8
キャメロン達から色々と夜会のことは聞かれたが、他に聞いてくるものはいなかった。
ラテイン公爵家より上位の家柄で婚約者のいない女性は他にはいないから、皆仕方がないと思ったようだ。
そんなこんなで学園生活は順調に進んでいる。
高台の光の任務についても順調だ。
最近では案内役は一回交代。王弟殿下とクリストファーは交互に案内役を務めてくれた。
回を重ねるごとにクリストファー、王弟殿下どちらともと軽口を言い合ったり、スイーツ意外にも美味しいものを見つけたら買ってきて任務の間に食べたりした。
でも任務の関係で3人で行動することはない。
あの夜会からは王弟殿下とクリストファー王子、どちらともぐっと距離が近くなった気はするけど、関係性は大きくは変わらなかった。
初めて高台の光としての任務を始めてから3ヶ月が経った。
ある日、父であるラテイン公爵に呼ばれた。
「高台の光の任務は大変だと思うが困ったことはないかな?」
「はい、ありません。任務の日はハルがいつもより豪華なランチBOXを料理人にお願いしてくれるんです。それに困ったことがあったらハンスに聞けば優しく教えてくれます。
先日は、ハンスが先代の高台の光は男性だったと教えてくれました。
先代の高台の光だったご先祖様は、冒険者として活躍しながら陰ながら国をお支えしたとか。
お話を聞いてワクワクしました。
まさか、小さい頃から読んでいた冒険小説はご先祖様をモデルにしたものだと知らなかったから!」
と楽しそうに話すリリアンナ。
自分の任務については、王弟殿下や第一王子が案内人として常に付き添っていることや任務内容は機密事項なので父にも話せない。
「リリアンナ、実は以前話をしていたバージニア家のブルーム殿とのお見合いの日取が決まってね。
3ヶ月も前のことだから覚えてないかな?
ほら、高台の光だと認定式を受けた日の朝だよ」
「…そう…でしたっけ?そんなお話覚えてません…」
後ろで控えていたハルは、これは絶対覚えてないな、と思った。
公爵様はリリアンナ様が寝ていようが何をしていようが構わずに話をしてしまう。
多分、またもやリリアンナ様がウトウトしている時に話したんでしょう。
リリアンナ様はウトウトしている時に話しかけると適当に返事をして寝続けるから…
「リリアンナ、来週の日曜日に決まったよ。高台の光であるお前の縁談は、受ける前に陛下に相談しなければならなかったから、こんなに遅くなったがいい縁談になるといいと思っているよ。
もちろん、リリアンナがお見合いをして嫌だと思ったら断っていいからね」
と父に言われた。
そうかぁ。兄妹達は5歳や6歳でお見合いをして縁談が決まって、その時は羨ましいと思っていたけど、私は自分の意思を言える年齢になってからだから、嫌なら嫌といっていいんだわ。
月曜日、魔法便が来た。
この日の午後は王妃様主催のお茶会の日で、お茶会の前にキャサリンとキャメロン、セレーナで色違いのお揃いのドレスを見せ合う約束をしていた。
魔法便の内容は1時に王城の中庭にくるようにとの事だった。
移動魔法の印がついた手紙だった。
3人には父のお使いで先にお城にいかねばならなくなったと魔法便を出して、いつもより早い時間にお茶会出席の支度をハルにしてもらった。
「任務のお知らせとは違うのですか?」
ハルが不思議そうに手紙を見る。
「そうかもしれないし、違うかもしれないけど。帰ってくる時間はないからお茶会の支度をして出ていくわ」
リリアンナは、1時に移動魔法を使ってお城に行った。
この手紙には移動魔法の印がついているので、持っていると移動魔法でお城に入れる。
ついた先はお茶会予定の中庭ではなく、温室だった。
お城には温室がいくつかあるが、ガーベラやダリアなど沢山の花が咲き乱れる大きな温室で、綺麗なガーベラに囲まれるようにしてクリストファー王子がそこに待っていた。
「リリー、今日はごめん。お母様のお茶会なんだよね。今日の格好も可愛いよ」
さすが王子様。流れるように女性を褒める。
「クリス殿下、どうしました?突然。
任務以外でクリス殿下に会うのは夜会以外で初めてだからびっくりしたわ」
「あれ?そうだっけ?
そうか…いつも任務の日は1日一緒にいるから忘れてたよ」
クリストファー王子は、もう一度リリアンナを見た。
今日は夜会の時とは違い、髪を編み込みにして清楚に結び、お茶会用のドレスは綺麗なピンク色だ。
リリアンナの透けるように白い肌にピンクのドレスが似合っていた。
「…リリーがお見合いをするって聞いたんだ。
リリーがお見合いをする事を承諾しているって。
…お見合いをしたら…」
ここでクリストファーの言葉が止まって、少し下を向いた。
「?」
リリアンナは首を傾げる。
「お見合いをしても…高台の光はやめれないし、僕や叔父上との2人きりの時間はずっと続くよ。しかも機密事項だから婚約者にも話せない。
それでもいいの?」
「うーん。お見合いについては…、高台の光の認定式の前に寝ぼけて返事したらしくて自分でも覚えてないの。
…お見合いってよくわからないわ。
だって生まれてから一度もお見合いをしたことがないし、婚約者候補がいた事もないし。
だからね、会ってみて気の合う相手なら、こん…」
リリアンナの返事が期待と違ったようで、クリストファーはおもむろにリリアンナの口にチョコレートを突っ込んだ。
リリアンナは話している途中なのに、チョコレートを入れられてうっとりしながらモグモグした。
飲み込んだ後、話の続きをしようとしたら、またチョコレートを入れられた。
5回くらいチョコレートを入れられて、リリアンナは食べながら話し出した。
「とにかく…一回会ってみるの」
「わかったよ!ならお見合いの場所はここ。
いいね?」
「?わかりました?」
「リリー。疑問形になってるよ」
ちょっとクリストファーが笑った。
そして、ポケットからハサミを出すと温室に咲いているピンク色のガーベラを一本取り、リリアンナの編み込みをした髪に挿してくれた。
リリアンナはドキッとした。
「今日はお茶会があるのにごめんね、これはせめてものお詫び。
もういっていいよ?お茶会に遅れたら呼び出した僕が母様に叱られる」
このやりとりのせいでリリアンナの頭は混乱して、お茶会は上の空で終わった。クリストファーが言いたいことが何かよくわからなかったからだ。
帰ってから、3ヶ月前の王妃様と2人きりのお茶会と同様にお菓子の形や味を全く覚えてない事に、後悔した。
そしてあっという間に日曜日になった。
クリストファーに指定された通りお城の温室に来てみるとそこにはなぜか王弟殿下が待っていた。
「ご機嫌よう、王弟殿下。」
とリリアンナ。
「今日は娘のためにわざわざ王城の温室を貸していただき、ありがとうございます」
と父が言った。
「こんにちは、ラテン公爵。
リリーは今日も一段と可愛いね。
今日リリーとお見合いするバージニア家のブルームは元々は、私が率いていた私設騎士団の団員でね。
宮廷騎士団長になった今でも私の部下であることは変わりないんだ。
今日ここでリリーとブルームが会うと聞いて来たんだよ」
と話しながらリリアンナの前にレモンドーナツを置いた。
これはアニアタの新作のドーナツ!
ドーナツに心を奪われたリリアンナは
「はい」
と適当に返事をすると、ドーナツに手を伸ばそうとした。そこにクリストファー王子が現れた。
「こんにちは、ラテイン公爵、リリー。
叔父上も来たんですか?私はブルーム殿の弟君のヤンソンと、初等部から同じでね。
ヤンソンの兄上がどんな人か是非、会ったみたいと思って来たんだよ。
別に同席して構わないよね?」
とリリアンナの前にフルーツサンドの乗ったお皿を置いて、王弟殿下の横に座った。
威圧的な構図。
でも2人をそれぞれ見慣れているリリアンナはその様子を全く気にせず、王弟殿下が買ってきてくれた新作のレモンドーナツを食べようか、それともクリストファー王子が持ってきてくれた宮廷料理人が作ったフルーツサンドを食べようか迷っていた。
とりあえず、フルーツサンドに手を伸ばした。
クリストファー王子がガッツポーズをし、王弟殿下が、小さく「今日はこっちの気分じゃなかったのかー。読み間違えたな」と言っていたのに気づかなかった。
リリアンナの父ラテイン公爵のことは全く見えておらず、リリアンナしか見えてない2人だった。
しばらくしてから、バージニア伯爵と、その令息のブルーム様が温室に入ってきた。
ブルーム様は真っ赤な髪の毛をオールバックにしていた。意思の強そうな緑色の目は、目の前に広がる混沌とした状況に対して困惑の色を隠せなかった。
今、リリアンナの横にはラテイン公爵…
そして何故か、王弟陛下とクリストファー第一王子も同じテーブルに座っている。
バージニア伯爵とブルーム様は困惑してその場に立っていた。
「やあブルーム。最近、忙しいせいで騎士団の様子を、見にいけなくてね。今日ここに来ると君に会えると聞いたから、来たんだ。
例の訓練は進んでいるか?」
とアンドリュー。
「おはようございます。王弟殿下。新人が入りましたが、まだまだ基礎がなっておりませんので遠征などは連れてはいけないかと…」
「わかった。では、来月までに遠征に行けるようにしておいてくれ。
せっかくのいい日を邪魔して悪かったね。」
と王弟殿下は立ち上がると、ここにいる全員に笑いかけて席を外した。
クリストファーは席を立つと、2人が見える位置に自ら椅子を持っていき座った。
バージニア伯爵とブルーム様は2人の王族が席を外したので、やっと座った。
微妙な空気でお見合いは始まった。
お見合い前に王弟陛下が質問のためにわざわざ温室に来たことと、今ここで威圧的な目でブルーム様を見ている第一王子がいるので、ずっと気まずい空気が流れたままだ。
挨拶もそこそこに終わり、普通ならここでブルーム様とリリアンナの2人を知るためのお話タイムとなるはずだが、なぜがテーブルの外側にいるクリストファーが質問してくる。
「ブルーム殿、昨今の騎士団についてどう思う?」
とクリストファー。
「皆、剣術の基礎を軽く考えて慣れてくるとしなくなりますが、あれは慢心につながります。」
「ふむふむ」
「私の学友のヤンソンの様子はいかがか?体調が悪くて今は公の場に出てきてないが」
「今は異国から良い薬を取り寄せてます故…」
とこんな具合にブルーム様はクリストファー王子からお見合いとは関係のない内容の質問責めにあっていた。
とここで突然ブルーム様が
「リリアンナ嬢、先日の夜会での王弟殿下とのダンス見ておりました。残念ながら、弟の体調が悪くなり、別室で弟を休ませていたので、ホールに戻った時にはリリアンナ嬢を見つけられなかったのですが…。
あの夜会でのドレス姿に見惚れてしまいました。是非私とお付き合いをしていただきたいのですが」
その様子を見ていたラテイン公爵は思った。
カタブツと噂のブルーム殿だが、ちゃんと女性をくどけるのか…。
噂のままだと、鈍いリリアンナとは何の進展もないかと心配したが、なんとかなるかもしれない。
問題はこの2人だ…
先ほどの王弟殿下といい、第一王子といい、この2人は何をしたいのやら…
それに、第一王子はリリアンナの事をよく知っている口ぶりだ。その事を全く匂わす事をしないが。
父はクリストファー王子と王弟殿下が高台の光の任務時の案内役だとは知らないので、1ヶ月前の夜会で2人とそれぞれダンスをしていたくらいしか知らなかった。
「ブルーム様、一つ質問です。
もしも私が家族や未来の夫や領地経営よりも、国の仕事が大切だと言ったらどうしますか?」
「うーん。私自身、国に仕えていたが家族が大切で騎士団の退団を希望している身だから…妻となる人にも家族を大切にしてほしいと思う。でも国の仕事が大切な事は私もよくわかっているから…難しい質問だ」
返事をするブルームの顔は真剣だった。
「そうですか…」
リリアンナの質問はこの一つだけだった。
バージニア伯爵はお見合いの席に王族が来て息子を質問責めにしている上に、リリアンナの質問の内容の裏を考えた。
ここにいるクリストファー第一王子と恋仲なのか?
いや、そうならお見合いなんてするはずがない。
お互いに婚約者も恋人もいない上に身分も申し分ない。
この娘は何が言いたいのか…
そして、リリアンナが秘書室などの宮廷勤め見習いでもしているのかと結論づけた。
そうか、クリストファー王子は学園卒業後、正式に宮廷勤めをしてほしいと思っているのであろうと…
「リリアンナ嬢、よいかな?
せがれはどう思うかは知らんが、奥方が国勤めをすることには反対はしない。
ただ、やはり領地経営や顔つなぎのための社交の場には頻繁に出てほしいとは思っている」
と最後にバージニア伯爵が口を開いた。
そしてお見合いは終了した。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
よろしかったらブックマークをお願いします。
明日もこの時間に更新するので是非お読みください!




