63話 次なる場所へ
兵士たちは顔を見合わせる。
「……あれが月の執行官を倒したのか?」
「サイズ感おかしくないか?」
「かわいいな……」
一人の子どもが恐る恐る近づき、ノヴァを見る。
ノヴァはその子を見ると、尻尾をぱたぱた振った。
子どもは満面の笑み。
「ちいさい!」
王都に笑いが広がった。
レナがしゃがみ込み、鼻先をつつく。
「英雄さま、何か言いたいことある?」
ノヴァは立ち上がろうとして、よろけた。
フィリアが支える。
「空腹」
ノヴァは勢いよく頷く。
レナは吹き出す。
「でしょうね!」
王城食堂は半壊していたため、急遽広場に長机が並べられた。
焼いた肉。
煮込み肉。
串焼き。
骨付き肉。
ノヴァ専用の山盛り皿まで用意される。
人々の歓声の中、ノヴァは元の白銀の姿で肉へ突撃した。
もはや黄金の神威はない。
ただし食欲だけは据え置きだった。
フィリアが静かに呟く。
「この形態が一番強いかもしれない」
レナが笑う。
「食卓限定でね」
月は欠けたまま、静かに浮かんでいる。
戦いの跡。
だが世界は平和だった。
ノヴァは肉を食べながらちらりと月を見る。
もう敵の気配はない。
たぶん。
なので次に考えることは一つ。
明日のご飯だった。
月の騒動から三日後。
王都アルセリアは、ようやく日常を取り戻し始めていた。
壊れた塔は修復中。
砕けた広場は新しい石畳へ。
食堂はなぜか以前より広く改装されている。
理由は明白だった。
ノヴァの食事量対策である。
朝。
王城の庭。
ノヴァは芝生の上で丸くなって寝ていた。
白銀の毛並みが朝日に光る。
完全に平和な生き物である。
その背中の上に、パウが乗っていた。
「ぱう……」
こちらも寝ている。
レナが窓から見下ろし、呆れた声を出す。
「世界救った英雄の姿じゃないのよ」
フィリアは紅茶を飲みながら答える。
「理想的」
王都の人気者
ノヴァは今や王都の有名人だった。
街へ出れば――
「ノヴァだ!」
「触っていいですか!?」
「これ食べる?」
肉。
パン。
果物。
次々差し出される。
ノヴァは人気者らしく、全部受け取った。
レナが追いかけながら叫ぶ。
「知らない人から何でも貰うな!」
フィリアは冷静だった。
「でも得してる」
王城地下。
学者たちが集まり、黄金形態について会議していた。
老人学者が黒板に図を書きながら熱弁する。
「白銀状態は通常戦闘形態!」
「黄金状態は極限突破共鳴超越進化形態!」
別の学者が首を傾げる。
「名前長くないですか?」
エリシアは疲れた顔で言った。
「要約してください」
「よく分からないけど強い、です」
「そう……」
その頃ノヴァ本人は、厨房で肉を待っていた。
フィリアが聞く。
「黄金、またなれる?」
ノヴァは少し考える。
うーん、と首を傾げる。
それから空腹そうに皿を見る。
レナが通訳する。
「分からないし今はご飯優先、だって」
フィリアは頷く。
「納得」
その日の午後。
ギルド長が王城へ駆け込んできた。
「大変です!」
レナが振り向く。
「今度は何!?」
「北方街道で、巨大な影が家畜をさらっています!」
「しかも目撃者の証言では――」
ギルド長が震える声で続ける。
「翼が三対。尻尾が二本。笑い声を上げながら飛ぶ狼だと……!」
沈黙。
レナがゆっくりノヴァを見る。
ノヴァもレナを見る。
フィリアが呟く。
「親戚?」
ノヴァは全力で首を横に振った。
レナが剣を背負う。
「行くわよ、英雄さま」
フィリアも立ち上がる。
「散歩」
ノヴァは肉を口にくわえたまま走り出す。
パウも転がるようについていく。
王都の門が開く。
新たな事件。
新たな敵。
新たなご飯の予感。
白銀の幼体フェンリル、ノヴァの物語はまだまだ終わらない。




