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「お父様、申し訳ありません」
「本当にお断りするよ?」
「はい」
図書室でのお茶会の後、父を通じて正式にブルーム様にお断りのお返事を書いてもらった。
そして、日曜日、王弟殿下と第一王子のピクニックのため待ち合わせの例の温室に行った。
任務ではないのでハルを伴っていた。
そこには、すでに王弟殿下がいた。
「おはようリリー。
今日はピクニックなんだけど…任務も兼ねているんだよ。ハルは、高台の光の世話係として任命されているから一緒に来て欲しいんだけど、大丈夫かな?」
「はい。もちろんです」
「これから行くのはデボン領の北の森の灯台。
人が住んでいない地域に建っている灯台なんだ。なるべく負担にならないように馬車にいつもより強い魔法をかけてもらうけど、人が住んでいない地域の灯台で100年間、一度もメンテナンスをしていないらしいんだ。
今まで行ったところは、高台の光を込めることはできないけれど、現状維持のための魔法をかけて、なるべく長く持つようにしてあったんだ。
これは領主の仕事でね、デボン伯爵は何もしなかったらしい」
「それってつまり?」
「道無き道を進む可能性と、野生動物や魔物が出る可能性と…あと日帰りできない可能性。
…行ってみないとわからないね。」
そう言うと、リリアンナとハルに服を渡した。
「未婚の男女が宿泊したという噂が漏れたら大変だ。ましてやこっちは2人。リリアンナへの酷い噂が立つことが目に見えているから…。
下手すれば、王族2人を手玉に取る悪女なんて噂が流れて…」
と王弟陛下はいい、ニヤッと笑った。
「…わかりました。着替えます」
服装は、男児の従者の服だった。
「ごめん、2人とも。正体を隠すために男児の侍従の格好を用意したよ。
それから、人前で主人と従者として接するよ?いい?」
王弟陛下は申し訳なさそうに優しく言った。
温室の横の部屋で、リリアンナとハルは着替えた。
リリアンナの形の良い綺麗な胸を隠すために、ハルはキツくさらしを巻いた。
そして、自分の胸にもサラシを巻くと、リリアンナの着替えを手伝い、自分も着替えた。
髪の毛はきつめに結い、帽子の中に隠した。
脱いだ服を手に持ち、部屋を出ると、そこには王妃様も一緒にいた。
リリアンナはスカートを履いていないが咄嗟に淑女のお辞儀をする。
「リリアンナ嬢、いつも快く任務を行ってくれてありがとう。今回の任務は危険を伴うのだけれど、あなたの存在は国家の機密だから…騎士を少人数しか帯同出来なくてごめんなさい。
先週の日曜日にデボン領主であるデボン伯爵に『灯台の工事を国費でする』と伝え下見にいかせているわ。
下見の結果、危ないことはない、工事の人夫が行くのは何ら問題ないと報告を受けたので、行ってもらうことにしたの。
ラテイン公爵には急遽、私のところで一晩泊まることになったと魔法便を出すつもりよ。
いくらご両親といえども事前に予定をお伝えすることができないの。
本当にごめんなさい」
「いえ。王妃様、ありがとうございます」
と王妃様が近づいてきて突然、リリアンナの口にチョコレートを入れた。
リリアンナは目を大きく開き、そして目を閉じてモグモグした。
オレンジピールのチョコレートだった!
「ドランバリュの新作よ」
まだモグモグしているリリアンナに向けて笑顔で伝えた。
そしてモグモグが終わり、お礼を言おうとしたリリアンナの口に、次はクッキーを入れた。
「んん〜!!!」
リリアンナは目をパチパチさせた。
チョコミント味!!!!
目をキラキラさせ幸せそうにモグモグするリリアンナ。
「あなた達が新作のお菓子を我先にと買いに行ったり、料理人に作らせる気持ちがわかったわ」
と王妃様が言った視線の先に、王弟殿下とクリストファー王子がいた。
ハルはその意味に気づいたが、リリアンナは全く気づかなかった。
王妃様も新作のお菓子が食べたいんですね!と勝手に親近感を感じていた。
脱いだ服は王妃様が預かってくれることになった。
今回は危険を伴う任務だが、機密事項のため帯同する騎士は3人。そして、一泊する可能性があるため荷馬車を一台用意してあった。
帯同する騎士は、宮廷騎士団長のブルームと、グレンとヘティ。
皆、剣と馬の技術は一流。そして、王弟殿下の信頼が厚く、口が固い。
急ぐ旅のため、王弟殿下とクリストファー王子、騎士達はそれぞれ馬に乗り、リリアンナとハルは荷馬車に乗る。
荷馬車の一部分は改造され、ソファーが置かれていた。
リリアンナは、「テイン」と名乗るよう指示された。ハルは、男児にも「ハル」という愛称の子供がいるためそのままで良い事になった。
荷馬車の従者には何だか見たことのある人がいた。
荷馬車に乗る際に、従者は降りてきて、リリアンナに挨拶をした。
「リリアンナ様、私は皇帝陛下の第3執事のベネドと申します。私の兄はラテイン公爵家の執事をしておりますハンスです。
お困りの事がありましたらなんなりとお申し付けください」
と、リリアンナに挨拶をした。
そもそも今回の任務がこんなに急なのは、隣国であるクレアラ王国からの商人が、『北の森の灯台の力が無力化している』と旅人の間で噂になっていると王弟殿下に伝えたためだ。
それを聞いた皇帝陛下がすぐにでも灯台の力を取り戻すようにと指示したのだ。
出発前、準備をしていると侍従の格好をしたリリアンナとハルの所にブルームがやってきた。
リリアンナは正体がバレないように帽子を深くかぶる。
「王弟殿下と第一王子の侍従はお前らか?今回の任務は危険が伴う。自分の身は自分で守れよ?困ったことがあったらすぐに言ってこい」
そう言いながら2人の頭を帽子のうえからぐちゃぐちゃにと撫でた。
ブルームはテインの正体がリリアンナだとは気づいていない。
「テインとハルと言ったか?お前ら、強くなって将来宮廷騎士団に入れよ?」
とグレンが言った。
ヘティは荷馬車の車輪の具合などを念入りにみている。荷馬車の車輪が外れると、それだけでタイムロスになるため、出発前のメンテナンスをしていた。
リリアンナとハルと、馬車の従者であるベネドは荷馬車に必要なものを積み込んでいく。
そしてリリアンナとハルが荷馬車に乗ったことを確認して、一行は出発前した。
先頭には一番の実力者であるブルーム。そしてヘティが並走する。
その後ろには王弟陛下と第一王子の馬が並走し、その後ろには二頭の馬に繋いだリリアンナ達が乗った荷馬車。そして最後尾に馬に乗ったグレンが続いた。
荷馬車は予想より快適で、小さな小窓からは外が見えた。
時々、荷馬車に並走するようにしてクリストファー王子が馬を走らせ、小窓からリリアンナ達に声をかけてくれた。
また同じように王弟陛下も小窓の所に来ては、道に咲いてる小さな花を摘んでは持ってきてくれた。。
お昼前には北の森についた。
今回、皆が乗っている馬や、荷馬車にはいつもより強力な魔法がかけてあり、通常なら5日かかるところを数時間でついてしまった。
「森に入る前に食事を」
王弟陛下の掛け声でベネドは荷馬車積んである結界石を取り出し、結界を張った。
ベネドが指示しながら、リリアンナとハルは荷馬車から折りたたみの椅子と簡単な机を出すと、椅子はアンドリューとクリストファー用に置いた。
机の上には全員分のランチボックスと、人数分の水筒を置いた。
「椅子はいらないよ。皆と一緒に座って食べたいんだ。それはクリストファーも一緒な気持ちだよ。さぁ、みんなで一緒に食事をしよう!」
と王弟殿下。
通常なら王族の食事の給事を侍従がし、騎士が周りを見張っているが、王弟殿下も第一王子も皆との食事を望んだ。
騎士達はアンドリューに帯同して他国に行くことも多い。そのためアンドリューが王族扱いされることを好まないのをよく知っていた。
アンドリューはいつも騎士に混ざり食事をしていた。
皆いつものように地面に座る。
全員にお弁当と水筒を配り、食事が始まった。
全員が楽しそうに話しながらでも早いスピードで食事をしている。
いつもゆっくりのリリアンナは食事のペースについていけない。
「テイン、そんなゆっくり食べてたら王族の侍従としての仕事がすすまんぞ!」
など、皆リリアンナやハルにも話しかけながら食事をした。
リリアンナ以外はあっという間に食事を終えた。
足手まといになるといけないので、
後片付けをしてまた荷馬車に戻った。
そして荷馬車の中で景色を見ながら食べることにした。
「リリアンナ様、お疲れではないですか?無理はしないでくださいね」
とハルに言われながらお弁当を食べた。
北の森は鬱蒼としており、前回、下見の者が通ったであろう所だけがぽっかりと開いており、まるで森が口を開けて待っているようだった。
森の入り口のぽっかり開いたように見える道は、なんとか荷馬車が通れるようになっており、道の左端の木の枝の馬に乗らないと届かない位置には緑の布が巻かれていた。
「安全の緑の帯が見えます」
と、ヘティ騎士が言った。
「確かに目視で確認できるな!さ、灯台まではもう直ぐだ!」
王弟殿下の合図で、前に進む。
だんだんと道が細くなっていった。
荷馬車がこれ以上は進めない道の細さになってしまった。
「ベネド!一旦荷馬車を森の外まで退避させ、森の外で結界を張って待機!荷馬車の2人の従者は馬車から降りて、前へ進む」
王弟殿下の指示があり、リリアンナとハルは馬車から降りた。
ハルをこの先も同行する事に決めたのは女性特有の困った事が起きても、リリアンナでは言い出せないし、男所帯では対処できないと判断したからだ。
「ハルは私の馬へ。テインはクリストファーの馬へ」
王弟殿下と第一王子の馬の鞍を2人用の鞍に変え、王弟殿下の指示で、リリアンナとハルはそれぞれ馬に乗った。
侍従は連れて行かないのが普通なのに、侍従を自らの馬に乗せて危険地帯に伴うのは疑問を感じた騎士達だったが、それは誰も言わなかった。
王弟殿下はハルを前に乗せ、クリストファーはリリアンナを前に乗せて進んだ。
もう二列では進めないので一列だ。
と、ここで先頭の騎士が馬を止めた。
「王弟殿下!木に結びつけてある印の布が緑から黄色になりました!」
「黄色になったか?ここからは討伐するのに手こずる魔物または野生動物が出る!その合図だ!皆周りを気に気をつけて進め!」
また王弟殿下が指示を出した。
今は、先頭にブルーム。その後ろには王弟殿下、その次はヘティが続き、第一王子、最後尾がグレンだった。
グレンの馬には、水筒や簡単な携帯食などが入ったカバンをくくりつけてある。
王弟殿下は先頭のブルームの様子や言葉を聞いて的確に指示を出す。
リリアンナを自分の馬に乗せようか王弟殿下は迷ったが、いざという時、自分は戦い、第一王子達を逃す為に自分の馬には乗せなかった。
「ハル、申し訳ないが、もしもの時は、私はお前を乗せたまま戦わねばならない。そうなったら、クリストファー達を真っ先に逃す。お前には危険が伴うが覚悟してくれ」
そう申し訳なさそうに言うと、ハルは振り返り、にっこり笑うと、
「恐れながら、私の祖父はベネドの兄でラテイン公爵家の執事。代々の高台の光の補佐役をしております家系にございます。リリアンナ様のためなら私はどんな困難でも喜んでお受けいたしますので、王弟殿下。お気になさらず」
そう言うとハルはポケットから飴を2個出して、一つは王弟陛下の口に押し込み、一つは自分の口に入れた。
「緊張や疲れた時は甘い物に限りますよ?」
そう言って楽しそうに笑うと、また前を向いた。
「男子に生まれれば、馬で駆けたり、狩りをしたりと、さぞ楽しかろうなと、何度想像したかわかりません。こんなふうに馬に乗れて、一つ夢が叶いました。」
聞こえるか聞こえないかの小さな声でハルは呟いた。
その後は、周りに注意しながら進むので時間は予定よりかかっているが何かが出てきそうにはない。
昼の時間になった。
本当ならそろそろ灯台に着く筈だが…




