氷霊郷イルスノア
白ぽむの上に荷物。
赤ぼむが食料担当。
青ぷむが水担当。
黄ぴむが応援担当。
ゼルクは不満そうに横を飛ぶ。
「我の担当は?」
レナが即答する。
「努力賞」
ゼルクの叫びが王都に響く中、
英雄たちは新たな旅へと飛び立った。
王都アルセリアを発って三日。
一行は北方へ向かっていた。
白ぽむの上で眠るノヴァ。
赤ぼむの上で肉を焼くレナ。
青ぷむの水で紅茶を淹れるフィリア。
黄ぴむはずっと跳ねている。
ゼルクは横を飛びながら不満げだった。
「なぜ我だけ徒歩……いや飛行なのだ」
レナが肉を返しながら答える。
「翼あるでしょ」
「むしろ一番楽でしょ」
ゼルクは納得しなかった。
夜になると、例の光ははっきり見えた。
北の空。
山脈のさらに向こう。
白く細い柱のような光が、天へ伸びている。
フィリアが珍しく真剣な顔をした。
「……あの方角」
レナが気づく。
「知ってるの?」
フィリアは小さく頷く。
「私の故郷」
全員が彼女を見る。
「氷霊郷イルスノア」
「滅んだはずの国」
空気が変わった。
ゼルクも口を閉じる。
ノヴァは白ぽむの上で目を開けた。
焚き火の前。
フィリアは静かに語った。
「イルスノアは、氷と精霊の国だった」
「でも十年前、“白き災厄”に襲われた」
「一夜で国は凍り、誰もいなくなった」
レナが眉をひそめる。
「白き災厄?」
フィリアは北の空を見る。
「巨大な白い獣」
「空を覆う翼を持っていた」
全員の視線が、ノヴァへ向いた。
ノヴァは首を傾げた。
「ちがう」
レナが慌てる。
「いや、疑ってないから!」
ゼルクがぼそり。
「サイズは違うな」
翌日。
一行は北の雪原を越え、廃都へ辿り着いた。
そこは時間の止まった国だった。
城も家も市場も、すべて氷の中。
人の姿はなく、風だけが吹いている。
白い光は王城の中心から伸びていた。
フィリアの表情は読めない。
ただ足だけが少し速かった。
城門は凍りついていた。
だがノヴァが手を触れると、氷は静かに割れて道を開く。
レナが目を丸くする。
「便利すぎるでしょその子」
中庭には無数の氷像が並んでいた。
兵士。
民。
子ども。
みな逃げる姿のまま凍っている。
フィリアが小さく呟く。
「……みんな」
黄ぴむがしょんぼりした。
「ぴむ……」
最奥。
巨大な扉を開く。
そこには王座。
そして、その前にいた。
氷の中で眠る、一人の少女。
フィリアによく似た銀髪。
王冠。
両手には氷の杖。
王座の周囲から、あの白い光が天へ伸びている。
フィリアが立ち尽くす。
「……姉さま」
レナが息を呑む。
「お姉さん……?」
フィリアは震える声で言った。
「氷王女セレスティア」
「イルスノア最後の王」
その瞬間。
氷に亀裂が走った。
ぴし。
ぴしぴし。
王座の間の温度が一気に下がる。
白ぽむたちの毛が逆立つ。
ゼルクが翼を広げる。
「来るぞ」
氷が砕け散った。
中から現れた少女は、ゆっくり目を開く。
蒼い瞳。
だが感情はない。
セレスティアの声が響く。
「侵入者確認」
「王国防衛機構、再起動」
フィリアの顔色が変わる。
「……だめ」
砕けた氷の中から現れた氷王女セレスティア。
蒼い瞳は冷たく、感情の光がなかった。
セレスティアが杖を掲げた瞬間――
外の廃都から無数の足音。
凍った兵士。
凍った騎士。
凍った獣。
氷像たちが一斉に動き出した。
レナが顔をしかめる。
「ほんとに全部起きた!」




