72話 大人気なノヴァ
王都アルセリアへの帰還路。
荷車には大量の土産。
保存肉。
北方チーズ。
氷竜の鱗の欠片(拾い物)。
そして荷車の上には、二頭のフェンリル。
白銀の幼体ノヴァ。
漆黒の翼狼ゼルク。
ゼルクは腕――前足を組み、誇らしげに座っていた。
「王都の民も、我が偉業に震えるだろう」
王都の門が開く。
見張り兵が叫んだ。
「帰還だー!!」
鐘が鳴る。
人々が通りへ飛び出す。
「英雄たちが戻ったぞ!」
「白き守護狼だ!」
「黒いのもいる!」
ゼルクが胸を張る。
「ふふん」
三対の翼を広げ、堂々と荷車から飛び降りた。
着地も完璧。
砂煙まで演出している。
「見るがいい、人間ども――」
次の瞬間。
人々はゼルクの横を素通りした。
一直線にノヴァへ。
「ノヴァー!」
「おかえり!」
「これ食べる?」
「触っていい!?」
「ちっちゃい!」
ノヴァは一瞬で人だかりに包まれた。
子どもたちが尻尾を追い、商人が肉串を差し出し、老人が涙ぐんでいる。
ノヴァは尻尾をぱたぱた振りながら、全部受け取った。
ゼルクは固まった。
翼を広げたまま。
誰も見ていない。
レナが肩を震わせる。
「だ、だめ……笑う……」
フィリアは真顔で言う。
「二匹目の英雄」
「でも一匹目が強い」
ゼルクが叫ぶ。
「なぜだ!?」
通りすがりのパン屋のおばさんが即答した。
「だってあんた大きくてちょっと怖いし」
花屋の少女も続く。
「ノヴァはかわいい!」
肉屋の主人が親指を立てる。
「あとよく食う!」
ゼルクは膝から崩れ落ちた。
人混みの中からノヴァが戻ってきた。
口には肉串三本。
ゼルクの前に一本差し出す。
ゼルクはしばらく見つめる。
「……慰めか?」
ノヴァはこくりと頷く。
ゼルクは受け取り、ぼそり。
「うまい」
レナが吹き出した。
「ちょろいのよあんた!」
その夜、王城で盛大な祝宴が開かれた。
ノヴァ専用の肉山。
ゼルク用の超大型皿。
レナ用の酒。
フィリア用の冷菓。
王女エリシアが杯を掲げる。
「白き英雄ノヴァ、そして北方を救った黒翼の英雄ゼルクに!」
拍手喝采。
ゼルクは少し照れながら胸を張る。
だがその直後。
会場の子どもたちが一斉に叫んだ。
「ノヴァー!こっち向いてー!」
ノヴァは肉を食べながら振り向いた。
大歓声。
深夜。
祝宴の後。
王城の庭で、ノヴァは丸くなって眠っていた。
その隣に、ゼルクも不機嫌そうに寝そべる。
「……納得いかぬ」
ノヴァは半分寝ながら尻尾でゼルクの頭をぺしっと叩いた。
ゼルクは黙る。
少しして小さく言う。
「……だが悪くない」
月明かりの下。
白と黒、二匹の英雄は並んで眠った。
なお翌朝、人気投票が行われた結果はーーー……




