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67話 空の影

ゼルクは助走もなく空へ舞い上がる。

多少ふらついている。

でも飛ぶ。

執念だった。

ノヴァは見上げる。

また上。

また面倒。

耳がぺたんとなる。

フィリアが分析する。


「意地」


レナはため息。


「バカとも言う」


ゼルクは今度こそ学んでいた。

木を投げられない高さまで上昇する。

雲の近く。

森の木々では届かない。

上空から声だけが降ってくる。


「どうだ白いの!」

「今度こそ届くまい!」


レナが顔をしかめる。


「うざさが増した」


ノヴァはしばらく考えた。

木は届かない。

なら。

自分で行けばいい。

ノヴァは少し後ろへ下がる。

地面を見つめる。

足場。

傾斜。

風向き。

フィリアの目が細くなる。


「嫌な予感」


レナも察する。


「待って、その姿勢やめて」


ノヴァは全身を低く構えた。

ばね。

その一言が似合う姿勢。

地面が爆ぜた。

石と土が噴き上がる。

ノヴァの小さな体が、白い砲弾のように真上へ飛ぶ。

音速。

いや、それ以上。

レナが叫ぶ。


「飛べるんかい!!」


フィリアは真顔。


「跳んでるだけ」


ゼルクは笑っていた。


「届かぬ届か――」


目の前にノヴァ。


「……え?」


白銀の幼体が空中で並んでいた。

しかも少し怒っている顔。

次の瞬間。

ぺし。

ゼルクの頬に肉球がめり込む。

黒い巨体が横回転しながら吹き飛ぶ。

雲を突き抜け、遠くの丘へ墜落した。

数秒後。

どごぉん。

地響き。

ノヴァは空中でくるりと回転し、枝の上、別の枝、岩、と連続で踏みながら地面へ戻ってきた。

見事な着地。

レナは呆然。


「……飛べるじゃん」


フィリアは訂正する。


「飛んでない。届いただけ」


遠くの丘から黒い影が起き上がる。

ゼルクはふらつきながら戻ってくる。

頬に肉球跡。

だが目は輝いていた。


「最高だ……! もう一回だ!」


レナが叫ぶ。


「なんでそうなるのよ!!」


ノヴァは深くため息をついた。

この相手、強い。

でも何より。

すごく面倒くさい。

ゼルクが空を舞い、ノヴァが地上からそれを睨んでいた。

何度撃ち落としても飛ぶ。

何度叩き落としても飛ぶ。

学ばない。

いや、飛ぶことだけは決して諦めない。

レナは額を押さえた。


「別方向に根性ありすぎるでしょ……」


フィリアは冷静に呟く。


「空への執着」


ノヴァは見上げていた。

高く。

遠く。

自由に。

少しだけ、羨ましかった。


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