氷王女セレスティア②
セレスティアの杖が振り下ろされる。
瞬間。
空間そのものが凍った。
空気中に無数の氷刃が生まれ、嵐のように襲いかかる。
レナが叫ぶ。
「避けて!」
ノヴァは動かなかった。
純白の聖剣を前へ。
きぃん。
澄んだ音とともに、氷刃の嵐が左右へ割れた。
まるで道を開くように。
ゼルクが低く笑う。
「やるな、白いの」
セレスティアの瞳にわずかな揺らぎ。
だがすぐ杖を突く。
床一面が砕け、巨大な氷竜が出現した。
咆哮。
城を埋めるほどの巨体。
黄ぴむが外から悲鳴を上げた。
「ぴむぅ!?」
レナが顔を引きつらせる。
「お姉さん盛りすぎでしょ!」
氷竜がノヴァへ噛みつく。
ノヴァは小さく呟いた。
「だめ」
漆黒の魔剣を一閃。
竜は黒い線を残し、静かに二つに割れた。
砕けた氷が雪のように舞う。
フィリアは震えていた。
強い。
優しい。
だからこそ苦しい。
「姉さま……」
「どうして、一人で背負ったの……」
その声に、セレスティアの杖が止まる。
ほんの一瞬。
瞳の奥に、人の光が戻った。
「……フィリア」
今度は、はっきり聞こえた。
フィリアが駆け出す。
「姉さま!」
だが術式が暴走する。
王座の間全体に赤い亀裂。
氷の魔力が暴風となって吹き荒れる。
セレスティアが苦しげに叫んだ。
「来ては……だめ!」
ゼルクがフィリアを止める。
「近づくな!」
セレスティアの胸元に、氷の結晶が浮かび上がる。
青白く脈打つ核。
フィリアが息を呑む。
「王核……」
「姉さまの命を縛っているもの……!」
レナがフィリアを見る。
「壊せば助かるの?」
フィリアは涙を流しながら頷いた。
「でも、傷つけずに核だけを斬るなんて……」
全員がノヴァを見る。
ノヴァは首を傾げた。
「できる」
暴風の中、ノヴァが前へ出る。
白金の翼が広がる。
純白の聖剣を納めるように構え、漆黒の魔剣を背へ。
静寂。
セレスティアが涙を流しながら微笑んだ。
「……綺麗な子」
ノヴァは一歩踏み込む。
消えた。
次の瞬間。
セレスティアの前にいた。
すれ違いざまの一閃。
かちん。
小さな音。
胸元の王核だけが、真っ二つに割れた。
暴風が止む。
氷柱が崩れ落ちる。
外の氷像兵たちも次々と静止した。
セレスティアの身体が、ゆっくりと倒れる。
フィリアが受け止めた。
「姉さま!」
セレスティアは穏やかな顔だった。
もう瞳に冷たさはない。
ただ、優しい姉の目だった。
「……大きく、なったね」
フィリアは泣きながら笑う。
「全然です」
セレスティアはノヴァを見る。
「最後に……あなたに会えて……良かった」
ノヴァはこくりと頷く。
セレスティアは最後に妹の頬へ触れた。
「私の分まで生きて」
それだけ言って、光となって消えた。
雪の粒のように、静かに。
王城に朝日が差し込む。
長く凍っていた国に、初めて暖かな光。
フィリアは涙を拭き、立ち上がった。
レナが隣に立つ。
ゼルクも黙って背を向ける。
ノヴァは近づき、短く言った。
「いっしょ」
フィリアは少し笑った。
「……うん」
外では白ぽむたちが雪に埋まりながら跳ねていた。
イルスノアに、ようやく春が来た。
王城に朝日が差し込み、長い冬が終わろうとしていた。
街を覆っていた氷は少しずつ溶け、屋根から雫が落ちる。
白ぽむたちは雪山で転がり回り、黄ぴむは一人で埋まっていた。
「ぴむー!」
レナが笑う。
「元気ねえ」
フィリアは静かに城壁の外を見ていた。
その横で、ノヴァは珍しく落ち着かない様子だった。
白金の翼をたたみ、何度も北の山脈を見ていた




