十四、<回想>後継者の決意
縞玉は少々晩婚にはなりますが、そもそもこの一族が比較的早婚(十代後半)なだけで、伽国全体として見れば婚姻時期は普通(二十代)です。
平民だと男性が二十代、女性が十代後半あたりからが適齢期です。
縞玉は、白玉の夢を見ていた。いつでも誰にでも優しい微笑みを与える、海一族の巫女。手に入らぬことを承知しながら、手を伸ばした瞬間、拒絶され、やがて消えていった白い乙女。その死に顔は生前と同じく微笑んでいた。何を思って逝ったのだろう、と縞玉は今更にして思う。一人で淋しくはなかったのだろうか。怖くはなかったのだろうか。何故いつも微笑んでいられたのだろうか。それを知っていながら。それを考えながら、縞玉は決断した。
「父上。お許しいただきたいことがあります」
虞家家長虞叔鍾の前で改まった願いを伝えるのは、これが初めてだった。顔を上げ、息子の顔をじっと見つめる。何かを堅く決めた様子であるのは、傍目からも良く判った。
「何を望むのだ?」
暫時躊躇うような仕草をしつつも、意思は決まっているようである。促すようにちら、と視線を走らせると、ようやく意を決したように口を開いた。
「勝手を申します。……遊学させてください」
叔鍾は言葉を失いかけた。辛うじて息をつくのと同時に、唇から言葉が吐き出された。
「何故だ? 白玉の死が原因か?」
「それもあります。が、私は少し頭を冷やす時間が必要です。まずは医生として学問を修めたいと思います」
「……期間と場所は? もう決めたのか?」
「はい」
そう言って縞玉はその場所の名前を挙げた。
「かなりの覚悟がいるぞ?」
「はい、承知しております」
「判った。励んで来い。だがあまり待たせてくれるな。……必ず帰ってこい」
「ありがとうございます」
叔鍾の目尻が、静かに光ったようだった。
縞玉の父は息子の望みを聞いて、何度か白玉と婚姻を結べないかと画策もしましたが、拒まれていた(として公表されている)理由を知り、納得しつつもちょっと残念な気分でいます。
ただ、同時に息子の成長にも気付き、ほっと一息。
白玉の本当の拒絶理由は、書ける日は来ないかも知れない。。。




