり顔が広くなったみたい。弟子として私も鼻が高いな、なんちゃって。


 それから、約5年が経った。私が薬草採取もとい角の採取から帰ってくると、扉が叩かれた。お客さんかな。私はもう23歳になった。


「はーい、ただいま」


 扉を開けるとそこに居たのは、真っ白な服と対極的な黒い髪、そして瑠璃色の瞳。

 間違いない、フィリアさんだ!


「久しぶり、サツキ!」


「師匠!」


 私は、思わず抱きつこうとするも、フィリアさんの腕の中に抱えてるソ(・)レ(・)を見て思いとどまる。もしかして…!


「お子さんですか?」


「そう、名前はフェリス」


「ご、ご結婚並びにご出産おめでとうございます!」


 あれ、そういえば旦那さんの姿が見えない。王都に居るのだろうか。


「ありがとー、触ってみる?」


「いいんですか?」


「うん、優しくねー」


「はい」


 私は、籠(かご)の中に入ってる、フェリスちゃんの柔肌に触れた。ふにふにで柔らかくて気持ちいい。手を触ると、握ってくれた。


「ありがとうございます。家に入っていかれますか?」


「うん、お邪魔させてもらおうかな」


 フィリアさんを家に入れ、リビングに通す。そして、フィリアさんの大好きなコーヒーを淹れて、それを差し出す。


「ふぃー。コーヒーを淹れるのもかなり手馴れたもんだねー」


「仕込まれたからですよ、師匠に」


「そーだったねー。でも私を唸らせるなんて大したもんだよー」


「唸ってもなかったし、それ自分で言えますか?」


 私は、そんな小言を言いながらも、どこか誇らしげな気分だった。元々はフィリアさんの家の充満したコーヒーの匂いにもむせ返っていたほどコーヒーには慣れてなかった。コーヒーショップなんて私には無縁だったし。

 今では、一日一杯朝にコーヒーを飲むのが当たり前になってしまった。師匠と一緒にいた時から、その週間を忘れたことは無い。


「師匠、ところでいつまでここに居られるんですか?」


「それがね?明日の昼過ぎには帰らないといけないの。だからそれまでに、村のみんなとも話さないと。もちろん、サツキともね」


「そうですか、王宮勤めは大変ですね」


「本当にねー、面倒な課題は山積みだし。まぁ、それも私にかかればすぐ片付くんだけどねー?」


 ワッハッハー!とフィリアさんは笑い声を上げた。全く、本当に調子のいい人だな。楽観的で、楽天的。なのだが…、いや、だからこそ、この人の周りには人が集まる。旦那さんも、そんなところに引かれたんだろう。いつも笑顔を絶やさない、そんな彼女に。


 昼から、フィリアさんに私の成長を見てもらった。薬品は一通り調合して見せていたので、今度は魔道具を作って見せた。


 手順は簡単。まずは外装を作るために、小さな木材を削って、形を整える。それに魔法をかけるだけで、簡単な魔道具…御守りの類は完成する。


「ふむぅ、出来栄えは申し分ないね」


「ささやかな幸福と、祝福を願って作りました。師匠に差し上げます」


「え、いいの?嬉しいなぁ」


 そう言うと、フィリアさんは新しい魔女名の刻印されたペンダントの紐に、私の作った御守りを通した。


「確かに、魔道具作成のスキルについては上がってるみたいだね。でも、背は伸びてないなぁ」


「ほ、ほっといてくださいよ!」


「んー、にしても、背が伸びてない、と言うよりかは成長してない、って言った方が正確かもね。だってさ、私だってその年の時にはもっと大人びた顔立ちしてたよ?」


「うーん、確かに」


 今の私は23歳。その割には、童顔だ。それに、何故だろう。最近髪も伸びなくなった。何が原因があるのだろうか。


「何か新しいスキルでも付与されてるんじゃない?成長が止まるスキルとかー」


「なんですかそのデメリットしかないスキル」


「とりあえずスキルスキャナー使ってみたら?」


 フィリアさんの提案で、スキルを確認してみることにした。魔法陣のようなものが書いてある部分に、ライセンスを置くと、詳しいスキルが見られる。実は、これはフィリアさん宅から拝借したものだ。


「これ、私のだよね?」


「は、はい、すみません…。作るのが困難と聞いていたので…」


「いいのいいのー。置いて行ったものだから、好きに使ってもらっていいよ」


「ありがとうございます」


 さて、フィリアさんからも許可を貰ったことだし、早速スキルを確認してみよう。


『名前…サツキ・ハタノ

 職業…魔女

 Lv…41

 保有スキル

 ノーマルスキル…魔道具制作3、薬品調合3、薬草鑑定3、錬成鑑定3、魔術3、魔法3、錬成術3、料理3、採掘2、錬金2

 ユニークスキル…動物愛撫、不老不死』


「なるほど。かなり熟練度が上がってるみたいって言うか、不老不死!?」


「えぇ、私何もしてませんよ!?秘薬を毎日作ってるだけだし、不老不死になるいわれはないですよ!」


「うーん。あ、こういう言い伝え知ってる?ユニコーンは角にマナを溜め込むんだ。それで、マナが多くなりすぎると、気性が荒くなるの。そうならないように、角を折ってマナを放出する」


 なるほど、気性が荒くなるのにはそういうわけが…。草が食べられなくて癇癪を起こしてるわけではなかったのか。


「で、ユニコーンのマナは特殊で、生命に影響を与えると言われているんだ。それを切り落とすと、マナが変化して万病に効く秘薬の材料になるの。で、角を折る前は生命のマナが溢れ出てて、触れた者に万年を生きる力を与えるって言われてるんだ」


「へ、へぇ…」


「言い伝えだとばかり思ってたんだけど、まさか本当とは…。角に触れようにも近くに来ると、逃げてっちゃうからね。目撃情報すらなかったんだ」


 はぁ、それじゃ私はこれから不老不死になるわけだ。って、マジで!?


「私本当に不老不死なんですか!?」


「まぁ、スキルとは文字通り一生付き合っていくものだからね、消すことは出来ないよ。そんな者を殺すためのアンデッドハンターなんて組織もあるんだけどね。まぁ、こんな辺境だと大した噂にもならないだろうけどさ。悪い噂がたってなければ大丈夫だよ。私もあまり悪い噂は立てないようにするし」


 それなら安心だ。とはいえ、私はお腹が減る。不老不死であろうともだ。飢餓状態でも、死ねないというのは軽く言って拷問だろう。そのためにも、多少なりとも外界との接触が必要となってくるのだ。


「でも、少し寂しいです。師匠や周りの人々が居なくなっても、私だけずっと生きていくというのは」


「確かに…。なら、最期を笑えるようになろうよ。いい思い出だったってさ。少なくとも、私の最期は笑って見送って欲しいな。一報送るようにするからさ」


「…わかりました、出来るだけ頑張ってみます」


「うん、いい弟子だー」


 フィリアさんは私のことを、あの日と変わらずに撫でた。いや、変わってないのは私だけか。少しだけ、彼女のことを見上げなければ、目が合わせられないようになっていた。


 それから、彼女と私は村のみんなの元に向かった。みんなは彼女の帰りを祝福し、酒場で宴会まで開かれた。


 翌朝。フィリアさんは王都に帰って行った。フェリスちゃんを籠に乗せ、そして箒に引っ掛けて。それ以来、私はフィリスさんに出会うことは無かった。


 それから約200年程だろうか。私は小さな村での少しの出会いと別れを繰り返した。

 そんなある日のこと。


「お前が氷の魔女か」


 なぜか白色の巨龍が家を訪ねてきた。

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