歌う鎧
王城の地下から爆音。
どごぉぉん!!
兵士が駆け込んでくる。
「大変です!」
「今度は“歌う鎧”が脱走しました!」
沈黙。
ノヴァが立ち上がる。
「つぎ?」
“歌う鎧”脱走の報せで、広間は再び騒然としていた。
兵士たちは右往左往。
王女エリシアは頭を抱え。
レナは机に突っ伏していた。
「なんで封印庫、そんな愉快なものばっか入ってるの……」
ゼルクが腕を組む。
「先祖の趣味ではないか」
フィリアは真顔で資料を読んでいる。
「記録によると、歌う鎧は三百年前に封印」
「理由、“うるさいから”」
全員が納得した。
出動
ノヴァはすでに立ち上がっていた。
「つぎ?」
エリシアが頷く。
「お願いします!」
アルヴェリアも翼を広げる。
『今度は何が出るやら……』
ミミクロンは広間の隅で張り切っていた。
「我も行くぞ! 同じ元封印仲間として説得できるかもしれん!」
レナが即答する。
「不安しかない」
一行が地下通路へ降りると、すぐに聞こえた。
重厚な金属音。
がしゃん。
がしゃん。
そして朗々たる歌声。
♪ 我こそ鋼の騎士〜
♪ 孤高のメタルスター〜
レナが顔をしかめる。
「うまいのが腹立つ」
フィリアが耳を澄ます。
「音程は正確」
大広間へ入る。
そこには銀色の全身鎧がいた。
羽飾り付き兜。
マント。
無駄に豪華。
剣をマイクのように持ち、台座の上で熱唱している。
♪ 愛と勇気と鉄分を〜♪
観客は誰もいない。
ただ兵士たちが壁際で困っていた。
鎧はノヴァたちを見るなり、ポーズを決めた。
「来たか!」
「我が名は鋼唱騎士メロディアン!」
「今宵の観客は貴様らだァ!」
ゼルクがぼそり。
「帰るか」
兵士長が泣きそうな顔で説明する。
「攻撃はしてきません!」
「ただ、歌いながら追いかけてきます!」
「止めようとすると二時間アンコールします!」
レナが絶望した。
「最悪のタイプ!」
ノヴァは前へ出る。
メロディアンが片膝をついた。
「おお、小さき観客!」
「何を望む!」
ノヴァは少し考えて答えた。
「しずかにして」
場が凍る。
メロディアン、胸を押さえて後ずさる。
「な、なんという辛辣レビュー……!」
だがすぐ立ち直り、剣を掲げた。
「ならば勝負だ!」
「我の歌に心動かされれば、自由を認めよ!」
「逆に動かなければ、大人しく戻ろう!」
フィリアが頷く。
「合理的」
レナが小声で言う。
「聞かされる側は合理的じゃないけど」
メロディアン、全力で歌い始める。
♪ 鋼の心はサビないぜぇぇ〜♪
♪ だが恋には弱いぜぇぇ〜♪
ミミクロンが横でペンライト役を始めた。
「フゥー!」
レナが頭を抱える。
ゼルクは真顔で壁を見ている。
アルヴェリアは耳を翼で塞いだ。
歌が終わる。
静寂。
全員無表情。
ただ一人。
ノヴァだけが小さく拍手した。
ぱち。
ぱち。
メロディアンの兜から涙がこぼれた。
「初めて……聴いてくれた者が……!」
その夜、メロディアンは封印庫へ戻らなかった。
代わりに王都の新施設へ配属された。
王立劇場・専属歌手。
満員御礼。
女性人気爆発。
レナが信じられない顔をする。
「なんで成功してるのよ」
フィリアは資料に追記した。
「封印理由、時代が早すぎた」




