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70話 北天王

ゼルクが低く言う。


「北天王グラシアード」

「氷雪の古竜だ」


レナが顔をしかめる。


「また竜!?」

「この世界、竜多くない!?」


フィリアは頷く。


「多い」


ノヴァは耳をぴくりと動かす。

竜。

以前の嫌な記憶がよぎる。

だが今のノヴァは、ただの幼体ではない。

白銀。

黄金。

そして空。

三つの力を持つフェンリルだった。


ゼルクの頼み

漆黒のフェンリルは、少しだけ気まずそうに視線を逸らす。


「……白いの」


ノヴァを見る。


「一人では勝てぬ」


レナが驚く。


「素直!?」


ゼルクは舌打ちする。


「勘違いするな」

「お前が足を引っ張るから、我が助けてやるだけだ」


フィリアが淡々とまとめる。


「共闘したいらしい」


ゼルクが吠える。


「要約するな!」


ノヴァは少し考えた。

この黒いのは面倒くさい。

うるさい。

でも悪いやつではない。

それに、空で遊ぶのは少し楽しかった。

ノヴァは前足を差し出す。

小さな肉球。

ゼルクはそれを見る。

数秒沈黙。

そして自分の巨大な前足を重ねた。

どん。

レナが笑う。


「契約成立ね」


次の瞬間、二頭は同時に空へ飛び立った。

純白の翼が風を裂く。

漆黒の六翼が闇を引く。

白と黒の軌跡が、空へ二本走る。

レナは地上から叫ぶ。


「置いてかないでー!!」


フィリアは彼女の肩を掴む。


「乗る」


氷の足場を空へ伸ばし、二人も追う。

パウはなぜかレナの頭に乗っていた。


「ぱう!」


吹雪の中心。

そこにいた。

山より巨大な白銀の竜。

全身を氷晶の鱗で覆い、翼を広げれば谷一つが影になる。

瞳は青白く、古い王者の威厳に満ちている。

グラシアードがゆっくり口を開いた。


「……騒がしい小僧どもめ」


吐息だけで山脈が凍る。

レナが震える。


「でっか……」


フィリアは冷静。


「大きい」


ゼルクが先に飛び出す。


「右目は我がもらう!」


黒い風となって急加速。

ノヴァも続く。

白い閃光が左から回り込む。

グラシアードの爪が振り下ろされる。

だがゼルクが囮となって引きつけ、ノヴァが背後へ抜ける。

見事な連携。

レナが叫ぶ。


「いつの間に仲良くなってんの!?」


フィリアは頷く。


「空で通じ合った」


ノヴァが背中へ着地し、氷鱗を砕く。

ゼルクが顔面へ突撃し、視界を奪う。

グラシアードが怒号を上げる。

山々に雪崩が起きる。

だが二頭は止まらない。

白が斬り裂く。

黒が撃ち抜く。

白が囮になり、黒が噛みつく。

敵同士だった二頭が、今は完璧に噛み合っていた。


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