79話 魔王軍四天従
霧は港へ流れ込み、人の形を取った。
黒い外套。
顔の見えぬ仮面。
手には杖。
低い声が響く。
「ついに集まったか」
「四方の獣よ」
レナが剣を抜く。
「誰よあんた」
仮面の男は静かに一礼した。
「魔王軍四天従、宵闇の司祭ヴァルグ」
フィリアが呟く。
「名前が強そう」
ゼルクは鐘楼から叫ぶ。
「先に降ろせ!!」
ヴァルグは杖を掲げる。
すると白ぽむたち四体の瞳が赤く光った。
もふもふの体から黒い紋様が浮かび上がる。
ノヴァは揺れで目を覚ました。
「……?」
レナが叫ぶ。
「まさか!」
ヴァルグの声が港に響く。
「その毛玉どもは、魔王様のために造られし魔獣――」
「四方もふ獣だ」
沈黙。
レナが聞き返す。
「……四方もふ獣?」
フィリアは真顔。
「ネーミングだけ弱い」
ヴァルグは誇らしげに続ける。
「癒しで油断させ、王都へ潜入」
「人気を得て民心を支配し、最後に合体する!」
「そして現れるのだ――」
杖が鳴る。
四体の毛玉が震え始めた。
ノヴァが頂上で揺れる。
少し酔った。
「超巨大終末獣、キング・モフガルドが!!」
レナが叫ぶ。
「名前の方向性どうなってんのよ!」
白ぽむが伸びる。
赤ぼむが回る。
青ぷむが波打つ。
黄ぴむが光る。
四体が空中で絡み合い、巨大な光球になる。
港の建物が揺れる。
人々は逃げ惑う。
ノヴァだけは中心で転がっていた。
「まだ乗ってる!」
レナが叫ぶ。
鐘楼を破壊し、ゼルクが飛び出す。
「白いのを返せ!」
漆黒の翼を全開にし、光球へ突撃。
だが弾かれる。
ぼよん。
「なにぃ!?」
フィリアが分析する。
「弾力防壁」
光球の中。
ノヴァは気づいた。
友達だと思っていた。
全部、敵だった。
耳がぴんと立つ。
白銀の毛が逆立つ。
そして体から光が漏れ始めた。
レナが息を呑む。
「……怒ってる」
光球がさらに膨張する。
ヴァルグが笑う。
「完成だ! キング・モフガル――」
内側から白い閃光。
ぴし。
ぴしぴし。
巨大毛玉球に亀裂が走る。
ヴァルグの笑みが止まる。
「え?」
次の瞬間。
どがぁぁぁん!!
内側から吹き飛んだ。
白・赤・青・黄の毛が夜空に舞う。
中心から現れたのは――
純白の翼を広げ、怒りに燃えるノヴァ。
毛だらけである。
レナが叫ぶ。
「毛玉を内側から爆散させたぁ!?」
四体の毛玉は地面に転がり、目を回している。
ヴァルグは震えた。
「ば、馬鹿な……」
ゼルクが隣に並ぶ。
「白いの」
ノヴァも並ぶ。
一白一黒、二匹の英雄。
ゼルクが牙を見せる。
「裏切り者の毛玉は嫌いだ」
ノヴァは小さく吠えた。
港に再び戦いの風が吹く。
爆散した毛玉の綿毛が、雪のように降っていた。
白。赤。青。黄。
幻想的ですらある。
だが現実は、かなり散らかっていた。
レナは毛を払いながら叫ぶ。
「掃除どうするのよこれ!」
フィリアは肩に積もった綿毛を見つめる。
「後で考える」
地面に転がっていた四体の毛玉が、ぴくりと動く。
白ぽむの目が開く。
赤ぼむが跳ねる。
青ぷむが膨らむ。
黄ぴむが発光する。
ヴァルグが杖を掲げ、叫んだ。
「立て! 四方もふ獣!」
「もふの誇りを見せろ!」
レナが即答する。
「誇りあるなら最初から裏切るな!」




