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エピローグ

懐かしさを感じる神殿だった。


苔むした祭壇、傾いた燭台。誠が目を開けると、寝乱れた寝具の上に、いつか見た女神が頬杖をついていた。


「景気よくやってるみたいじゃない」


ガイエラは片手を軽く上げた。以前と変わらず、緩んだ神衣の肩紐がずり落ちかけている。


「調子はどう?」


「まあ、それなりに」


誠が短く答えると、ガイエラは寝そべったまま器用に片眉を上げた。


「それなりって顔じゃないでしょ、それ。爵位までもらっちゃって」


「知ってたのか」


「あたし、地面の下で起きたことなら大体分かるって言ったでしょ」


ガイエラはくすりと笑うと、祭壇の隅に転がった果物の皮を、いつものように足で蹴り飛ばした。それから、ふと視線を落とし、少し照れくさそうに髪をかき上げた。


「……最近さ、お供え物が増えてきたのよね」


「お供え物?」


「あんたの仕事、モーレンからクロイツェンなんなら王都まで噂になってるみたいでさ。『大地の女神様のご加護』とか言われて、久しぶりに誰かが花なんか置いていくのよ。あたし、もう何百年も忘れられてたのに」


その声には、いつもの気だるさに混じって、隠しきれない戸惑いが滲んでいた。


「悪い気はしてないんだろ」


「うるさいわね」


ガイエラはむくれた顔をしてみせたが、すぐにいつもの笑みに戻った。


「まあ、いいわ。あんたが真面目に働いてくれてる分だけ、こっちも少しは働かなきゃ罰が当たるってもんよ」


彼女は伸びをすると、遠く、北の方角に目を細めた。


「ただね、誠。あんたがこれだけ目立つと、面白く思わない連中も出てくる。特に、北の交易路で甘い汁を吸ってる中央の連中はね」


「……穏やかじゃないな」


「あたしも詳しくは知らないわよ。ただの勘。……でも、あたしの勘、当たるのよね、こういう時に限って」


ガイエラは悪戯っぽく笑うと、誠に向かって手をひらひらと振った。


「まっ、今日のところはこれくらいにしとくわ。せいぜい、次の現場でも死なないようにね」


「善処する」


「その返事、前世の頃から変わってないわね」


ガイエラはそう言って、寝具の上でごろりと転がった。


「じゃ、また今度。おやすみ、現場監督」


視界が白く滲み、神殿の景色が溶けていく。


誠は、静かな寝息を立てながら、次の現場に思いを馳せていた。

次回の更新は、8月24日 21:10を予定しています。


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※本作品は「カクヨム」様にも掲載しております。

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