66話 ノヴァの苛立ち
ゼルクが翼をはためかせる。
羽根が黒い刃となって降り注ぐ。
木々を切り裂き、地面に突き刺さる。
ノヴァは左右へ避ける。
また上空へ。
今度は急降下して爪撃。
避ける。
再上昇。
また羽根弾幕。
避ける。
レナが顔をしかめる。
「ヒットアンドアウェイっていうか、ただの嫌がらせ!」
フィリアは頷く。
「でも有効」
ノヴァは地面でじっと上を見ていた。
黒い影が飛び回る。
速い。
届かない。
そして何より。
面倒くさい。
耳がぺたんと下がる。
レナが察する。
「あ、今イラっとした顔した」
ゼルクは楽しそう
上空からゼルクの笑い声。
「ははは!」
「地上しか走れぬのか、白いの!」
「なら我が勝ちだ!」
フィリアが小声で呟く。
「フラグ」
ノヴァは少し考える。
飛べない。
届かない。
追いかけるの面倒。
なら。
相手を下ろせばいい。
ノヴァは近くの大木へ向かった。
ゼルクが上空で首を傾げる。
「逃げるのか?」
ノヴァは木の幹に前足をかける。
ぎし。
ばき。
めきめきめき。
レナの顔色が変わる。
「え、待ってそれまさか」
ノヴァは大木を根元から引き抜いた。
数十年育った巨木が、丸ごと持ち上がる。
ゼルクの笑みが消える。
「……は?」
次の瞬間。
ぶん。
槍のように投げた。
巨木が空を裂いて飛ぶ。
ゼルクは慌てて回避。
だが避けた先へ、二本目。
三本目。
四本目。
森の木々が次々と投擲兵器へ変わる。
レナが叫ぶ。
「森ごと対空砲台にしないで!!」
フィリアは真顔。
「合理的」
ゼルクは左右へ回避し続ける。
だが最後の一本が翼端をかすめた。
三対のうち一枚が折れる。
バランスが崩れる。
「しまっ――」
黒い巨体がぐるぐる回転しながら落下。
どごぉん!!
森の地面に激突した。
土煙が上がる。
鳥たちが一斉に飛び立つ。
煙の中からゼルクがふらつきながら出てくる。
羽根だらけ。
葉っぱまみれ。
少し泣きそう。
ノヴァはその前で待っていた。
小さな白銀の幼体。
でも顔は真剣。
「……地上でやろう?」
と言いたげな視線。
地面に大穴。
折れた木々。
葉っぱまみれの漆黒フェンリル。
ゼルクはふらつきながら立っていた。
片翼は少し曲がり、額には枝が刺さっている。
レナが腕を組む。
「これで学んだでしょ」
フィリアも頷く。
「地上戦推奨」
ノヴァは静かに待つ。
ここから殴り合い。
そう思っていた。
漆黒の答え
ゼルクは枝をぷっと吐き出した。
それから胸を張る。
「確かに今のは痛かった」
「だが――」
翼がばさりと広がる。
「知らん」
レナが即答する。
「学んでない!」




