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73話 ゼルク人気者計画


人気投票の結果が城門前に張り出された朝。


第一位:ノヴァ 98%

第二位:ゼルク 2%


紙を見たゼルクは、しばらく動かなかった。

風が吹く。

紙が揺れる。

通行人がざわつく。

それでも動かない。

レナが横で腕を組む。

「現実って残酷ね」

フィリアは静かに補足した。


「でも妥当」


その日の昼。

王城の庭。

ゼルクは真剣な顔で会議を開いていた。

参加者はレナ、フィリア、パウ。

ノヴァは少し離れた場所で昼寝中。

ゼルクが地面に図を書きながら語る。


「人気とは戦略だ」

「我には力がある」

「足りぬのは演出!」


レナが頬杖をつく。


「嫌な予感しかしない」


フィリアは無表情。


「続けて」



夕方。

王都中央広場。

ゼルクは噴水の上に立ち、月を背負ってポーズを決めた。

翼全開。

赤い瞳。

風を巻き起こす。

通行人たちが立ち止まる。

ゼルクは低い声で言う。


「……闇夜を裂く漆黒の守護者とは、我のことだ」


数秒の沈黙。


通りすがりの少年が母親に聞いた。


「ねえ、あの犬なにしてるの?」


ゼルクが落ち込んだ。



翌日。

ゼルクは首に花輪をかけ、子どもたちの前に座った。


「触ってよいぞ」


子どもたちは近づく。

期待に満ちた赤い瞳。

次の瞬間。


「こわい!」


全員ノヴァのほうへ走っていった。

ノヴァは芝生で寝ていたが、なぜか自然に囲まれた。

ゼルクは花輪のまま固まった。

フィリアが評価する。


「圧がある」



食堂。

ゼルクは巨大な骨付き肉を掲げた。


「見るがいい!」

「豪快に食らう姿、これぞ英雄!」


がぶり。

豪快。

迫力満点。

厨房の料理人たちは拍手した。

しかし隣でノヴァが小さく肉を食べるたび、周囲からは――


「かわいい……」

「上品に食べる……」

「えらい……」


ゼルクは肉を落とした。



その夜。

庭で落ち込むゼルクのもとへ、ノヴァがやってきた。

口にはパン。

ゼルクの前に置く。


「……慰めるな」


ノヴァは座り、尻尾をぱたぱた振る。

それから自分の横の地面を前足で叩いた。

隣に座れ、という意味だった。

ゼルクは少し黙り、やがて隣に伏せる。


「……我は人気者になりたい」


ノヴァは首を傾げる。

ゼルクはぼそり。


「お前みたいに、皆に好かれたい」


ノヴァは少し考えた。

そしてゼルクの頭を前足で、ぺし。

優しめに。


翌朝

城門前の人気投票掲示板が更新された。


第一位:ノヴァ 96%

第二位:ゼルク 4%


レナが笑う。


「増えてるじゃない」


フィリアも頷く。


「努力は実る」


ゼルクは胸を張った。


「当然だ」


その背後で、子どもが言った。


「ノヴァのお友達の黒い犬だ!」


ゼルクは再び膝から崩れ落ちた。



朝露の芝生。

人気投票で再び膝をついたゼルク。

その横でパンを食べるノヴァ。

レナは木陰で笑いをこらえていた。


「“ノヴァのお友達の黒い犬”は強いわ……」


フィリアは静かに紅茶を飲む。


「的確」


ゼルクは地面に爪を立てる。


「我は北天の狩人!」

「漆黒のフェンリル!」

「犬ではない!!」


ノヴァはちらりと見る。

そして、ゆっくり前足を上げた。


アドバイス

ぺし。

ゼルクの頭に軽く肉球。


「何をする白いの!」


ノヴァは前足で自分の体を示す。

小さい。

次にゼルクを指す。

大きい。

それから前足を下へ動かした。

小さくしろ、というジェスチャー。

レナが通訳する。


「……小さくなれ、だって」


ゼルクが固まる。


「は?」


フィリアは頷く。


「名案」


レナが指を折って説明する。


「まず威圧感が減る」

「子どもが近づきやすい」

「あと、でかいと通路で邪魔」


フィリアも追加する。


「椅子が足りない」

「食費が高い」


ゼルクが反論する。


「我の威厳はどうなる!」


ノヴァは真顔で首を傾げた。

威厳って必要?

そんな顔だった。


試してみる

ゼルクは鼻を鳴らした。


「……できぬことはない」


全身から黒い霧が立ちのぼる。

翼が縮む。

骨格が軋む。

体高が下がる。

レナが身を乗り出す。


「え、できるんだ」


数秒後。

霧が晴れる。

そこにいたのは――

中型犬サイズのゼルクだった。

漆黒の毛並み。

赤い瞳。

翼は小さく背中に収納。

ちょっと脚が短い。

レナが吹き出した。


「かわいい!!」


ゼルクが絶叫する。


「笑うな!!」



試しに街へ出る。

結果は即座に出た。


「ちっちゃい黒いのだ!」

「ノヴァの弟?」

「抱っこしていい?」


ゼルクは一瞬で子どもたちに囲まれた。

頭を撫でられ、背に乗られ、リボンまで付けられる。


「やめろ!」

「我は王者だ!」

「その花飾りを取れ!」


だが誰も怖がらない。

フィリアが評価する。


「成功」


レナは腹を抱える。


「人気急上昇!」



その夕方。

掲示板更新。


第一位:ノヴァ 82%

第二位:ゼルク(小)18%


ゼルクは目を見開いた。


「増えた……!」


ノヴァは尻尾を振る。

誇らしげだった。

自分の助言が役立った。



その夜。

王城の庭。

小型化したゼルクは、子どもたちに遊ばれ疲れて伸びていた。


「人気者……つらい……」


ノヴァは隣で丸くなって寝る。

レナが笑う。


「人気には責任が伴うのよ」


フィリアは静かに締めた。


「ようこそ」

「こちら側へ」



王都アルセリア。

小型化したゼルクが人気を得て三日。

街の空気は変わっていた。


「黒いのどこ?」

「今日も来る?」

「ゼルク(小)見たい!」


ゼルク本人の意思とは無関係に、完全に町の名物になっていた。


朝の散歩地獄

王城の庭。

まだ朝日も低い時間。

ゼルクは物陰からそっと門へ向かっていた。


「今なら誰もおるまい……」


散歩して、静かに帰る。

その計画だった。

門を出た瞬間。


「いたー!!」


子どもたち十数名が飛び出してきた。


「ゼルク(小)だ!」

「追えー!」


ゼルクが叫ぶ。


「なぜ待ち伏せしている!?」


全力疾走で逃げた。

子どもたちが追う。

レナは城壁の上から笑っていた。


「人気者って大変ねえ」


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