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宮廷からの任務は、朝起きると手紙で届いている。

手紙にはお迎えの場所と時間しか書いていない。


ラテイン家の屋敷に来る時と、王立学園に迎えが来る時がある。

そのほかの場所は目立ちすぎるからだと思う。


今日の指示は王立学園の図書館

時間は10時

今日の講義は出れないのかぁ。


王立学園の大学部は、高位貴族や豪商の子女が通う。内容は外交や外国語、歴史、経済、そして他国の要人のもてなし方などである。

今日は、他国の要人と会った時のマナーの講義があったはず。実戦形式なので、他国のおもてなしの菓子などを用意して食べ方を学ぶ講義もある。

楽しみにしていた講義だったのにな…


今日も朝から任務と聞いて、がっかりしているリリアンナのために、ハルはいつもより豪華なランチBOXをシェフに作らせた。


普段と違う格好だと目立つので、いつもの王立学園に行く服装とランチBOXを持って、出かける


約束の時間に図書室へ行くと、そこには司書のローブを着た男性が声をかけてきて、普段は立入禁止禁止の部屋に入るように促された。

司書の男性に続いてリリアンナが中に入ると、男性はブラウンの髪のカツラとメガネを外した。

クリストファー第一王子だった。

慌ててカーテシーをするリリアンナ。


「リリアンナ嬢、今日は講義があったのにすまないね。どうしても今日直さないと支障が出そうなんだ…」

申し訳なさそうにそう言った。

第一王子は、王弟殿下と同じ王族に受け継がれる金色の目をしているが、髪の色は濃紺で優しい雰囲気がまた女性を虜にする。

王弟殿下とよく比較されているが、王弟殿下は28歳、第一王子は19歳。

王弟殿下に比べるとまだまだ言葉の駆け引きが苦手で、たまに言葉選びに黙ってしまう時がある。


「いえ、これはわたくしの役目ですからお気になさらずに。さ、殿下、いきましょう」


「ここから少し歩くから、ゆっくり進もう」

クリストファー王子はリリアンナに声をかけた。


今回は城の大時計の中にリリアンナの手から出る光を込める事だと聞いている。

本当は今日でなくてもよかった。

しかし、クリストファーは今日しか予定が空かなかったのだ。


前回のラテイン領でのアンドリュー王弟殿下である叔父上の報告を聴くと、リリアンナは、他のご令嬢とは違い、王弟殿下に全く興味を示さずにいること。

そして、なにかを食べさせると元気が出ること。

食べ物はリリアンナの侍女がいつも持たせているが、こちらでも用意した方がリリアンナの機嫌が良く、任務遂行しやすいとのことだった。


その報告を聞いたクリストファー王子はリリアンナに興味を持ったので、少しでも早くリリアンナに会ってみたかった。

だから、自分の予定を無理やり調節したら、リリアンナの迷惑になるとは思ったが、この日になった。


リリアンナへの第一印象は、確かに王族である自分に媚びることはせず、色目も使わず、淡々と高台の光としての役目をこなそうと考えている様子だった。


狭い通路を抜けると、少し開けた場所になり、そこでクリストファーからローブを渡された。


「ここから外に出る。人に見られないようにローブを羽織るように」


クリストファーとリリアンナはローブを羽織り、宮廷御用達業者の馬車に乗った。

荷馬車は窓がないが、中に魔法のランプがあり、明るい。特別仕様のこの馬車は中のソファーはフカフカでいくつものクッションが置いてあった。


「リリアンナ嬢、講義に出れなかったせめてものお詫びだよ」

そう言うとクリストファー王子はリリアンナに箱を差し出した。


箱の中には、小さな蜂蜜ドーナツがたくさん入っていた。


「これはもしや、最近話題のアニアタの蜂蜜ドーナツ???3日並んでも買えないという、あのドーナツですか?わたし、まだ食べたことないんです!」


ドーナツの誘惑に勝てず、リリアンナはドーナツを口に入れた。


あまりの美味しさに、ドーナツの箱を持つ手に力が入り、足をバタバタさせている。目をキラキラさせながらドーナツを眺めて、口はモグモグ動かしていた。


叔父上に聞いていた通りまるでリスのようだ。


リリアンナは口の中の余韻を楽しむようにモグモグしていた。モグモグが止まると、すかさずクリストファーは違う箱からチョコレートを出してリリアンナの口に入れる。


リリアンナは口に入れられたのが苺チョコだとすぐにわかり、目を瞬かせながら、足をサラにバタバタした。幸せそうに目を閉じてモグモグしている。


叔父上から聞いていた通り、この餌付け、ハマりそうだ…


「殿下!この苺チョコレートどこのパティスリーのものですか?教えてください。なんて美味しいんでしょう…」


「これは宮廷料理人に作ってもらったんだ。リリアンナ嬢が気に入ったのなら次回もってくるから、今日もがんばってね」


「ありがとうございます!チョコレートのためならいくらだってがんばります。」


馬車を降りて、王城の裏口に来ると、そこから細い階段を通り、厨房を抜けて、大聖堂へ出るとそこから図書室を通り抜け、中庭を通り、執事の控えの間を通り、細い階段を登ったり降りたりして、ついに大時計の機械室に入った。


機械室の扉を開けると、中は空っぽで、代わりに灯台にあったような大きな丸い球体がいくつか並んでおり、その一つに手を触れた。

球体1つに30分手を触れて、そして休憩。

また球体に手を触れて30分、そして休憩、と繰り返して行った。

途中、間にランチを挟んだ。


ランチはなんとクリストファー王子がランチBOXを2人分持ってきてくれた。


空っぽの機械室の隅っこに、小さな机と椅子があった。

そこに座って第一王子と向かい合わせにランチをとる。


同じ王立学園に通う現役の学生である2人は話題に事欠かない。

クリストファー王子は飛び級で今年から最高学年だという。

いろいろな話をしながらランチをしたらあっという間に1時間が過ぎた。


「さあリリアンナ嬢、続きをしましょう」

クリストファーの合図でそこから黙々と作業をした。


合計で12個の球体に30分ずつ高台の光を込めた。

ランチや休憩をとりながら作業をしていたので気がつくと夕方になっていた。もちろん、途中の休憩でラテイン家から持ってきたランチBOXも食べた。

クリストファーに、嫌じゃなければ我が家のランチも食べませんか?と誘い一緒に食べた。クリストファーは、偉ぶらない、気遣いのできる人だとリリアンナは思った。


よくアリーローズ様は第一王子を置いて駆け落ちしたもんだ、と思ったがその直後、駆け落ち相手は王子の妹君だったことを思い出し、それなら仕方ないか!と納得した。

禁断の愛だもの。王子様より王女様に恋したら、誰にも止められない…


「リリアンナ嬢、今日はありがとう!」

そうクリストファーは言うと、リリアンナの口にチョコレートを入れた。


また無言になり幸せそうにモグモグするリリアンナ。

疲れているはずなのに、お菓子を食べると元気を取り戻す姿がまたリスのようで第一王子は、リリアンナを気に入った。



この日から第一王子が案内役の日も増えて高台の光となってから2ヶ月が過ぎた。

この頃になると、リリアンナは王弟殿下ともクリストファー王子とも仲良くなり、作業にも余裕が出てきた。


◇◇◇


今日は王立学園の中庭でセレーナとキャメロンとお茶をする予定だ。

キャメロンを待っていると、リリアンナの横にいるセレーナ嬢がカバンからリリアンナに渡すお菓子を出そうと下を向いた時だった。

突然現れたクリストファー王子に口にチョコレートを入れられた。


クリストファーは無言で近づき無言で離れてゆく。まるでただ側を通っただけのように。


リリアンナは口に入れられたチョコレートが美味しくて目を閉じてモグモグする。これは王宮料理人のチョコレートだ。

セレーナが顔を上げたら、リリアンナがモグモグしているのでびっくりするセレーナ嬢

「あれ?リリー何食べてるの?」


「ん?チョコレート!」


「チョコレートなんて今日持ってないでしょ?」


「うん。突然落ちてきたの」


「落ちてきた?拾い食いはダメよ?リリー。」

と言って、セレーナはチョコレートのかかったストロベリーマシュマロをリリアンナの口に入れた。


リリアンナは、人気の新作お菓子を口に入れられて目を大きく開くと幸せそうに足をバタバタした。


「これは!しんさくぅ〜」


「そうよ、リリーよく気がついたわね。ストロベリーマシュマロの中にラズベリージャムが入ってて、このコーティングされたチョコレートにあうのよねー」

とセレーナ嬢に言われて、ウンウンうなづくリリアンナ。


少し離れたところからクリストファーはリリアンナの様子を盗み見していた。

次は新作のお菓子を突然食べさせてみようと思うのだった。


「ねぇリリー?最近聞いた噂話なんだけど、、あなた恋人ができたの?」

とセレーナ嬢。


「え???」

とびっくりするリリアンナ。

少し離れたところで盗み聞きしていたクリストファーもびっくりした。


「この前、学園の馬車乗り場とは違うところから乗合馬車に乗って街の方へ行ったでしょう?

コソコソしててもわかるんだからね?

ほら、この4人でお揃いに買ったカバン。これ、王都で最新鋭のデザイナーが作ったオートクチュールなのよ。

馬車に乗る時、この鞄の中身落として拾ってたでしょ?

キャメロンが見てたのよ。声をかけようとしたけど、馬車は満車の札がかかって、すぐに動き出してしまったって言ってたわ」


リリアンナには思い当たる事があった。講義の後、急遽、魔法省に呼ばれて王弟殿下が迎えにきてくれた時だ。学校に通知が来たので、予備の鞄を持っていなかったからだわ。

アレを見られていたとは…


「違うの違うの!」

リリアンナは否定するがいい断り文句が思い浮かばない。


この会話を盗み聞きしていたクリストファーは心臓が締め付けられる思いがした。

まず任務の時、私物を隠すカバンをいつも持っているはずだから、この話は任務の時でないとクリストファーは思った。

なんだろうこの感じ。

続きの話を聞こうとしたら、


『クリストファー殿下だわ!』

誰かの声がして女の子が集まってきた。


「え?クリストファー殿下?どこどこ?」

セレーナが見回すと、リリアンナとセレーナが座っている席の少し離れた斜め後ろくらいに王子がいた。

珍しく1人だった。

女子が集まってきたのでクリストファーは中庭から移動して行った。


「相変わらずの人気者ね」

リリアンナが言うとセレーナが少しびっくりした顔をした。

「リリー、あなたが異性のことについてコメントしたのを初めて聞いたわ」


「そう?」


「そうよ!」

そんな話をしているとキャメロンが来た。


「リリー、今日こそあなたの恋人の事、聞かせてもらうわよ?

あなた最近、ちょくちょく講義を休むし、たまに見たことないお菓子を私たちにもお裾分けしてくれるじゃない?

それに、そのネックレス。素朴なデザインだけど、かなり古いもので石は最高級品と見たわ!

どなたとお付き合いしているの?

きっとお金持ちのかなり年上の紳士ね。

あなたが夜遊びしている事も聞いたことないから、きっと真面目な方なんでしょう?」


リリアンナは返答に困ってしまった。























ここまでお読みいただきありがとうございます。

是非評価をお願いします。

明日もよかったら読んでくださいね。

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