九、密命
虞縞玉は白虹16歳→良宵25歳です。
「七年ぶり…か。それにしてもまあ色っぽいところを……」
邪魔して悪かったな。というのは小声で、黄玉にそっと囁いたようである。そういって青年は再び黄玉と黒玉を見比べた。馬に積んでおいた布で水分は拭ったが、それでも微かに二人に残る情感は如何ともしがたいようである。まだ水気を含んでいる黒玉の赤い髪は、普段よりも少し沈んだような暗い色で、血の色に似ていた。それが軽くゆったりと波を描いて、朱を秘めた項にかかり、そこはかとない艶かしさを醸し出している。黄玉はまもなく妻となる女性を少し庇うように立ち、言葉をつないだ。
「縞玉大哥、予想以上に早かったんですね」
既に落ち着きを取り戻している黄玉が、族兄に声を掛けた。既に挙式については耳に入っている筈である。しかしそれにしても妙な場所で出会ったものである。
「いや……、多分違う」
いつになく歯切れの良くない縞玉の台詞に、黄玉の黒瞳が艶やかさを増した。
「大姐、お願いがあるんですが」
黒玉に向き直って、にっこりと微笑む。
「長旅で疲れている縞玉大哥の為に、馬を持ってきてくれるように青玉三哥に頼んできてくれませんか」
依頼の体裁をとってもそれは事実上命令に近い。しかも反論出来ない満面の笑み。長くその姉白玉の傍にいた弟は、何時の間にかその技術も身につけていたようである。
「私は別に……」
そういい掛けた縞玉も、黄玉の視線を浴びて硬直する。亡き姉譲りの強烈な視線である。容貌は然程似て居ないのだが、その黒髪と黒瞳がいやでも白玉を思い出させた。そして、丁度縞玉が知っていた白玉も今の黄玉程度の身長だったのだ。
「やっぱり、お疲れのようですね。大姐、ご面倒をお掛けして申し訳ないですがお願いしますね」
にっこり微笑みつつ、反論を許さないあたりは白玉にそっくりと言えた。在りし日の親友を思って胸がつんとなるのをこらえながら、黒玉は軽く肯き、馬に飛び乗る。
遠ざかる馬の蹄の音を聴きながら、少年は族兄に声を掛けた。
「何か、あったんですね?」
女に生まれていたら、恐らく間違いなく巫女になったであろう少年。その視線はかつて縞玉が愛した少女のそれに似ている。
「流石に巫女白玉に一番近い者、だな」
「今は紅玉二姐が巫女ですよ。かつての白玉大姐そのままに」
空を振り仰いだ縞玉は、目を閉じていた。かつての白玉の面影を、もう一度心に刻もうとしたのかも知れない。容貌が似ている訳ではないが、黒髪は同じ。服装も同じ。違うのは、その瞳の色。海姓には発現したことのない、明るい瞳。かつての十歳の少女も今は十七歳になっている筈だ。白い巫女の衣をまとった紅玉は、それだけで白玉を思い出させることだろう。
「それで」
黒玉を前にしては見せたことのない、厳しい表情で、黄玉は族兄を見つめる。
「教えて頂けますね?」
「その為に遠ざけたか。……ま、当然だな」
関わりを持つ羽目になるのなら、教えざるを得ない。白玉が存命であればそうせざるを得ないだろう。しかし。関わりを持たずに済むのなら、余計な心配は掛けさせたくない。それが生涯を共にすることを決めた、大切な存在であるなら尚更。
「ええ。特に黒玉大姐は無垢の魂を持つ存在ですから」
その瞬間、思わず縞玉は噴出した。
「お前、黄玉。まさかここで『初めて』……」
「ここは清浄の土地ですからね。少なくとも黒玉大姐を守る誓いをするのには相応しい場所の一つでしょう?」
じっと黄玉を見つめる瞳に、何とも言えない光が灯る。そうきたか。と心の中で思いつつも、流石に口には出さない。
「で、そろそろ本題に入って下さいよ。何かがあったから、帰ってきたんでしょう? 俺の婚儀の知らせが叔瑤叔母上の所に届く前に」
言葉も態度も変わらぬ。ただ、その鋭さは柔らかい表情をしてはいても心の中に切り込んで来る。かつて縞玉は同じ感情を何度も憶えた。その姉であった巫女に。
「叔母上の命令でな……」
縞玉は碧玉の妻となった紫玉の弟にあたり、下には妹の黛玉がいます。
女の子二人に挟まれた中間子。色々頑張れ←
そしてこの場所は所謂清浄な地という設定があります。
黒玉を奪われないように黄玉は何気に必死です。




