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68話 空をとびたい


空からゼルクの声が響く。


「どうした白いの!」

「来られるものなら来てみろ!」


ノヴァの耳が立つ。

来たい。

届きたい。

追いつきたい。

その思いが胸の奥で脈打つ。

白銀の核。

黄金の核。

そして今、新たな光。

風の色をした、透明な力。

ノヴァの体がふわりと浮く。

レナが固まる。


「え?」


フィリアも珍しく瞬きをした。


白い光がノヴァを包み込む。

森の木々がざわめき、雲が渦を巻く。

風が集まり、空そのものが祝福するように鳴いた。

ノヴァの背に、何かが芽吹く。

小さく。

だが確かな鼓動。

進化

光が弾けた。

純白の翼。

一対。

羽毛は雪のように柔らかく、それでいて鋼のように強い。

白銀の毛並みに、空色の紋様が走る。

瞳は澄んだ蒼へ変わり、周囲には風の輪が漂う。

幼体サイズのまま。

だが存在感だけが、空の王者へ変わっていた。

レナが叫ぶ。


「力が増えたぁぁぁ!?」


フィリアは静かに頷く。


「進化」

「名称候補、スカイフェンリル」


ノヴァは翼をぱた、と動かす。

それだけで体が数メートル浮いた。

もう一度。

今度は森の梢を越える。

三度目。

雲へ向かって一直線。

レナが両手を振る。


「すごい! ちゃんと飛んでる!」


フィリアは訂正した。


「今度は本当に飛んでる」


雲の間で旋回していたゼルクが、目を見開く。


「……は?」


目の前に、純白の翼を広げたノヴァ。

風を纏い、静かに浮かぶ小さなフェンリル。

ゼルクは数秒沈黙した


ノヴァは少し誇らしげに胸を張る。

そして翼を一振り。

暴風。

ゼルクが三回転して吹き飛んだ。


その日、北方の空では二頭のフェンリルが飛び回っていた。

漆黒の巨狼が逃げる。

純白の幼体が追う。

時々追い抜く。

レナは地上から見上げる。


「なんか楽しそうね」


フィリアは頷く。


「友達かもしれない」


遠く空から聞こえる。


「待て白いの!」


こうしてノヴァは、新たな姿へ進化した。

スカイフェンリル。

空を駆ける、白き神狼として。

雲海を裂き、二つの影が駆けていた。

漆黒の翼狼ゼルク。

純白の翼狼ノヴァ。

黒が逃げる。

白が追う。

時々、白が追い抜く。

ゼルクが叫ぶ。


「待て白いの!」


理不尽だった。


ノヴァは翼を一振りするだけで、風そのものを掴んだ。

上昇。

急停止。

急旋回。

空中でぴたりと止まり、そのまま横へ滑る。

ゼルクが目を剥く。


「なんだその動き!?」


フィリアが地上から見上げて呟く。


「空間機動が上手い」


レナは叫ぶ。


「急にプロになってる!」


ゼルクも負けていない。

三対の翼を全開にし、黒い風を纏う。

速度が跳ね上がる。

雲を引き裂き、雷鳴のような音と共にノヴァへ突っ込んだ。


「今度こそ勝つ!」


ノヴァは見つめる。

近づく。

速い。

でも。

少し面倒。


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