十五、求愛は続く
石造の邸は堅牢な作りですが、扉は木製なので、本気でやろうと思えば蹴破れます。
鍵はついてますが。
黒玉が目覚めると、半裸だった。そこまでは、寝苦しい夜にはたまにないこともない。問題は、褐色の肌に残る赤い痣のようなものだった。寝ぼけた目でふと自分の姿を見ると、唖然とせざるを得ない。黄玉か、と思い当たって昨夜のことが脳裏に甦る。湖畔で少年と話していたことまでは記憶があった。しかしその後のことがすっぱり消えている。自分で動いて寝台に辿り着いた訳ではなさそうだから、運んだのは黄玉だろう。とすればこれもまた彼の仕業であるに違いない。眠ってしまった自分を呪うしかないが、後で一言苦情を言うくらいは許されるかも知れない。着替えようと立ち上がって、思わず目が点になった。
「…黄玉。なんでこんなところに」
床に黄玉が転がっていた。多分最初は自分の隣に眠っていたに違いない。寝台から落ちたか、落とされたか、それとも降りたか。何れにせよ放っておけるはずもない。手を伸ばして黄玉を寝台に載せようとする。
ぱしっ。
「えっ?」
手首を捕まれて、抱きすくめられた。思わず振り返ると黄玉がにっこりと笑っている。振りほどくことも出来ず整えていなかった服が剥ぎ取られる。褐色の両手首を服から抜き取ると、そのまま黄玉は体の後ろで交差させ、手際良く結んだ。まだ完全に目が醒めていない黒玉には抵抗もままならない。
「ちょ、ちょっと…」
目を白黒させる赤髪の娘を寝台に載せる。首筋、肩、二の腕の内側、鳩尾、腰骨、太腿の内側と少年の唇と舌と指とが濃密に撫でて行き、小さな薔薇のような、新しい花を娘の体に咲かせていく。
「お仕置きです」
朝日が窓から差し込み、黄玉の背にかかった。表情が見えなくなった顔の中で、潤いを持った瞳が一層艶やかさを増して、黒玉の体を舐めまわしているようだった。
黒玉を抱き寄せ、ぐったりしかけている娘の肩に唇を這わせる。その身をやさしく反転させて今度は背中に鮮やかな花を咲かせていく。意識が泥土の中に沈んで行く感覚を味わいながら、黒玉はその豊かな胸に伸びた、黄玉の白く細い指を見つめていた。その手が徐々に下へ移動していき、下腹部の臍の窪みをかすめていく。もう一方の手は娘の体をしっかりと支えていた。
とんとんとん。と扉を叩く音に続いて、虞紫玉の声がした。
「黒玉、朝食よ。起きていて?」
冷水を浴びた気分だった。鍵をかけた記憶はない。この状況はいくら婚儀を控える者同士であっても褒められたものとは到底思えなかった。
「大姐、応えないで」
首筋を、滑らかなものがゆっくりと撫で下ろす。こんな状況では見つからないように声を殺しているのが精一杯で、他の事など考えることも出来ない。それでも。身をこわばらせつつも黄玉の執拗とさえ言える愛撫に、徐々に体が反応していく。少年の唇がまた鮮やかな花を褐色の肌に散らせて行く。歩き去る足音が響いたあと、今度は複数の足音が近づいてくることに黄玉は気付いていた。
「黒玉が返事をしないの。熟睡してるのかしら。鍵が掛かっているし」
扉の外で再び声がした。紫玉が誰かを呼んだのかも知れない。
「おーい、黒玉。黄玉が居ないんだが、まさかこっちに来てないよな?」
良く響く低音は碧玉である。黒髪を振って、仕方ないという風情で少年は顔を上げる。
「……居ますよ」
溜息をついて、黒髪の少年は名残惜しげに滑らかな肌からゆっくりと手を離した。
寝相の描写は、とある友人を参考にしました。黒玉の容姿の一部も参考にしています。




