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今日のクリストファー王子はなんだか様子が違う。

優しく微笑んでお菓子を進めてくれると思ったら、突然

「リリアンナ嬢、僕をクリスと呼んでくれるかい?僕はリリーと呼んでいいかな?」

と言い出したり、


「リリーには心に決めた人がいるのかな?」

と聞いてきたり、


「誰もいませんよ」

と答えると


「リリーは秘密主義だね。教えてくれるまで宮廷料理人のスイーツはなしだよ」

なんて意地悪なことを言ったりするのだ。


クリストファー王子がちょくちょく話しかけてくるから集中できない。

魔道具に高台の光をこめるのに一時間もかかってしまった。


終わるとクリストファー王子はフィナンシェを突然口に入れてきた。


リリアンナは目を輝かせてそれから目を閉じてモグモグした。アーモンドのほのかな香りが口に広がる。

飲み込んで王子に話しかけようと口を開けたら、今度はクッキーが入ってきた。ピスタチオ味!

また、リリアンナは目をキラキラさせてモグモグした。


「宮廷料理人のお菓子は抜きって言ってたじゃないですか」

ちょっと膨れて言うと


「王都のパティスリーのは無しとは言っていないよ?」

とクリストファーは笑っていた。


「そういえば、明日の夜会のエスコートは叔父上なんだって?」


「そうなんです!王弟陛下が婚約者のいない私が一人で夜会に出れないのを知っていて、エスコート役を買って出てくれたのです!

なんせ明日は王家主催ですから、なるべく行った方がいいと友人達にも言われまして」


夜会に参加すると言った時のキャメロン、キャサリン、セレーナの驚きようといったら!

まだ、3人の家に招待状が届く前に言ってしまったので、なんで夜会があることを知っているか聞かれたけどリリアンナはごまかした。

その夜、3人の家にも招待状が来ていたので、たまたまリリアンナの所に早く来ただけと納得してもらえた。

エスコート役は当日のお楽しみとしてごまかしといた。


「そうだね。明日の夜会は公式行事ではないから自由参加なんだけど、確かに貴族としての顔つなぎをした方がいいパーティーだね。

ここだけの話、僕の元婚約者のアリーローズと、妹のスメイルが1代限りの分家を立ち上げるんだ。そのお披露目だよ。

僕としては従姉妹のアリーローズは初めから苦手だったんだよ。

すぐ泣いて勉強や語学を放り出して、スメイルに泣きついていたからね。

二人ともまだ15歳だし。

これからどうなるかはわからないけど応援しようと思っているよ。

そんなだから、僕は堂々と出席するけど。

会場では僕とダンスを1曲お願いするよ?」


「ええ、あまり上手じゃないですけど…それでも良ければ」

リリアンナはニッコリ笑って見せた。

スメイル第三王女とアリーローズ様が出席した夜会でクリストファー王子が誰とも踊らないと色々な憶測をよんでしまうので、リリアンナは快く受けた。


◇◇◇


リリアンナは鏡の前で侍女達にドレスを着せてもらっていた。

普段は薄いメイクしかしないが今日はハルが張り切ってメイクをしてくれた。

薄いメイクの時は寝ながらしてもらっているが、さすがに今日は起きていないとメイクがヨレそうで仕方なく起きている。

鏡の中のリリアンナは髪を結い上げ綺麗なうなじが出ている。

普段は髪を下ろしているのでガラッと雰囲気が変わった。


みんな気合い十分で準備をしてくれている。

たまにしか出ない夜会のお目当ては会場のスイーツなのでいつもはいっぱい食べても大丈夫なドレスにしているが、今日のエスコート役は王弟殿下。

流石にそれはまずい。


お母様が選んだ黒色のドレスを見た。

滑らかな絹のドレスは背中の大きく開いたデザインだった。腰骨の手前まで開いている。

これでは腰に手を回されると、素肌を触られることになる…

ダンスをする時は、常に相手の手が直接背中に当たるんだわ!

そしてコルセットがつけれない!


「お母様!このドレスちょっと開きすぎです!」


「何を言ってるんですか!婚約者のいないあなたが王弟殿下にエスコートされて夜会に行くんですよ!こんな素敵な日はないわ!

王弟殿下がお父様を通じてわざわざエスコートを申し込んでくださったんですよ。

やっぱりリリアンナは…あのその…例のアレだからよね。

だから、私、最新鋭のドレスをお願いしたのよ!」


お母様は高台の光の事を他言しそうになり、曖昧な言葉でごまかした。


しぶしぶ、ドレスを着る。

どうしても外せない高台の光のネックレスを隠すために、エメラルドの宝石がゴテゴテについたちょっと下品なデザインのネックレスを付けた。


このネックレス、置いてあるのを見た時は下品だと思ったけど鏡の前の自分を見ると黒いシンプルだけど大胆なドレスにちょうど合っていて、そして高台の光としてのネックレスを隠してくれている。高台の光のネックレスのシンプルな石は、今は沢山付いている宝石の一つとして収まっていた。


王弟殿下が迎えに来てくれた。

いつもの王弟陛下とは違い、王族としての宮廷服はただならぬオーラを更に強くし、整えられた髪は端正な顔をより一層美しく見せた。


「リリアンナ、なんて綺麗なんだ!いつもとは別人のようだね。でも普段のリリアンナ嬢も可愛いくてずっと見ていたいよ」

そう言うと馬車までエスコートしてくれてお城へ向かう。

馬車の中ではいつも通りの王弟殿下だったが、時折見せる優しい眼差しにドキドキした。

「そろそろ、私を名前で呼んで欲しいな」


「王弟殿下をお名前で呼ぶなど恐れ多いです!」


「これからも任務はつづくんだよ?案内役の私を信頼している証として名前で呼んで欲しい。私はリリーと呼ぶよ?だから、ね?リリーも、名前で呼んでほしい」


「…アンドリュー殿下とお呼びすれば?」


「ありがとう、リリー。これからも任務はつづくから、困ったことがあったらすぐ報告してくれる?いいね?」


「かしこまりました。…アンドリュー殿下」


リリアンナが返事をすると、アンドリュー王弟殿下は嬉しそうに微笑み、リリアンナの手にキスをした。



王弟殿下にエスコートされて会場に入ると、皆リリアンナを見た。

参加者のリリアンナに対する視線が変わっていた。

女性陣は羨望の眼差しでリリアンナを見た。


ラテイン公爵家といえば、家族の中でも10本の指に入るほどの広大な領地を持ち、王家からの信頼も厚い建国から続く名家であり、現ラテイン公爵は宰相も務める。

だから、リリアンナが王弟殿下にエスコートされていても、誰も身分違いだとか文句を言えない。

むしろ、リリアンナの身分相応なのである。


リリアンナは夜会に滅多に出ない。

たまに出席しても体のラインが曖昧なドレスを着ているので、今日のようなスタイルを強調するドレスを着たリリアンナを見て、息を飲む男性陣


リリアンナだけでなく王弟殿下も滅多に夜会ではお見かけしない方なので、女性陣がざわついた。


『ラテイン家の妖精と呼ばれるリリアンナ様だ』

『婚約者がいないから社交界には滅多に顔を出さないけど本当に可愛い、いや、美しいな』


『王弟殿下よ!なんて素敵なのかしら!絵の中から出てきたみたい』

『一度でいいから王弟殿下にエスコートされたいわ』

『王弟殿下が夜会に出られるのはいつぶりかしら?しかも誰かをエスコートするのは数年ぶりよね』

『王弟殿下にお輿入れする方を探していると言う噂だったけどリリアンナ様で決まったのかしら?』

『今日、なんらかの発表があるのよね?お二人の事かしら?』


などとみんなヒソヒソしている。


会場ではキャメロンやキャサリン、セレーナを見かけたが、誰も話しかけてはくれなかった。


みんな目をまん丸にして、珍獣でも見るようにリリアンナを見ていた。


そうこうしているうちに夜会は始まり、クリストファー様から聞いていた通り、アリーローズ様とスメイル第三王女の1代限りの分家の立ち上げを発表していた。


その後バイオリンの音色からオーケストラの演奏が始まった。

まず、スメイル王女とアリーローズ様が踊り出すと、それを合図にみんなダンスを始めた。

リリアンナも王弟殿下に手を引かれて、ファーストダンスを踊った。

ダンスの際、アンドリュー王弟殿下は、リリアンナの背中に触れ、ダンスをリードする。

初めて異性に素肌を触られ緊張するリリアンナ。


「ちょっとぎこちないよ?リリー。もっとリラックスしないと。さぁ、もっと体を預けて?」


なんてアンドリュー王弟陛下は無理な要求をしてくる。終始緊張しながら踊るリリアンナ。


曲が終わりそうになってきた。


「リリアンナ嬢、今日は君とずっと踊っていたいけど、二曲目はクリストファーに代われと言われていてね。

残念でたまらないよ」


そう言うと、サッとクリストファーに代わった。

他の殿方がダンスを申し込む隙を与えないあの所作はすごいに尽きる。


「クリストファー、リリアンナ嬢を頼むよ?今日の狼の群れはうるさそうだ」

そう王弟殿下は言うと、マントを翻してどこかへ行ってしまった。


「わかったよ叔父上。さ、リリー次は僕の番だよ」


そう言うとクリストファーはリリアンナをエスコートした。


「今日のリリーはすごく綺麗だね。

みてごらん、みんなリリーの美しさに息を飲んでいるよ。

リリーの可愛さを誰にも気づかせたくなかったのにな、、

叔父上が夜会に誘うから」

とクリストファーは言うと、続けて


「今度は僕が夜会に誘うからね?」

と腰をギュッと引き寄せられた。


王弟殿下にエスコートされてファーストダンスを踊った後、二曲目はクリストファー第一王子と踊るなんて、女の子の夢が全て叶っているリリアンナをみんな羨望の眼差しで見ている。


リリアンナは恥ずかしくてクリストファーの顔を見れなかった。


周りを見ると、みんな羨ましそうに自分を見ている。

キャサリンとキャメロンの動きが静止しているのは気にしないでおこう。

セレーナは楽しそうにリリアンナを眺めていた。

曲が終わる頃、父であるラテイン公爵が近づいてきた。

クリストファーはサッとラテイン公爵にリリアンナを渡す。


「リリー、僕も失礼するよ?

ラテイン公爵、よろしくお願いする」

そう言うとサッとクリストファーも立ち去って行った。


「王弟殿下から、今日の狼はうるさいから早く帰った方がいいと言われてね。

王弟殿下は、『本当はリリアンナをエスコートして最後まで楽しみたかったが、このままだと自分自身が女性に囲まれてリリアンナをエスコートできそうにない。

かと言ってクリストファー殿下がこのままエスコートしてもあらぬ誤解を生む』

とのお言葉を頂いた。

どうする?リリアンナ」


「今日は2曲も踊れて楽しかったわ。

でもお父様、今日はもう帰りましょう?

王弟陛下のお言葉に従いましょう」

リリアンナはこのドレスでは目立ちすぎて、立食パーティーを楽しめないと考えての返答だった。


そうリリアンナが言うので、この後、王族全員に挨拶をして早々と夜会から帰って行った。


次の日、学園へ行くやいなや、3人に連れ出されて、今は学園側のカフェの個室にいる。


「リリー!昨日はびっくりしたわ!!

王弟殿下にエスコートされて夜会に来ただけでも驚いたのに、ファーストダンスの後はクリストファー王子とダンスをしていたでしょ?」


「そうよ!そもそもどうやって王弟殿下のエスコートを取り付けたの?」


「…えっと…私が余り物だったからじゃない?」


「そんな訳のわかんない返事しないの!」


「さ!教えなさいよ?」


「もしかしてそのネックレス王弟殿下から?

…ないわね。こんな古びたネックレスを婚約者や恋人に贈るようなタイプの人ではないもの」


「ってことは、王弟殿下の知り合いがリリーの相手なの?それがそのネックレスの送り主?」


「身分違いで実らぬ恋に心を痛めた王弟殿下が、気晴らしに夜会に誘ってくれる」


「男性は『私の身分では夜会に連れて行ってはあげれないが貴方なら…』と!!」


「ってことはリリーの相手は王弟殿下の侍従って事?ねえ、答えてよリリー?」


「このネックレスは代々受け継がれているものなの。だから、誰かにもらったわけではないわ。私が死んだら次の代に引き継ぐ宝物なの」

とリリアンナは答えた。

嘘は言っていない。

高台の光に受け継がれているネックレスだもの。

それに国宝だから、宝であるのも間違いない。


「それに、私に恋人も思い人も、ましてや婚約者もいないわ。王弟殿下はお父様とお酒を飲んだ時に気まぐれにお約束されたみたいよ。クリストファー殿下は…よくわからないわ」


「納得はしないけど、リリアンナがわからないものを考えても仕方ないから。

講義に戻りましょう」


そう言ってお開きになった。



14話のうち7話まで来ました。

もしよかったら明日もお付き合いください!

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