第一話:転生!
私の名前は波多野皐月。まぁ、成り行きで学生生活を送り、受験生になった。
高校受験はある程度頑張って、一応の進学校に進学。そこでそこそこの成績を収めていたら、何やら今のままでは行きたい大学に行けないらしいことに気がつく。
真剣にまずいと思ったのは、一ヶ月前。共通試験の結果がなかなかに酷かったのだ。そこから尻に火がついたように勉強して、何とか点数は上がった。自己採点では。それでも奮起して徹夜もして、迎えた受験当日。こんなことになるのなら、真剣に勉強しておけばよかった、と何度後悔しただろう。
「ふぁう…眠いぃ…」
受験会場の大学に、眠気眼を擦り足を進める。一夜漬けが裏目に出たか…。にしても、かなり人通りの多い場所に出てきた。あ、やばい眠気が…。
ふらりと横断歩道の方に重心がズレていく。しかし、その時気がついた。信号が赤なのだ。どよめきとクラクションが頭の中をうるさいほどに駆け巡る。パシャンと何かが弾けて、意識は完全になくなった。あぁ、なんだか眠りにつくみたいだ。
こうして、怠惰で怠慢な私の人生は幕を閉じた。
「こんにちは、まだ酒に飲まれる幸福も知らない嬢さん。お生憎ですが、あなたは死んでしまいました」
「は、はぁ。酒って美味しいんですか?」
「そりゃもう」
目を覚ますと、何やら目の前に天使像を具現化したような女性が椅子に座っていた。てか酒の話なんて聞いてる場合じゃないや。なんでこんなところに…。そうだ、この人がさっき言ってたじゃないか。私、あの時…。
「死んだんだ…」
「そうです。受け止め難い事実ではあると思うのですが、これもまた事実」
そ、その割には体が痛まない…死んでるから当たり前…か!?
私は体が傷だらけなのではと思い、それを確認したいと思っていたのだが…!なんということでしょう。少しは可愛げのあった私の体が、人魂のような球体に!
「私の…体は?」
「この場において肉体は意味を持たないので。魂だけちゅいーっと」
ちゅいーっとって!簡単に言ってくれるじゃないか!まぁ、確かに全身にタイヤ痕やら身体中ぐちゃぐちゃになってたりしてたらもっとあんまりだからな。一番は、事故に遭う寸前の状態で…というのはさすがに強欲というものか。
「あ、あの、私ってやっぱり地獄行きですか?」
「へ?何故ですか?」
「賽の河原とかって…」
よくある話だろう。親より先に死んでしまった子供は賽の河原で石を積む。一定数の石を積み上げるまで来世にたどりつけない。
地獄とか来世の存在を鵜呑みにしている訳では無いのだが…。
「あれは十七歳以下限定です。あなたは十八歳ですので、その必要はありませんよ。てなわけで、あなたには今から転生先を選んでもらいまーす!」
あったのか!それより…!
「て、転生!?」
「よくあるでしょう?異世界に転生して無双してハーレム…みたいな」
「あ、あぁ。でも、そんなうまい話…」
「あるんです!」
うおっ、食い気味。にしても、こんなうまい話があったのか。てっきり創作物の世界だけかと。
「さて、あなたには三つ。贈り物をさずけましょう。魔物が闊歩する世界へ丸腰で送り出すのもなんですから。なにか要望あります?」
おお、まさにゲームの世界!でも、結構危険っぽい。ならば。
「なら…ある程度の生活の快適性の保証。のんびり過ごしたいので…」
安全第一とはよく言ったものだ。それに、これなら複数の恩恵が受けられるかもしれない。あとは…、あとは…。
「何がいいでしょうか?」
あまりに思い浮かばないので、逆に聞いてしまった。
「なら、こういうのはどうでしょう?『動物に嫌われない』体質にしましょう!」
「動物に嫌われない?」
「はい、あなたの生前の生活を覗き見させて貰いましたが、よくお友達の家のペットに吠えられてたそうですね」
何やら羊皮紙のようなものを空中から取りだし、私の過去を暴露する。プライバシーの侵害だ!…とは言っても、死人に口なし。今更何言っても無駄か。
「な、ならそれで」
「あと一つですね。まだ決まっていないのなら、過去の自分の夢をある程度実現させることも可能ですよ?」
過去の自分の夢?お姫様とか、お花さんとか…。今となれば特にそそられるものでは無いが…。
「医者ですよ」
あぁ、確かに思い出した。二分の一成人式の時、作文を作るためにそう嘯いたっけ。でも、医者に多少憧れがあったのも真実。私って体弱かったからな。かかりつけ医にはよく行ってたもんだ。なので、その分憧れも強かった。その体で無茶した結果が、この体たらくなのだが。
「なので、その世界での医学に関する知識を、ある程度学べるように本を取り揃えておきます」
「それが三つ目でお願いします!」
これで三つだ!ここから心躍る冒険…じゃなくて、まったりしたいな。適当に生きて適当に死んでこう。
「承りました!それでは!やらせて頂きます」
こほんっと咳払いをして、彼女はコツンと杖で床を叩いた。すると、なぜか天井に光をも飲み込む大穴が開く。ぐるぐると渦巻くその穴に、私は椅子ごと吸い込まれた!
「アブラカタブラー!」
「ひゃあああああ!」
大丈夫なの!?本当に大丈夫なの!?原子レベルで分解されて元に戻れなくなったりしない!?あ、私死んでるから対して心配ないか…。とはならないよー!
笑顔で手を振る天使さんが遠くに遠のいていき、やがて視界を闇が支配した。
風が鼻腔をくすぐる。「くしっ」とくしゃみをしたタイミングで私は目が覚めた。ここは…平原か?私は状態を起こして周りを確認する。前に湖が見え、湖畔には村もある。その反対方向には森も。
かなり好立地だ。あれ、ここって庭?近くに家がある。よかった。実体はあるみたい。体に目立つ傷もなし。って、服も変わってる!窓に写った自分の姿に驚く。おとぎ話とかに出てくる魔女っぽい!黒いローブに魔女の帽子。スカートにブーツ。うん、魔女だ。
あれ、スカートのポケットの中に紙切れと鍵が…。
『この家はプレゼントします。その他の約束の品は家の中にあります』
手厚い施しだなぁ。ありがたい限りだ。これがある程度の生活の保証か。
私は家の中に入る。どうやら、この家の鍵で間違いはないようだ。新築だろうか。傷やホコリは目立たない。突き当たりのドアを開くと、そこにはリビングがあった。そこの机の上に、金貨の入った袋、短剣、そして本が。これが医学に関する本か。自分でゆっくり学ぼう。
短剣を携え、金貨袋を腰に着けていたポシェットにしまい、今度は湖畔の村を目指す。大して距離は無さそうだ。
その道中。
一匹のぷにぷにした物体が現れた。スライムだ、本当に異世界に来たのかと今更実感させられる。ここは…、剣で叩き斬る!
「あれ?」
ひらりとかわされ、反撃と言わんばかりに頭に攻撃してくる。うーん、痛くはないな。
地面に着地したタイミングで、ブスリと一撃浴びせると、スライムは溶けて四角形の宝石のようなものになった。サイコロみたいだ。
それから調子付いて、二体のスライムを討伐。動物とかには気が引けるけど、スライムなら別に気負うこともない。攻撃されても大して痛くないし。
それから道なりに進み、やがて村に到着。
「おや、旅の方かい?そんな風貌の子、あの子以外なら久しぶりに見たわね」
村に着くと、そこを歩いていた老婦人に声をかけられた。第一村人発見だ。というか、会話はできるようだな。
「いえ、私はあの平原の家に引っ越してきたんです」
「そう、この村はララベル村。ここは平和だから、腰の短剣の出番はほとんどないかもだけれどね。この辺、弱い魔物もあまりでないから。まぁ、のんびりしたいならもってこいの村だよ」
「そうですか!」
私は笑顔をいっぱいに浮かべた。私にとってはかなり過ごしやすい土地だろう。ここに腰を据えて、のんびりしよう。徹夜で受験勉強なんてものが性に合わなかったんだ。いや、もっと前から効率的に勉強をしてればよかった話だけど。
その反省を生かし、この世界では医学をのんびり学ぼう。
「あぁ、そうだわ。あそこ、見える?一際大きな赤いレンガの屋根の建物」
「はい、見えます」
煙突のある大きな建物があり、そこからは絶え間なく煙が上がっている。レストラン?パン屋?とにかく、釜戸やそれに近しい火を使う技術はあるらしい。
「あそこがギルドよ。困った時とかにも相談できるから、取り敢えず顔を出しておけばいいんじゃないかしら?」
「分かりました、親切にしていただき、ありがとうございます!」
「そんな大袈裟よ」
優しそうな人だった。見たところ、治安はいいっぽい。平和って言ってたし。それでは、教えてもらった通りギルドに行くとしよう。
ここは決して広いと言えるような村ではないが、大して飢えに苦しんでいる様子もなく、絶え間なく笑い声が聞こえてくる。子供たちも元気そうに遊んでいるし。
ほんと、ここまで好立地なとこってそうないよね。のんびりできそー。
そんなことを考えていると、ギルドに着いた。扉を押し開けて中に入る。中では、私より少し年上だろうか?の女性が受付をしているようだった。
「こんにちは、ようこそギルドへ」
「あの、これを手に入れたんですが」
私は宝石のようなものを受付さんに見せた。
「これは魔晶石ですね。モンスター独自の臓器で自らのマナを結晶化したもので、主に錬成などに使われます。こちらでの買取も可能ですよ。なお、ギルドへの加入が必要になっておりますが…」
「あ、お願いします。どうやったら登録できますか?」
「まずは登録料ですね。それからこちらの測定器に手を置いてもらい、ライセンスを発行して手続き終了となります」
なるほど。これからもこの村で過ごすだろうし、何より換金というのが魅力的だ。貴重な収入源にもなるだろうし。私は天使様からの贈り物である金貨袋をカウンターに置いた。
「これで足りますか?」
「そ、そこまで大金ではありません!銀貨5枚で十分ですよ!」
「すみません、私世間に疎く…。金貨1枚は銀貨何枚分ですか?」
「金貨1枚で銀貨10枚、銀貨1枚で銅貨10枚です。この場合、金貨1枚をお預かりして、銀貨5枚のお釣りとなります」
なるほど。後で金貨の数も数えておくか。金銭感覚が狂わないように、なるべく早く慣れないとな。
それから測定器と言われる占いに使われてそうな水晶の下になにやら箱がくっついた器具が運ばれてきた。おお、なんかそれっぽい。
「これに手をかざしてください。それで測定しますので」
「分かりました」
私は言われたとおり、手をかざす。すると、水晶になにか映し出されてきた。ほうほう…。というか、識字能力も付与されてるのか。なんの問題もなく、読むことが出来る。でも、意味が頭に浮かんでくるだけなので、書くことはまだ慣れないかも。後で練習しよう。
『名前…サツキ・ハタノ
職業…魔女
Lv…1
保有スキル
ノーマルスキル…魔道具制作、薬品調合、薬草鑑定
ユニークスキル…動物愛撫』
「動物愛撫?なんでしょうこのスキル」
「たぶん、動物に嫌われないってスキルだと思います」
「へぇ、そんなスキルが。初めて知りました。その他のスキルとしては、平均的なものですね。魔法使いの必須スキルと名高い五種のスキルのうちの三つです」
なるほど。この世界では動物愛撫ってスキルになるのか。その他にも、魔女として最低限のスキルは与えてくれたらしい。
パカッと箱の引き出しが飛び出して、その中にカードのようなものが入っている。
「こちら、ライセンスになります」
「ありがとうございます」
先程のスキルや情報に加え、私の顔も記載されてる。いつの間に撮ったんだろう。手をかざした時かな?なんかこのライセンスって、免許証を彷彿とさせるな。私は持ってなかったけど。
「あぁ、そうでした。換金ですね」
思い出したかのように、ぽんと受付嬢さんは手を打つ。私も忘れてた。
「スライムの魔晶石が3つですので、銅貨3枚になります」
ふむふむ、そんなものか。スライムって弱いし、そりゃ安価だよな。銅貨ってどのくらいの価値か分からないけれど。
「じゃあ、また来ますね」
「あ、はい!ありがとうございました!」
元気よく返してくれた受付嬢さんに手を振り返す。そういや名前も聞いてなかったな。今度機会があれば聞いておこう。
さて、まずは家に帰って、その後あの本に目を通そう。スローライフの幕開けだ!
そう思っていた時期が私にもありました。
簡単に言うと、この家には器具は揃えてくれているようなのだが、しかしながら私の知識は全く皆無だ。
この世界では、医学イコール薬学のようで、傷も薬を塗る、もしくは魔法で直すのが主流らしい。それが欠損ともなれば薬も意味をなさないこともあるのだとか。確かに、腕を切り落とされたところに薬かけて、また生えてきたら怖いもんな。それなら魔法で治す方がまだ頷ける。
というわけで、薬学を学ぶために本に目を通してみたのだが、何がなにやらチンプンカンプン。
というわけで、一通りの薬草を揃えに行くことにした。
「まずは、軽い風邪を治す薬から。ニッコウ草、カザカミ草、それと…湧き水か…」
ん?どれが薬草?あ、そうだ。こんな時こそ、薬草鑑定!って、どうやって使うの?とりあえず、その辺の草を掴んでみるか。
いくつか草を積んでみたところ、何やら頭に思い浮かんできた。お、きたきた!これが鑑定か!
これは…。
「薬草だ!ってアホか!そんなのわかってるわー!」
薬草鑑定ってスキルなんだから、薬草に反応するのは当たり前でしょ!
なにこれ!薬草か否かしか分からないの!?読んだところ、毒にもなりうる薬草もあるらしい。もしもその類の薬草なら!私、もしかしたら死んじゃうかも!
「おや、そこのお嬢ちゃん。どうかしたの?ニッコウ草を抱えて震えちゃって」
そ、そっか。これはニッコウ草なんだ。良かったぁ。これは無毒な類だ。
って、それより魔女だ!モノホンの魔女だ!私と同じような魔女帽子を被って、白衣を彷彿とさせる純白の服を着てる。いや、私も魔女だけど!
「い、いえ、なんでも!それより、あなた、魔女の方ですよね?」
「そう、私は人呼んで小売の魔女、フィリアだよ」
フィリアと名乗った女性は、私より少し年上…かな?すると、フィリアさんはおもむろに周囲の草を吟味しだした。
「それ、薬草ですか?」
「うん、あなたは?」
「サツキ・ハタノです。駆け出しの魔女をやらせてもらってます」
「サツキちゃんかー。よろしくね」
フィリアさんは、私の頭をくしゃくしゃと撫でる。あぁ、なんだか落ち着くなぁ。
「あの、フィリアさん、少し聞いていいですか?」
「ん?何?」
「私、薬草鑑定のスキルがあるんですけど、それじゃどの草が薬草かしか分からなくて。どうして、この薬草がニッコウ草だって分かったんですか?」
フィリアさんは、一瞥しただけで見抜いていた。私には分からなかったのに。
「スキルには熟練度ってのがあってね?ユニークスキルを除いて、最大でLv3まで上がるんだー。私はLv3だから、種類、鮮度、有効期限まで分かるよ」
「有効期限?」
「採取からある程度経つと枯れちゃうんだー。するとね、薬草も効力が無くなっちゃうの。熟練度は、スキルを使ってたら上がるよ」
へぇ、つまり私も薬草鑑定をし続けてたら熟練度が上がるのだろうか。あのおばあさんが言ってたのもこの人だろう。つまり、私とこの人以外魔女はいないのか?
もしかしたら風貌が違うだけでその他にも魔女や魔法使いがいるかもしれないけど。
そうだ。一人で勉強するよりも、教えを乞うた方が効率よく知識をつけられる。私は昔からそういうタイプだった。だから、自習も試験勉強以外は大してしなかった。なら、この世界でも誰かに教えてもらいながら知識をつけよう。この場合、この人しか私の師になり得ない!
「あ、あの!私を弟子にしてくれませんか!」
「はえ?弟子?」
「そう、弟子です!あなたに色々学びたいんです!師匠!」
「師匠…!うん!うんうん!わかった!私が君の師匠になろう!って言っても、私もなんでも出来てなんでも知ってるってわけじゃないから、私が知る範囲で教えることになるけど…」
「構いません!よろしくお願いします、師匠!」
よし、これでまた悠々自適に暮らせる算段がひとつ整った!ある程度の知識と熟練度を上げて一人前になるんだ!このフィリア師匠も優しそうだし。
「はわぁ…!ね、もう1回言って!」
「へ?師匠?」
「もっともっと!」
「師匠師匠師匠ー!」
「わー、かわいいかわいい愛弟子ー!」
師匠と呼ばれたのがとても嬉しかったようで、またわしゃわしゃと頭を撫でた。何だこの人、めちゃくちゃ可愛いな。
弟子である私が師匠に可愛いって言うのもなんだけど。
とりあえず、ここから始まるのだ。私の第二の人生が!




