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「お嬢様、お城に着きましたよ」
ハルに起こされリリアンナは目が覚めた。
もう、王城の控えの間に来ていた。王室の招待状は魔法がかかっており、魔法移動でお城に来ようとすると、控えの間に飛んでくる。
遠くから「ラテイン公爵家」
と呼ぶ声がして、父と2人で王の間に入る。
ハロルド陛下とローズマリー王妃への謁見だった。
一通りの形式的な挨拶を済ませると
「ラテイン公爵家のリリアンナ嬢が高台の光だと聞いたが、その力を見せてもらおうか、その後正式な認定式を行う。よいか?」
と陛下から聞かれ
「陛下の仰せのままに」
と父が答えた。
と、この前の背の曲がった小さなおじいちゃんの集団が現れてリリアンナの周りに結界を張った。
結界の中には、リリアンナと手袋をとってくれるお爺ちゃんが1人。
「お嬢さん、結界の右端にハートのマークが見えるかの?」
「はい」
それはリリアンナ達が入ってきた入り口の横だった。
「あそこに手をかざすんじゃ」
言われた通り、リリアンナはハートに向かって手をかざすと、お爺ちゃんの手が斜め後ろから伸びてきてすごい速さでミトンを取った。
リリアンナの手から閃光が出てハートのマークを直撃した。
すると、部屋全体がキラキラと明るくなり、パイプオルガンで奏でる讃美歌のような重厚なでも優しいメロディが流れてきた。
「これぞ正真正銘、高台の光!なんと!ここ100年間は高台の光がいなかったと聞いたが、この矢のような閃光がそうであったのか!いや、見事だ」
陛下の言葉を受け、またお爺ちゃんが素早くミトンをかぶせた。
と、周りに張られた結界が解け、陛下の前へ出るように促された。
リリアンナは前へ出て、膝をつくようにして頭を下げた。
「ラテイン公爵家三女リリアンナよ。そなたを今代の高台の光として認めよう」
そう陛下は宣言すると、さっきのお爺ちゃんがまた近づいてきて、リリアンナの首にシンプルなデザインのネックレスをかけてくれた。
エメラルドグリーンの小さな石が付いているだけのデザインである。
「リリアンナよ。そなたは死ぬまで高台の光として王家に仕え、その証としていつ何があろうともその鎖を外してはならぬ」
陛下のお言葉の後、ネックレスをつけてくれたお爺ちゃんがリリアンナの手から勢いよくミトンを取った。
びっくりしたリリアンナは閃光が出ないように咄嗟に手をグーにする。
「リリアンナよ。
その鎖は高台の光としての務めの時以外は、力を使えないように封じの魔法がされている。
この封じの魔法は、今代の魔法省では行えるものがいない魔術だ。
そして、お前がどこに行こうとわかるようになっている。
よいか、決して間違った行動を取らぬように。期待しておる」
そう陛下からのお言葉をいただいた。
リリアンナは父に連れられて控えの間へ戻ってきた。陛下のお言葉の後、魔法省から説明を聞いたがうわの空だった。
「リリアンナ、突然の事で緊張したのかい?」
放心状態のリリアンナを心配して父が声をかけた。
その様子を見ていたハルが
「恐れながら、公爵様。陛下との謁見の後、魔法省に行く前にリリアンナ様のためにおやつタイムを取りましたでしょうか?」
「いや。」
「リリアンナ様は食べることが生きがいなのです。そして、こまめにおやつタイムを取らないと何を話しても聞こえなくなるのです。」
といいながら、ハルは放心状態のリリアンナの口に、チョコレートを入れる。
途端に死んだような目だったリリアンナが生き生きとし、口をモグモグさせた。
「あぁ。そうだったのか。じゃあ魔法省の話は…」
「100%、聞いておりませんね」
とハルは残念そうに首を振りながら、リリアンナの口にクッキーを入れた。
更に元気にもぐもぐするリリアンナ。
とリリアンナの手にあの赤いミトンがないことにハルはびっくりした。
「公爵様!リリアンナ様の手袋は??」
「王家に返したよ。今日からその首に光るネックレスが手袋の変わりだよ。
さあリリアンナ。
お茶会に行っておいで?
私はリリアンナのお茶会の間、仕事をしてくるよ。」
「かしこまりました」
ラテイン公爵はこの国の宰相でもあるので忙しい。
リリアンナはお茶会に参加していたが…なぜか参加者はリリアンナ1人だった。
綺麗な王妃様とのお茶会…
緊張しすぎて何を話したのか、何を食べたのか味もわからなかった。
父と一緒にお屋敷に帰ってから、緊張でお茶会のお菓子の形や味を覚えてない事にショックを受けた。
が、すぐにリリアンナのいつもの日常が戻ってきた。
長いバケーションシーズンが終わり、学園生活も再開した。
学園に通う時は、王都の屋敷で過ごしている。領地からでは学園に通えないからである。
王立学園は高等部までは寄宿舎で生活しなければいけないが、大学部は通学で良い。
毎日講義があるわけではないので家業を手伝いながら通う令息もいる。
リリアンナはいつものように学園に通う日々を送っていた。
そして講義のない日はお菓子を食べながらロマンス小説を読んだり、キャメロン嬢達とお茶をしたりしていた。
ただし、いつもと違う事もある。
それは、王城に定期的に呼ばれる事である。
週に一度、王城に呼ばれて高台の光の仕事をする。
仕事の内容は建国からある由緒正しき魔道具に閃光を込めたり、辺境にある灯台の光の石に閃光を込めて、灯台の光を蘇らせたりするらしいがまだ2回しかしていないので詳しいことはわかっていない。
仕事はその日に何をするか言われ、実行するだけである。
案内役は必ず王族。
2回とも王弟殿下が案内してくれた。
王族はいわば高台の光の監視役である。
高台の光のお役目の日は、頭からすっぽりローブをかぶってしかも移動は馬車で行動をするように陛下からの指示がある。
馬車乗り場はその時によって違う。
リリアンナが乗る馬車は、高台の光を隠すためのカモフラージュがされている。
例えば、積荷用の馬車を改造したもの、乗合馬車を改造したものである。
移動魔法を使うと、移動した先で刺客がいたり魔物がいて突然襲ってきたら困るので、面倒でも馬車での移動だ。
ハルは空っぽの馬車に乗って一人で行っていると思っている。
王族と行動を共にしている事は最重要機密事項だから両親にすら内緒だ。
◇◇◇
今日はラテイン家の家紋の入った馬車での出発だ。
「お嬢様、スパイ小説よりもスパイごっこしてますね!お嬢様のお仕事、楽しそうです!…私もスパイになりたい!」
ハルは、いつも馬鹿なことを言いながら送り出してくれる。見送りはハルとハンス。
高台の光であることは機密事項で、その事を知るのは王族と両親、高台の光の補佐役のハンスに、身の回りの世話をしてくれるハル。
兄妹や友人には漏らしてはいけない機密事項だ。
あの赤いミトンを知っている家族や使用人達、そして友人達には魔力の暴走ということにしてある。
魔力がある人はそう多くないので皆、噂に聞く魔力の暴走なのかと納得してくれた。
今日の付き添いはアンドリュー王弟殿下で、目的地は高速で動く魔法の馬車を使っても数時間かかる。
今日は国宝の灯台石に魔力を込めるのが仕事。
しかもそれはラテイン領の中にある崖の上の灯台。
領地の中でも険しい崖を登らないといけない。
「あの灯台の光が国宝なんて知りませんでした。子供の頃から見ていたのに」
とリリアンナ。
「全ての灯台は国宝の石が使われているよ。船を安全に航海させるためと、魔物がこの国に入らないようにする結界の役割とがあるからね。」
アンドリュー王弟殿下はいつも面白い話をしてくれる。
輝く黄金の髪と、宝石のような琥珀色の瞳でキラキラと笑う様はこの世の者とは思えない美しさだ。
そして外交の達人と言われるだけあってお話は面白く、興味がある事は何でも調べていてすごく勉強熱心だ。
そんなアンドリュー王弟殿下はリリアンナの持っている籠の中身が気になっている様子だ。
「前回も持っていたけど、その籠は?」
ハルに待たされたカゴを指差して興味津々の王弟殿下
「これは、私の侍女が持たせてくれたのですが。中をご覧になりますか?」
といいながら、リリアンナはカゴを開けた。
中にはサンドイッチ、苺、フィナンシェにクッキーにチョコレート、そして水筒が入っていた。
一日5食のリリアンナのためにハルが持たせてくれたのだ。
「前回は馬車の中で魔道具に魔力を込めましたから一時間もかからずに帰宅できましたので籠を開けなかったのです」
と言うと
「そうそう、いつも頑張ってくれているリリアンナ嬢にプレゼントを持ってきたんだ。御令嬢達は皆、甘いものが好きだからね。」
と、王弟殿下は、おもむろに両手サイズの箱をくれた。
箱は見たことがある。
超高級なチョコレート菓子のお店、ドランバリュの箱!
リリアンナは箱を受け取ると、ゆっくり開けた。
まさに、宝石箱!
王弟殿下を目の前にしてチョコレートの誘惑に負けたリリアンナは、一つ手に取ると口に入れた。
口に広がる甘味とほのかなラズベリーの香りに、目を輝かせて足をバタバタするリリアンナ。
飲み込むのが勿体なくて、口の中から無くなるまでモグモグしながら目をキラキラさせていた。
その様子が面白かったのか、王弟殿下はモグモグをやめたリリアンナの口にすかさずチョコレートを入れた。
途端に目がキラキラしてモグモグするリリアンナ。足はまたバタバタしている。
アンドリュー王弟殿下は笑顔でリリアンナを見ていた。
途中、休憩のために見晴らしのいい草原で軽食を取った。
軽食は王弟殿下も宮廷シェフに二人分作らせていて、リリアンナの分のランチBOXを渡された。
アンドリュー王弟殿下が携帯用に食事を持って出るのはよくあることである。
何せ、人の住んでいない地域にも視察に行くのだから。
宮廷料理人のランチBOXは素晴らしかった!
食べたことのないくらい滑らかなローストビーフのサンドイッチは、忘れられそうにない味だった。
もちろん、ラテイン家のシェフが作ったサンドイッチも食べた。
リリアンナは渡されたランチBOXを開けた時も、目をキラキラさせていた。そして持ってきた籠に入ったサンドイッチと、ランチBOXを交互に眺めながらリスのように口いっぱいに頬張りモグモグしている様を王弟殿下は楽しそうに眺めていた。
灯台に着くとアンドリュー王弟殿下の持つ鍵で灯台を開けた。
そして、階段を登ると、そこには直径1メートルほどの丸い球体があった。
リリアンナが球体に触ると手からあの閃光が出てきて、光は球体へと吸収されて行く。30分ほどそうしていたら、王弟殿下が
「もうよさそうだね。ありがとうリリアンナ嬢」
と笑いかけてくれた。
リリアンナはそれを聞いて球体から手を離すと、すぐにポケットを探った。
包み紙に入ったクッキーを出し、おもむろに口に入れた。
幸せそうにモグモグして、それを飲み込んでから、コホンと咳を一つした。
どうもリリアンナの「出発していいですよ」の合図らしいので
「ではリリアンナ嬢行きましょうか」
と王弟殿下はいい、リリアンナの前を歩いて階段を降りていった。
リリアンナもその後に続いた。
帰りの馬車の中でも、王弟殿下は隣国に視察に行った時の話をしてリリアンナを飽きさせなかった。
王弟陛下は別れ際、
「次の夜会ではエスコートさせてください。リリアンナ嬢」
と指先にキスをされて真っ赤になりながら帰ることになった。
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