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85話 新たな旅へ


悪魔軍は敗走し、空は晴れた。

王都には沈黙が落ちる。

やがて誰かが叫んだ。


「勝ったぞぉぉ!!」


歓声が広がる。

レナは笑い、フィリアは小さく拍手した。

ゼルクは空を見上げる。


「……白いの」

「やはり、お前が一番人気で当然だな」


少女ノヴァは振り返り、短く言った。


「うん」


初めて少しだけ、笑っていた。

黒門は消え、悪魔軍は敗走した。

朝の光が瓦礫の街を照らしている。

傷ついた兵士たち。

崩れた塔。

けれど、人々の顔には確かな安堵があった。

そして広場の中心には――

白金の翼を持つ小さな少女、ノヴァ。

歓声はやまない。


「英雄だ!」

「王都を救った!」

「ノヴァ様ー!」


レナが笑う。


「“様”までついたわよ」


フィリアは頷く。


「昇格」


ノヴァは倒れている仲間たちを見る。

レナ。

フィリア。

ゼルク。

毛玉連合。

少し考え、純白の聖剣を地面へ立てた。

剣から柔らかな光が広がる。

春の陽だまりのような温かさ。

傷口が塞がり、痛みが引いていく。

レナが起き上がる。


「え、便利すぎない?」


フィリアも立ち上がる。


「回復役も兼任」


ゼルクは翼を広げて確認する。


「……完治している」


毛玉たちも元気に跳ね始めた。


「ぽむ!」

「ぼむ!」

「ぷむ!」

「ぴむ!」


その様子を見た人々はさらに熱狂した。


「治してくれた!」

「天使様だ!」

「かわいいし強いし優しい!」


ゼルクが顔を引きつらせる。


「……終わった」


レナが肩を叩く。


「何が?」

「我の人気だ」


フィリアは静かに言う。


「元から低い」


少女ノヴァは自分の手を見る。

小さな指。

剣。

翼。

そして人々。

少し落ち着かない様子で、レナの後ろへ隠れた。

レナが驚く。


「え、今さら照れるの?」


ノヴァは小さく頷く。


「ひと、いっぱい、みる」


フィリアが分析する。


「視線に弱い」


そこへ王女エリシアが現れた。

護衛たちを連れ、瓦礫を越えて歩いてくる。

彼女はノヴァの前で深く頭を下げた。


「王都を救ってくださり、感謝します」

「そしてお願いがあります」


広場が静まる。

エリシアは真っ直ぐ見つめた。


「この国の守護者として、ここにいてくれませんか?」


レナが息を呑む。

ゼルクも黙る。

フィリアはノヴァを見る。

少女ノヴァは少し考えた。

街を見る。

仲間を見る。

空を見る。

それから、首を横に振った。


「やだ」


王都ざわつく。

エリシアも目を丸くする。

ノヴァは続けた。


「ずっと、むり」

「でも……こまったら、くる」


レナが笑った。


「らしい答えね」


フィリアも頷く。


「自由人」


その時、遠く北の空で光が走った。

誰かの助けを呼ぶような、細い光。

ゼルクが目を細める。


「……また厄介ごとか」


レナは剣を肩に担ぐ。


「休む暇ないわね」


フィリアは毛玉の上に座る。


「行こう」


ノヴァは翼を広げた。

白金の羽が朝日に輝く。

小さく、でもはっきりと言う。


「いく」


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