69話 フェザーストーム
ノヴァの翼が淡く輝く。
白い羽根が一枚、空へ舞った。
その羽根は風に乗り、増える。
十枚。
百枚。
千枚。
空一面を埋め尽くす純白の羽。
レナが口を開ける。
「うわ……綺麗」
フィリアは冷静。
「いや危険」
フェザーストーム
ノヴァが小さく吠える。
羽根が一斉に加速した。
白い流星群となってゼルクへ殺到する。
「うおおお!?」
ゼルクは回避する。
右へ。
左へ。
急降下。
急上昇。
だが羽根は追尾する。
背中。
尻尾。
翼端。
ぺしぺしぺしぺし。
「痛い痛い痛い!」
レナが爆笑する。
「絵面がしまらない!」
最後の一枚が額に命中。
こん。
ゼルクの目が点になる。
そのまま失速。
黒い巨体がくるくる回りながら落下していく。
遠くの湖へ――
ぼちゃあああん!!
巨大な水柱。
魚たちが驚いて跳ねた。
レナは腹を抱えていた。
「また落ちた!」
フィリアは頷く。
「本日三回目」
パウはなぜか拍手している。
「ぱう!」
しばらくして、湖からゼルクが這い上がってきた。
全身びしょ濡れ。
羽根はぺたんこ。
なんか細く見える。
だが赤い瞳は燃えていた。
「……最高だ」
「もっとやろう!」
レナが真顔になる。
「この子、戦闘狂だわ」
ノヴァは空からふわりと降りてきた。
湖畔に着地。
純白の翼を畳み、ゼルクの前へ歩く。
ゼルクは身構える。
「次か!」
ノヴァは首を横に振る。
そして翼で湖の水をすくい、ゼルクにかけた。
ばしゃ。
ゼルクが固まる。
ノヴァは「落ち着け」と言いたげな顔だった。
フィリアが頷く。
「教育」
レナは笑う。
「完全に年上ポジション取ってるじゃない」
その時。
空気が変わった。
北の山脈の向こう。
重い。
古い。
凍てつくような巨大な魔力。
ノヴァの耳が立つ。
ゼルクも笑みを消す。
フィリアの瞳が細くなる。
「強敵」
レナが剣に手をかける。
「今度は何よ……」
山脈の彼方で、白銀の吹雪が天を貫いた。
ゼルクが低く呟く。
「……来たか」
「北天の王」
白銀の吹雪が、山脈の彼方で天へ突き上がっていた。
空そのものが凍りつくような圧。
森の鳥たちは逃げ、獣たちは巣穴へ潜る。
レナが剣の柄を握る。
「……冗談みたいな気配ね」
フィリアの声は静かだった。
「冗談じゃない」
ゼルクは濡れた翼を震わせ、水滴を払う。
さっきまでの軽口は消えていた。
赤い瞳が、山脈を見据えている。




