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新たな別の次元


ノヴァは一歩踏み出した。

その瞬間、姿が消える。

音より速い。

空にいた悪魔兵の列が、遅れて真っ二つになる。

どがぁぁん!!

レナが目を見開く。


「見えなかったんだけど!?」


ゼルクが低く笑う。


「我もだ」


ノヴァは空中を舞う。

一振りで百。

二振りで千。

聖剣が光れば、軍勢が浄化されるように消える。

魔剣が走れば、巨人の装甲が紙のように裂ける。

逃げる魔獣は翼の風圧だけで地平線の彼方へ吹き飛んだ。

白ぽむたちは下から応援する。


「ぽむー!」

「ぼむ!」

「ぷむ!」

「ぴむ!」



アルヴェリアは動けなかった。

ただ見ていた。

かつて自分が命を賭けて止めていた黒門の軍勢。

それを娘は――

遊ぶように、しかし確実に制圧していく。

銀の瞳が見開かれる。


『……あれが、我が子?』


フィリアが小さく答える。


「はい」


レナが胸を張る。


「うちのノヴァよ」


ゼルクが不満そうに言う。


「なぜお前が誇る」


門の奥の角ある巨影が怒号を放つ。

山脈を揺らす咆哮。

ついに本体が現れる。

八本の腕。

溶岩のような皮膚。

星を飲み込むような口。


魔界皇グラディオン。


アルヴェリアが険しい顔になる。


『危険だ、ノヴァ! そやつは別格――』


言い終わる前に。

ノヴァは巨影の鼻先に立っていた。

グラディオンが腕を振るう。

ノヴァ、避けない。

片手で受け止めた。

山が割れる衝撃。

だがノヴァは微動だにしない。

グラディオンの目に初めて恐怖が宿る。

ノヴァは短く言った。


「おおきいだけ」


そのまま腕を投げ返す。

巨体が黒門ごと吹き飛び、空の彼方へ消えた。

数秒後。

遥か遠方で大爆発。

残った悪魔軍は一斉に逃げ出した。

黒門は勝手に閉じ始める。

ノヴァは空から降りてくる。

少し髪が乱れただけ。

アルヴェリアの前に着地し、見上げた。


「おわり」


アルヴェリアはしばらく無言だった。

やがて震える声で言う。


『……強すぎない?』


レナが吹き出した。

フィリアも珍しく笑う。

ゼルクは遠くを見る。


「親でもそう思うのか……」


アルヴェリアは翼でノヴァを包み込む。

今度は守られる側ではなく、守ってくれた娘へ。


『誇りだ、ノヴァ』


ノヴァは少し照れながら言った。


「えへ」


吹雪の山頂に、あたたかな時間が流れた。

黒門は閉じ、悪魔軍は消えた。

山頂には静かな青空が戻っていた。

吹雪も止み、何百年ぶりかの陽光が神殿を照らす。

アルヴェリアは翼でノヴァを包み、まだ少し信じられない顔をしていた。


『……本当に、あの赤子か?』


ノヴァはこくりと頷く。


「たぶん」


レナが笑い転げる。


「本人も曖昧なんだ」


その日は戦いではなく、休息の日になった。

白ぽむたちはアルヴェリアの背中で転がり回る。

巨大な毛並みは最高の遊び場だった。


「ぽむー!」

「ぼむ!」


黄ぴむは羽の中で行方不明になった。


「ぴむぅー!」


フィリアは珍しく穏やかな顔で紅茶を淹れる。

ゼルクは少し離れて座っていた。

アルヴェリアがちらりと見る。


『黒いの』


ゼルクが眉を上げる。


「俺のことか?」

『娘の仲間か?』

「……まあ、そうだ」


レナが即答する。


「ツンデレ仲間枠ね」

「違う!!」


山頂に叫びが響いた。



夕暮れ。

ノヴァはアルヴェリアの隣で座っていた。

小さな姿と、山のように大きな母。

アルヴェリアは静かに語る。


『お前は特別な子として生まれた』

『天界の光と、魔界の闇。その両方を宿していた』


フィリアが驚く。


「だから聖剣と魔剣を……」


アルヴェリアは頷く。


『均衡を保つ者。門を閉じる者。』

『だが、その力を狙う者も多い』


レナの表情が引き締まる。


「つまりまた来るのね」

『必ず』


その時だった。

空が揺れた。

だが黒門ではない。

今度は空間そのものが、鏡のようにひび割れる。

ぱき。

ぱきぱき。

空に巨大な亀裂。

そこから見えたのは――

星のない闇。

音もない、底のない闇。

ゼルクが立ち上がる。


「……これは魔界ではない」


フィリアも顔色を変える。


「別の次元」


アルヴェリアの声が低くなる。


『虚無界……』


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