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虚無王ネグゼル

亀裂の中から、白い手が伸びた。

人の手に見える。

だが山より巨大。

指先が世界へ触れた瞬間、雪が消えた。

溶けたのではない。

存在ごと消失した。

レナが青ざめる。


「え、ルール違反では?」


ノヴァはその手をじっと見る。

瞳が少し細くなる。


「……やなかんじ」


アルヴェリアが娘を庇うように前へ出る。


『下がれ。これは我らでも――』


ノヴァは首を横に振った。


「こんど、いっしょ」


母を見る。


「おかあさん、ひとりじゃない」


アルヴェリアの目が揺れる。

長い孤独を終わらせる一言だった。

ノヴァは右に聖剣。

左に魔剣。

アルヴェリアは六翼を広げる。

母娘の光が山頂を照らす。

レナが剣を抜く。


「いいじゃない、家族戦線」


フィリアは杖を構える。


「参加する」


ゼルクも翼を開いた。


「置いていくな」


白ぽむたちは跳ねる。


「ぽむ!」


巨大な白い手が、ゆっくりと掴みかかってくる。

ノヴァは笑った。


「みんなで、やる」


空に走る巨大な亀裂。

その向こうは、光も音も飲み込む虚無界。

そこから伸びる白い巨手が、世界そのものを掴み取ろうとしていた。

触れた雪は消失。

岩も消失。

風さえ欠ける。

山頂にいる全員が、本能で理解していた。

――当たれば終わる。


レナが最初に飛び出した。


「考えるより斬る!」


炎を纏った一撃が巨手へ走る。

だが触れる寸前、炎ごと消えた。


「うそでしょ!?」


ゼルクが黒雷を放つ。

雷撃は指先へ届く前に、線ごと途切れた。


「……厄介だ」


フィリアは氷結界を展開。

だが巨手が近づくだけで、結界の一部が空白になって崩れる。


「干渉そのものを消している」


アルヴェリアが六翼を広げ、天へ翔ぶ。

神獣の咆哮。

純白の光弾が幾千も放たれ、巨手へ降り注ぐ。

連続爆発。

山々が揺れる。

だが煙が晴れると、巨手には傷ひとつない。

むしろさらに伸びてくる。

アルヴェリアの声に焦りが混じる。


『物質でも魔力でもない……概念の侵食か!』


皆が攻撃する中、ノヴァだけは動かなかった。

じっと見ている。

白い手。

消える雪。

欠ける空間。

レナが叫ぶ。


「ノヴァ、何かわかった!?」


ノヴァは小さく答えた。


「これ、本体じゃない」


全員が止まる。


「え?」


ノヴァは指差した。


「扉、あけてるだけ」


静寂。

フィリアが目を見開く。


「……本体じゃなくて、別の何か?」


ゼルクが笑う。


「つまり本体はまだ奥か」


本体の気配

亀裂の奥。

闇の中で、何かが目を開いた。

星のように巨大な瞳。

見ただけで膝が震える圧力。

レナが青ざめる。


「やっぱり本命いたーー!」


アルヴェリアが低く唸る。


『虚無王ネグゼル……』

『存在を無に還す古き災厄』


ノヴァは前へ出る。

白金の翼が静かに広がる。

聖剣と魔剣を交差させる。

白と黒の光が渦となり、周囲の“消失”を押し返した。

雪が戻る。

風が戻る。

欠けた岩が再び現れる。

フィリアが息を呑む。


「再構築してる……」


アルヴェリアが娘を見る。

驚きと誇りの混じった瞳で。


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