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今、バルコニーでリリアンナの周りを背の曲がった小さなおじいちゃんの集団が取り囲んでいる。
先程、父を先頭にして一列に並んで歩いてきたおじいちゃん達。
リリアンナを取り囲むと、
右のおじいちゃんとヒソヒソ。
左のおじいちゃんとヒソヒソ。
まるでクローンのようにそっくりなおじいちゃんの集団はヒソヒソヒソヒソとリリアンナを見ながらお話をしている。
しばらくしてから突然静かになると、
リリアンナの真前に立っているおじいちゃんが、
「では、高台の光で間違いないですな」
と言った。
そして一歩前に出ると、
「では、お嬢さん、見せてもらえますかな?」
とニコニコ笑いながら言われた。
そして、リリアンナの前に立っていたおじいちゃん達は左右に分かれると海が綺麗に見えた。
ハルがリリアンナに近づき、合金を外し、急いで後ろに下がった。
リリアンナは椅子から立ち上がるとグーにしている手をパーにした瞬間、激しい閃光が海の向こうまで続いた。
その時、おじいちゃんの一人が斜め後ろから近づくと、素早くリリアンナに真っ赤な革の手袋を嵌めた。
手袋をしたら、閃光が遮られた!
リリアンナは、自分の両手を見ると、ぴょんぴょん飛び跳ねて、やったあ!と叫んだ。
「お嬢さん、その手袋は今のところそれ1つしかありません。
先の高台の光に当時の魔法省が作ったのですが、作製に数十年かかってしまってね。渡す前に、高台の光が滅してしまったんじゃ。
制作に数十年間費やしたものを棺桶に入れることも出来ず。
で、使うことなく魔法省で何十年も保管していた物なんじゃ。
だから大切に使ってくださいな。
ワシら現代の魔法省もお嬢さんのために新しい手袋を作製するとしよう」
手袋といっても、ミトンなので、親指と、その他の指という具合で、五本指の手袋のようにはいかない。
でも、自分でスプーンを持ったり、隠れて買い食いしたりできる事に、リリアンナは興奮していた。
もしかしたら一生、介助の必要な生活になるのではないかと心配していたのだ。
クルクルと踊り出すリリアンナ。
と、ここで先程の先頭のおじいちゃんが一言。
「高台の光は、光自身には効果なしだから、お嬢さん自身に光が当たっても怪我しないよ。
それから、それは国宝だから、ほんとーに大事にするように。
一年やそこいらでダメにしたら、この領地売っても払えない賠償金が請求されるからね〜。
それからね、高台の光は国家機密だから、誰にも話してはいけない秘密だよ。
もしも他言したら修道院の中での生活になっちゃうからね?
まぁ、ご両親と、君のお世話係のハル、それから代々この家の高台の光の番人のハンスには本当のことを話していいよ。でも、他の家族や友人達には話してはいけないよ。
じゃねーお嬢さん」
そう言うと、また、一列になって帰って行った。
それからリリアンナは手袋を外さない生活を始めた。
もう大好きな事はなんだってできる。
…手が動かせるようになったから、お父様から学園の課題をするようにお小言を言われて凹んでしまったことは忘れる事にしたい。
それに大好きなロマンス小説はいちいちページを誰かにめくってもらわないといけないのが大変。
でも、この高台の光のおかげで面倒な社交界や夜会からは一層遠ざかっている事は嬉しくて仕方ない。
それに、革の手袋の中で汗をかいても拭けないので、汗をかかないようにする生活をしているから、運動は今はしていない。ずっとベッドか椅子に座っている。今は天国にいる!ここは天国だ!
ただし、太らないようにと気配りを欠かさないハルに部屋中のありとあらゆる所を捜索され、すべての食べ物が回収されてしまった事は3日間泣きはらした。
回収されたお菓子の中には、隣国のお取り寄せ3ヶ月待ちのチョコレートもあったのに!!
チョコの恨みは一生忘れない!
チョコの恨みは忘れないけど、やっぱり天国には変わりない。とリリアンナは思っていた。
そんな時、王室から手紙が届いた。
1週間後に父であるラテイン侯爵とともに王城にくるように。
と。
当日のスケジュールが書いてあった。
王の間にて、陛下との謁見、その後魔法省から高台の光についての説明を受け、最後に王妃様主催のお茶会に出る事。
注意書きとして、お茶会は手の事があるため手袋をつけたままで王妃付きの侍女がお世話をしてくれると。
リリアンナは、高位貴族なので定期的に王妃様のお茶会に出席している。
以前出た時のバターたっぷりのフィナンシェは美味しかったなぁー。
その前のガトーショコラも最高だった!
と、お茶会のお菓子をあれこれと思い出しては、次は何が食べれるのか楽しみになった。
お茶会はいつも沢山の令嬢ご呼ばれるので目立たないようにすれば多少マナーを間違えてもバレない。
それに王妃様へのご挨拶の時は、前の人と同じことをすれば良いのである。
そんなこんなで1週間が過ぎ、王室からの迎えの使者が来るのは明日!
明日はお茶会だしやっぱり可愛いオレンジのドレスかしら?それとも涼しげなセルリアンブルーのドレスかしら?
とここで、リリアンナは気付いた。
この目立つ真っ赤なミトンに合うドレスがない…!
このミトンは大きすぎる。
まるで革製の鍋つかみのような外見だ。そしてなんの飾り気もない上に真っ赤。
お洒落アイテムとしての機能はゼロ!
あぁぁぁぁぁ、このアイテムを付けて沢山のご令嬢と一緒にお茶会に出るのなら目立ってしょうがない。
「ハルどうしよう…このミトンに合うドレスって?」
「あら、お嬢様。奥様が王家の招待状を持ってきたときに、ドレスを新調しとくわね、と言われていたじゃありませんか。それにお嬢様、王家のお茶会にお持ちのドレスで出ようだなんて考えてませんでしたよね?」
「…」
「…お嬢様、18年間何してたんですか…ハルは悲しゅうございます」
「あの流行を追いかける様が苦手なの!手触りがよくてシンプルなドレスが好きなの!でも、いつも仕立て屋は、私の注文を聞かずにゴテゴテに仕上げて来るじゃない?」
「そのゴテゴテのおかげで、お嬢様が目指している目立たない令嬢になるんじゃないですか。
他のご令嬢もゴテゴテのドレスを着ているから、某大人数でダンスと歌を披露するグループのように誰が誰だかわかんないわけじゃないですか!
リリアンナ様だけ1人シンプルなドレスを着ていたら目立って仕方ないですよ」
「あ。そっか。なるほどー。ハル頭いい!次からはゴテゴテで行くわ!」
「お嬢様が毎回、ドレスの新調を嫌がった理由がやっと分かりました。
明日は殿下との謁見もございますので今日は早めにおやすみください。きっと明日は食べたことのない美味しいお菓子が食べられますよ」
「わかったわ。おやすみハル」
と、リリアンナは明日のお菓子を想像しながら眠りについた。
次の日、リリアンナは朝早く起こされ、まだ目が覚めてないのに、口に一口大のベーコンサンドを入れられた。
夢の中でベーコンサンドを食べるとまた寝てしまったが、寝ながら歯を磨かれ髪を結われ、着替えをさせられた。
このミトンをつけてから、ミトンが汚れたり破けたりしないようハルが代わりに出来る事は全てしてくれる。
なんせミトンは国宝だから…
その夢うつつのリリアンナに向かって、父は
「リリアンナ、とうとうお前に縁談が来た。バージニア家のご令息だ。どうする?リリアンナ。お前の気持ちに任せるよ?こんなうまい相手はいないよ」
「…うまい…美味いの?」
半分寝ているリリアンナは美味しい物の話かと思い、味を聞いた。
今、リリアンナは夢の中でケーキを目の前に味を聞いているつもりでいる…
「うまいか?と…。そうさな、剣は上手いし、領地経営も上手いようで特産の葡萄酒がよく売れている。景気がいい上手い話だ」
「…葡萄酒が熟れている。…ケーキがいい美味い話…最高ね」
寝ながらリリアンナは答えた。
「そんなに最高か?」
と父に肩を触られ目が覚めたリリアンナ。
「うん?」
寝ぼけ眼のままで父の話を再度聞こうとしたが
「うん、と言ってくれたか!わかった」
と父が嬉しそうに返事をした。
お父様の言いたいことは夢の中で聞いたが、葡萄酒とケーキの話だった気がする…まあいいか。
美味しいものなら、次にお父様におねだりしよう。とリリアンナは思った




