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65話 開戦


ゼルクは赤い瞳を細める。


「……我を侮るか」


低く唸り、翼を広げる。

威圧感が森を揺らす。

レナが身構える。


「来る?」


フィリアも冷気を集める。


「来る」


ゼルクは一歩前へ出る。

ノヴァの差し出す干し肉を見つめる。

さらに一歩。

さらに一歩。

そして。

ぱく。

食べた。

レナが即答する。


「来なかった」


森の空気が変わる

ゼルクは咀嚼しながら固まっていた。

数秒後。


「……うまい」


ぼそりと呟く。

ノヴァは誇らしげに尻尾を振った。

自分のおすすめが評価された。

フィリアが分析する。


「懐柔成功」


レナは腕を組む。


「思ってたより平和的に終わりそうね」


ゼルクは干し肉を飲み込み、再びノヴァを見る。


「うまかった」

「だから礼として全力で戦ってやる」


レナが頭を抱える。


「やっぱりそうなるの!?」


ゼルクは空へ飛び上がる。

三対の翼が開き、暴風が吹き荒れる。

木々がしなる。


「白いの!」

「我に勝てば、この森の全獣はお前を認める!」


ノヴァは少し考えた。

認められる。

よく分からない。

でも勝てばいいらしい。

理解した。


ゼルクが急降下する。

黒い稲妻のような速度。

爪がノヴァへ振り下ろされる。

ノヴァは横へ跳ぶ。

地面が裂ける。

レナが叫ぶ。


「速っ!」


フィリアも頷く。


「空戦型」


ゼルクは笑う。


「避けるか!」


再び上昇。

上空から旋回し、今度は尾で薙ぎ払う。

二本の尾が鞭のようにしなる。

ノヴァは前足で受ける。

ぺし。

尾の一本が変な方向へ曲がった。

ゼルクが空中で叫ぶ。


「痛ァ!?」


レナは腕を組みながら感心する。


「なんか毎回、ノヴァのぺしで全部解決するわね」


フィリアは真顔。


「万能」


パウは木の陰から応援していた。


「ぱうー!」


ゼルクは着地し、赤い瞳を鋭くする。


「今のは油断だ」

「次は本気でいく」


黒い体から闇のような霧が立ち上る。

翼がさらに巨大化し、周囲の光を吸い込む。

森が暗くなる。

レナが剣を抜く。


「ちょっと待って、それ洒落になってないやつでは?」


フィリアも冷気を強める。


「介入準備」


だがノヴァは一歩前へ出る。

止めるな、というように。

小さな体で。

堂々と。

漆黒の巨狼ゼルク。

白銀の幼体ノヴァ。

森の中央で向かい合う。

風が止む。

ゼルクが低く唸る。


「いい顔だ、白いの」


ノヴァも耳を立てる。

次の瞬間。

黒と白、二つのフェンリルが同時に地を蹴った。



黒と白、二つのフェンリルが同時に駆け出した――はずだった。

ゼルクは途中で翼を広げ、そのまま急上昇。

土と葉が巻き上がり、巨体が一気に樹海の上空へ躍り出る。

ノヴァは地面で止まった。

見上げる。

高い。

ゼルクは空中で旋回しながら笑う。


「どうした白いの!」

「届かぬか!」


レナが眉をひそめる。


「うわ、煽り性能高い」


フィリアは冷静。


「性格わるい」


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