↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

第二話:師弟!

 私がフィリアさんに弟子入りして一ヶ月。確かに、学ばせてもらうことも多い。薬草の積み方、薬品の調合の仕方、それと文字の書き方まで。本当に何から何まで教えられてばかりだ。

 その代わり、雑務をこなすことになった。朝ごはんに関しては私が早めに師匠の家に行き、用意しておく。おかげで料理スキルの熟練度がLv1になった。また、師匠は整理整頓が苦手らしく、書類が大量に床に散らばっている。なのでそれも片す。


 フィリアさんは私を「サツキ」と呼ぶようになった。なんでも、「師匠としての威厳を見せたいから」らしい。確かに、呼び捨てにされた方が威厳はある。

 でも…。


「おはようございます、師匠。朝ですよ」


「ふぁう…おはよぉ、今日も朝早いねぇ」


「朝ごはん出来ましたよ。さぁ、起きてください。布団干しますよ」


「ほーい」


 寝癖の目立つ頭を掻きながら、フィリアさんは体を起こしてまた欠伸をする。


「もう一眠り…」


「師匠!」


「分かったよぅ」


 そんなことを言いながらも、師匠は布団から出る様子がない。さて、ここは泣き落とし作戦だ。


「ご飯、冷めちゃいますよぅ。私は師匠と一緒にご飯食べたいんですから、私のご飯まで…」


 既にご飯はできてるのに、このままじゃ冷めきったものを食べないと行けなくなる…、という意味を込めて目を潤ませる。


「んー、えへー」


「ぎゅむ!?」


「可愛いなぁ、愛弟子ちゃーん」


 フィリアさんはむぎゅむぎゅと私を抱き枕のように抱きしめて、寝っ転がった。く、苦しい…。一頻り抱きつかれた後、ムクリと起き上がる。


「わかりました、師匠は起きます!さーて、今日の出来はどうかなー?」


「割と出来はいいと思います!」


 よかった。起きてくれた!とまぁこんなことを毎朝やってる。どうやら師匠は朝に弱いらしい。でも、こうやって起こすと起きてくれる。


「はむっおいしー!」


 目玉焼きトーストなのだが、フィリアさんは基本私の料理にはダメ出しはしない。というか、笑顔で全て平らげる。


 午前中は薬草集め。師匠のあとを追い掛け、私も薬草を取ってみる。


「ニッコウ草はね、その名の通り日光がめいっぱい降り注ぐとこに生えてるの。で、ジメジメ草がこうやってジメジメしてるとこに生えてる」


「まんまですね…」


「そだねー。まぁ、まずは生えてる場所とか、特徴とか覚えて行こう。スキルが上がるまでは、ね」


「はい!」


 相も変わらず、薬草鑑定の熟練度はLv1のままだ。実は、スキルレベルを見るにはスキルスキャナーと言われる器具を通さなければならないらしい。大きさはさほどでは無いのだが、どうやら少し素材の入手が難しいらしい。


 午後からは調合の練習だ。練習と言っても、ほぼ実践みたいなものだけど。

 えっと、これがニッコウ草で、これがカザカミ草。そして、瓶に詰められた湧き水を少量加え、その後にフラスコに入れて、ガラス棒でかき混ぜる。

 これがまた難しい。調合の割合が少しでも狂っていると、何もかもがぱあになる。フィリアさん曰く、「スキルの熟練度が上がると調合の成功率も、割合も大雑把でよくなる」のだとか。割合も大雑把でよくなるとは…。スキルというものもバカにできない。


「2:6:2で調合…」


「あぁ!それじゃダメ!」


「へ?ひゃああ!」


 ドーン!ととても大きな爆発が起きた!調合に失敗すると毎回これだ!

 うへぇ、髪が縮れて手が火傷してしまうから苦手だ。運が悪い時にはフラスコが割れた拍子に窓まで割れてしまうこともある。

 こんな時のために、回復薬を何本かフィリアさんに買っておくように言われた。おかげで金欠気味だ。はぁ、結構値が張るんだよな。フィリアさんも作れるのだが、さすがに街全員の分の回復薬を作るほどの材料を集めるのは面倒だと言っていた。

 それを塗ると、痛みは引いていき、寝てる間には火傷は治る。


「残念、今の割合は2:5.8:2.2だったね」


「はぁ、まだ慣れませんね…」


 調合の割合というのは本当にシビアだ。でも、魔女として薬品調合は避けては通れない…!


「まだまだ若いから大丈夫だよー。さ、明日は朝からマーケットを開くよ!街のみんなに届けないと!午後からはサプライズもあるからね!」


「サプライズ?何かあるんですか?」


「何があるのか分からないからサプライズなのです!」


 確かに一理あるのだが…。でも、何があるんだろう。気になるなぁ。




 翌朝。珍しく早起きして、自分が作った魔道具をフィリアさんは出店に並べていた。DIYで作ったような、簡素な棚だ。しかし、フィリアさんの並べた品はまるで宝石のように輝いて見えた。

 私も魔道具を作ったことはあるのだが、やはりというかなんというか、失敗してしまった。

 黒い噴煙を上げて変な丸焦げた物体が出来上がったのだ。うさぎのお守りを作ろうと思ってたんだけど。難易度は低いはずなんだけどなぁ。


「おー、サツキ!遅いぞー。日はもう昇ってる!」


「師匠、今日に限って早起きですね」


「今日だから、だよ」


 そう言うと、フィリアさんはパンと手を叩く。そして、大声を張り上げて呼び込みを始めた。


「さーて!小売の魔女の本領発揮だよー!」


 そう言うと、町の人達が集まってきた。どうやら町の土曜日の風物詩みたいな感じになっている。


「おー、魔女様の出店だー!」


「今日も品揃えいいねー。これなら王都に店出してもいいんじゃない?」


「そんなことあるのかなー?あははー」


 フィリアさんはふふん!と胸を張る。なるほど、この世界にも王都はあるのか。

 ならば、なぜこんなところにいるんだろう。それほどの実力があるのに、どうしてこの町で過ごしているんだろう。


「さ、君も売り込みしなよ。作ったでしょ?」


「で、でも、私の作ったのは粗悪品ばかりですし…」


「それでも買ってくれるって!さー競争だよ!売り上げは全部自分の懐に入れておっけーだからね!」


 そ、そうか!フィリアさんはわざわざ私に売り込みをさせるために、回復薬を!これは競争に見せかけた相乗効果!買い物をしてる隣で客引きをしてたらそちらにも目がいく!少なくとも、私のお守りを買いに来てくれた人は確実にフィリアさんのほうに惹かれていくだろう。

 してやられた…。こうなったら、思いっきり儲けて一泡吹かせてみせる!


「小売の魔女の弟子のサツキです!御守りおひとついかがですかー?」


「あら、お弟子さんも店を出してるのね」


「味があっていいな。おひとつ貰おうか」


「は、はい!ありがとうございます!」


「僕あれが欲しい!」


 こうして、私は自分で言うのもなんだが子供を中心に結構な人気を博していた。が、フィリアさんに敵うわけがなく、売り上げでは倍近いことになってしまった。


「はぁ…、師匠は凄いですね。敵いませんよ」


「サツキちゃんも繁盛してたよ。初日でこれなら将来有望だ!師匠は鼻が高いです!」


 フィリアさんはくしゃくしゃと私を撫でた。やっぱりこうやって撫でられてると落ち着くなぁ。すると、何やらフィリアさんはおもむろに手に入れた銀貨をいくつか私の売り上げに混ぜた。


「ちょ、何やってるんですか!それは師匠の…」


「私の売り上げなら、君に少し分けるのも私の勝手だよね。これで、当分は食べて行ける?」


「…はい!」


 私は師匠に抱きついた。これで飢える心配はない、ありがたい話だ。

 食べて行けると聞いたからだろうか。私のお腹がくぅーとなった。どんどん顔が熱を持つのがわかる。


「よーし、今日はなんでもご馳走するよ!ギルドの酒場に直行だー!」


「なんでも…じゅる…!」


「おうっ、ヨダレダラダラだね。もしかしてご飯まだ?」


「はい…!」


 いつもフィリアさんの家でご飯を作って食べてるからまだ朝食すらも食べてないんだよな。


「そっか、なら早く行こう!」


 それから、ギルドの酒場でハンバーグを頼んだ。空腹は最大の調味料とはよく言ったものだ。あっという間に平らげて、デザートのプリンまで食べてしまった。てかこの世界プリンあったんだ。


 午後。何やらサプライズがあるらしいので、心が踊っている。外で待っててと言われたけど…。


「お待たせー」


「あの、そろそろ何があるのか教えてくれませんか?」


「その前に湖の畔に行こー」


「へ?」


「いいからいいから」


 半ば強引に、私は湖の畔まで連れてこられた。な、何があるんだ。そこでしかできないことがあるのかな。


 畔に着くと、フィリアさんは杖を手に構えた。


「これなーんだ!」


「杖…ですか?」


「せいかーい!これから魔術と魔法のお勉強を始めるよー!」


「魔術…魔法…!」


 やったぁ!やはり魔法使いたるもの、魔法を使ってみたいよね!でも一つ気になることが。


「はい、師匠!」


「なにかね、愛弟子?」


「魔術と魔法ってどう違うんですか?」


「よく聞いてくれたね。魔術とは、いわゆる魔道具を媒体とすることで、魔法とほぼ同等の力を行使するために作られたものだよ」


「なら、魔術より魔法の方が優れているんですか?」


 先程の言い方だと、魔術は魔法の再現であり、それは魔法には遠く及ばないと言っているふうにも聞こえた。


「そういう訳でもないよ。能力の面では魔法の方が強くても、魔術は詠唱をしなくても発動させることが出来る。だから、詠唱する暇もない時や、緊急事態の時は魔術を使う方が懸命。一長一短だね」


 なるほど、てかそれより早く魔法を使いたい!


「おっと、そろそろ君のことだから、魔法や魔術が使いたくてうずうずしてるんじゃないかな…?」


 私は眩いほど純粋な視線でフィリアさんを見つめた。早く、早く魔法打ちたい…!


「君って本当わかりやすいよね」


 やれやれ、とフィリアさんは少し呆れたような態度をとりつつも、私に杖を持たせてくれた。


「さぁ、まずは風魔術から。ここに風を起こして、木の葉を浮かせてみて?」


「ど、どうやってですか?」


「んー。風よ吹けーって一回念じてみて」


 何だかふんわりしてるなぁ。フィリアさんは口癖のように、「私って教えるの苦手なんだよね」って言ってる。でも、なんだかんだ手取り足取り教えてくれるから、それで理解できるようになる。


 とりあえず念じてみるか。風よ吹けー、風よ、暴風よ、烈風よ…!


「って、まずい、それじゃ強すぎ!」


「へ?ひゃああ!」


「サツキ!」


 私は突如発生した竜巻に吹き飛ばされ、宙を舞った。わぁ、私にこんな才能が…!ってそれどころじゃない!死ぬー!

 あんまりだ!転生してその一ヶ月後に死ぬだなんてあまりにも酷すぎる!


 その時だ。フィリアさんの杖が光り、竜巻が消え去った!そして、宙を歩くようにしてこちらに近ずいてくる!

 そのまま私を抱え、フィリアさんは私をそっと地面に下ろした。


「はぁ、はぁ…」


「もう!サツキ!」


「ご、ごめんなさい!」


 フィリアさん、明らかに怒ってる…。私は怖くて目を瞑った。そりゃそうだ。私だけならともかく、フィリアさんまで危険に晒してしまったんだ。


 すると、ふんわりと何かが頬を撫でた。ゆっくりと目を開けると、とても心配そうな顔をしてるフィリアさんが、私の頬をハンカチで拭いてくれていたのだ。


「大丈夫…?」


「…はい」


「そっか。怪我なくて良かった」


 そう言うと、フィリアさんは私を抱きしめて、頭を撫でた。本日何度目だろう。それでも、何だか安心したからか、妙に涙が込み上げてくる。


「うぅ…」


 それから、私はフィリアさんに泣きついた。人一倍、死の恐怖は知っているからだ。そして、フィリアさんの温かさに、生の実感と人の温かさを感じた。その温かさに、いつまでも浸っていたいと、私は依存にも似た感情を抱いてしまった。


 それから数分後、私は泣き止み、それと同時に気恥しさがこみ上げてきた。


「師匠、さっきのは忘れてください!」


「えぇ、サツキ可愛かったよ?」


「さっきのは…そう!気の迷いです!」


「分かった、そういうことにしとくよ。そうだねー、きっと魔術を放つ時のイメージが強力すぎたんだろうね。それだと魔力もすぐ枯渇しちゃうし、こうやって慣れない大規模な魔術なんかを使うと自分や他人にも被害が及ぶからね」


 うぅ、耳が痛い。実際死にかけてたし、ぐうの音も出ないとはまさにこの事か。今度は小さく、そよ風、そよ風…。


「…うん、上出来だね」


「やった、今度は上手く行きました!」


「よかったね、今度はこれ!」


 これは…ゴムボール?魔術の練習だろうけど、どんな練習をするんだろう?

 すると、今度は木の枝で円を描き出した。んー、小学生の時にやったペタンクを思い出した。

 学校の校庭で地域行事の一環として開催されてた。こうやって円の中に、鉄の玉を転がして相手の玉をはじき出す球技だ。


「このボールを風魔術を駆使して転がして、円の中に入れてね。しかし、魔術の発動回数は二回まで!それが十回成功したら、今度は一回で入れてみよう」


「はい!」


 これは案外難しい。強すぎるとボールが円を通り過ぎるし、弱すぎると少しも動かない。


 それから一時間。魔力が尽きるとフィリアさんが持ってきた魔力水を飲み、リチャージする。魔力水を飲むと、魔力が回復するのだ。


 これを繰り返すうちに、何となく掴めてきた。その結果…。


「や、やりました!一回目成功です!」


「成功する度に一歩下がってね」


「はぁい…」


 結局、この日は二回しか成功しなかった。しかし、決してフィリアさんは奢らず、怒らず、私に「上出来だよー。初めてなんだからそんなものだって」と言ってくれた。


「では!一流魔女へ一歩進んだサツキを祝して!カンパーイ!」


「乾杯!」


 自分で言うのもなんだが、まぁここはフィリアさんに合わせよう。今日は私が好きなカレーライスだ。ちなみに甘口風味。はいそこ、子供舌とか言わない。


 フィリアさんの年は24歳らしい。案外年上だったんだ。私19歳くらいだと思ってた。


「師匠はお酒が好きですよね」


「そうだね、中でも赤ワインが好きー。肉料理に合うんだよ、これがー」


 顔が高揚して、目が虚ろになっている。あ、これまずいな。ご飯食べ終わるまで持てばいいけど…。

 そのやな予感は的中した。半分くらいまで食べ進めたところで、フィリアさんはガシャンと音を立ててさらに顔から突っ込み、眠りこけてしまった。


 私はとりあえずフィリアさんの顔を上に向かせ、顔面にくっついたカレーを拭き取る。こりゃ完全に酔いつぶれてるや。


「師匠…!起きてください…、寝室に、行きますよ!」


「んにゃー、もっと、しゃけー」


「そうですねー」


 私は完全に泥酔したフィリアさんを背負い、寝室へ向かう。そして、ゴロンとベットに寝かせた。


「じゃ、私はこれでお暇します。あとは酔うなりなんなり好きにしてください」


「えへー、いっぱい、浴びんばかりのー」


 そんなにアルコールを摂取したらアルコール中毒になるのにな。まぁ、夢の中くらい夢を見せてあげよう。


 こうして、私の一日は終わり。あとは家に帰り、風呂を沸かして眠るだけ。

 あ、お風呂に関してだが、特殊な魔道具を使うと風呂が湧く。一応温度は調整できる。ふたつのボタンのようなものが着いており、赤い方で加熱、青い方でぬるくなる。


 風呂から上がると、タオルで髪を丁寧に拭く。この世界ではドライヤーはないのだ。魔法使いは魔術や魔法で髪を乾かすらしいが、あいにくあの杖はフィリアさんのもので、魔法の詠唱も教えて貰ってない。

 なので、寝癖も目立つ。はぁ、早く1人前になりたいなぁ。動機が不純かもだけど。


 とまぁ、これが私の一日だ。スローライフに向けて、着々と進歩中!なのだろう、多分!まぁ、急がば回れ、成功に近道はない。焦らずのんびり、師匠について行こう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。