↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
# 転生した設備管理員、役立たずの〈手直し〉で辺境要塞を造る  作者: オレンジペコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/13

第4話 50歩先の帰り道

 青い灯りは、三度瞬いて消えた。


 レオンは、そのあった場所を見ていた。小さな石が壁へ埋め込まれ、下に金属の縁がついている。指で土を払うと、刻み目のようなものが現れた。


「分かるのか」


 ミレイユに聞かれ、首を振る。


「まだ何も。灯りなら、どこかから力が来ているはずですが」


「今は出口だ」


「はい」


 後ろで、ルカが咳をした。オルガが布を渡し、水筒から一口だけ飲ませている。


 レオンは先へ目を戻した。


 左の通路は、入口よりも乾いていた。靴底の音が硬い。壁に触れず、足元を確かめて歩くうち、見えていた範囲の先に新しい壁が現れた。


 通路を塞ぐように、石が積まれている。


「行き止まりだ」


 ルカの声が裏返った。


 ブラムは灯りを受け取り、壁の上から下までゆっくり照らした。


「ここだけ仕事が違う」


 四角く切られた通路の壁に対して、前を塞ぐ石は大きさがばらばらだった。隙間に詰められた白いものも、あちこち剥がれている。


 レオンがしゃがむと、頬に風を感じた。


「下が空いています」


 指を差し込めるくらいの穴だった。そこへ灯りを近づける。穴の先は暗く、向こうの床らしいものしか見えない。


「後から塞いだんだな」とヨナス。


「支えにしとる壁じゃなさそうだ」


 ブラムは石を一つずつ叩いて確かめた。ヨナスも道具を下ろす。


 レオンは壁の縁へ触れたが、分かるのは手に近い石の割れだけだった。二人の手つきを見て、自分の手を引っ込めた。


「俺は何をすれば」


「外した石を受けろ。落とすなよ」


 やることがある。それだけで、少し息がしやすくなった。


 上の小さな石から外していく。オルガとルカがそれを通路の脇へ運んだ。バルドは人数を確かめるように、一人ずつ顔を見ていた。


 しばらくして、ヨナスの腕が壁の向こうへ抜けた。


「空いてるぞ」


 同時に、かすかな水音が届いた。


     ◇


 壁の向こうは、丸い部屋だった。


 中央には浅い水槽。三方向に溝が延び、壁沿いに人が歩ける段がある。部屋の北側に大きな操作輪がついていた。


 その脇から、水が漏れている。


 ほんの細い流れだった。壁を伝い、東側の溝へ消えていく。


「あるじゃないか」


 オルガが呟いた。


 レオンは水へ手を伸ばしかけて止めた。今は飲めるかどうかも分からない。ただ、奥に水がある。それだけでも、ここへ来た意味があった。


 操作輪のそばには、別の略図が刻まれていた。


 山から来る線。村へ向かう線。鉱山の印へ向かう線。


「ここで分けていたんですね」


 レオンが言うと、ヨナスは村の方角を指した。


「こっちが昔の水路か」


 溝は乾き、その手前に下りたままの水門があった。


 レオンは操作部を調べた。歯車の歯が欠けている。軸もずれていて、むやみに回せば途中で噛み込むだろう。


 直す箇所を数えかけて、やめた。


 先に、出口だ。


「水は逃げません。まず戻りましょう」


 言うと、ミレイユが短く頷いた。


 部屋の隅に、古い梯子があった。


 木の横桟は朽ちていたが、壁に打ち込まれた金具が上へ続いている。上方から外の匂いがした。


「あそこだ」


 ヨナスが見上げた。


 皆がほっとした、その直後だった。


「一度に上がるなよ」


 ブラムが釘を刺す。


 ヨナスは持ってきた木材を壁の金具へ渡し、足を置く場所を確かめた。レオンは金具の割れを一つ補ったが、次は指が震えてうまくいかなかった。


「そっちは綱で取る」


 ヨナスが言った。


 レオンは頷き、工具を渡した。


 力が出ないことを、言い訳しなくていいのがありがたかった。


 最初にミレイユが上がる。長い綱が、少しずつ闇へ消えた。


 上から、何かを押す音がした。


 次に砂が落ちてきて、ルカが頭を抱えた。


「開いたぞ!」


 声と一緒に、白い光が差し込んだ。


 眩しくて、レオンは目を閉じた。


     ◇


 地上へ這い出した時、頬に雨が当たった。


 ミレイユの予報は当たった。けれど、今日だけは文句を言う気にならなかった。


 場所は、枯れた葡萄畑の中だった。向こうに取水口の岩場が見える。


「あそこから、ここまで」


 バルドが杖で距離を測るように振った。


「50歩もないな」


 レオンは草の上へ座り込んだ。


「ずいぶん遠くまで歩いた気がします」


「帰ったら、歩数ではなく成果を書いてくれ。こちらも年なのでな」


 オルガが笑い、そのまま咳き込んだ。ルカも笑っていた。


 レオンは、七人の顔をもう一度見た。


 土で白くなった眉。汚れた頬。破れた袖。


 全員いる。


 御者がこちらを見つけ、転びそうな勢いで駆けてきた。入口から音がしたので村へ助けを呼びに戻り、今は二人の男と一緒に戻ったところだという。


「大丈夫ですか!」


「怪我はありません。心配をかけました」


 レオンは立って頭を下げた。


 謝る相手がいる。戻ってこられたから、そうできる。


 ミレイユが見つけた縦穴の周りへ縄を張り、目印を立ててから村へ戻った。


     ◇


 集会所で、レオンはバルドの帳面を見せてもらった。


 作業した時刻。開いた扉。崩れた通路。帰り着いた七人の名。


「最後の項目は、大きく書いておいてください」


「もう書いてある」


 バルドは頁を指した。


 全員帰還。


 文字を見ていると、腹のあたりが遅れて冷たくなった。レオンは膝の上で手を握り、ほどいた。


「明日、また入るのか」


 ヨナスが戸口から聞いた。


「元の入口は使いません。今日出た縦穴を、先に安全に上り下りできるようにしたいです。水門に触るのは、それから」


「材料は?」


「足りない物を教えてください。使いが戻るまでの分は、村で買える物を探します」


 ヨナスは、壁へ寄せてあった古い作業台を見た。


「こいつなら脚を使える。上の板は残るぞ」


「あとでまた組み立てられますか」


「違う脚をつければな」


 レオンは頷いた。


 新品を買わなくても、役目を変えれば使えるものがある。今度は、それを知っている人に聞けばよかった。


 ミレイユへは、明日の護衛を正式に頼んだ。


「もう一日なら引き受ける。報告を送る便も、その間に確認する」


「お願いします。危ないと思ったら、止めてください」


「今日も止めた」


「はい。助かりました」


 彼女は代金の話を先に済ませ、それから濡れた外套を外した。


 夕方、集会所の隙間をヨナスが板で塞いでくれた。


 雨粒はまだ屋根のあちこちを叩いている。でもレオンの肩に当たっていた風は、来なくなった。


「外からだと、何も変わりませんね」


 レオンが板の継ぎ目を見て言うと、ヨナスは道具をしまいながら答えた。


「中におる奴が寒くなけりゃ、いいだろ」


 レオンは椅子を少し窓へ寄せた。


 確かに、その通りだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。