62話 覚醒ノヴァvs月の執行官ルナグラム 本気の衝突
彼は砕けた槍を拾い、両手で握る。
月を背に立ち上がる。
「ならば一切の殺意なく、純粋な技量だけで貫く」
レナが眉をひそめる。
「そういう切り替え早い敵、嫌い」
フィリアは頷く。
「強敵」
ノヴァは前足を上げる。
黄金の光がさらに増す。
次の一撃で決まる。
王都中が息を呑んだ。
瓦礫と氷、そして黄金の光に包まれた決戦の中心。
ルナグラムは砕けた黒槍を両手で構えた。
殺意を消し、迷いを捨て、純粋な技だけで貫く構え。
呼吸すら静か。
その姿に、レナが息をのむ。
「……本気だ」
フィリアも頷く。
「今までで最強」
対するノヴァ。
幼体のまま。
小さな体の周囲に、黄金の恒星のような光が渦巻いていた。
白銀でもない。
神狼でもない。
今ここにいる、ノヴァ自身の力。
風が止む。
歓声も悲鳴も消える。
王都全体が、次の瞬間を待っていた。
ルナグラムが低く言う。
「来い」
ノヴァの耳が立つ。
一歩。
二歩。
三歩目で、地面が砕けた。
黄金の閃光。
もはや誰の目にも追えない。
直線。
ただ一直線に、ノヴァが駆ける。
その背後に巨大な黄金の狼影が重なり、夜空そのものを裂いて進む。
レナが叫ぶ。
「行けぇぇぇ!!」
フィリアが珍しく声を張る。
「勝って」
ルナグラムも同時に踏み込む。
黒槍が一点へ集約される。
月光を束ねたような刺突。
技量の極致。
黒と金。
槍先と肉球。
交差した瞬間、世界から音が消えた。
次の瞬間。
王都中央から球状の衝撃波が広がる。
雲が吹き飛び、遠方の森まで揺れる。
城壁の旗が千切れ、湖面が跳ね上がる。
人々は立っていられず膝をついた。
エリシアは目を覆う。
「……っ!」
閃光の中心で、ノヴァの咆哮が響く。
黄金の流星となったその体当たり。
全てを押し切る超新星の一撃。
スーパーノヴァ・インパクト。
黒槍が砕ける。
柄。
刃。
月光。
すべて粉々に散った。
ルナグラムの瞳が見開かれる。
「見事――」
その言葉ごと、黄金の奔流に飲み込まれる。
衝撃が収まる。
広場の中央には、一直線の大地の裂け目。
その先で、ルナグラムは仰向けに倒れていた。
鎧は消え、槍もない。
月の紋章だけが砕けて転がる。
彼は空を見上げ、小さく笑う。
「……これが、観測外か」
そして光の粒となって消えていった。
月へ還るように。
数秒の沈黙。
誰も声を出せない。
やがてレナが叫んだ。
「勝ったぁぁぁぁ!!」
その一声で、王都全体が爆発したように歓声に包まれる。
兵士たちが剣を掲げる。
市民が泣き笑いする。
鐘が鳴る。
フィリアは小さく息を吐く。
「終わった」
黄金の光がゆっくり消えていく
ノヴァは広場の中央でふらつき――
ぽて。
その場に座り込んだ。
レナが駆け寄る。
「大丈夫!?」
ノヴァは彼女を見上げ、弱々しく尻尾を振る。
それから一言もなく、レナの足に頭を乗せた。
完全に電池切れだった。
フィリアが近づき、冷静に言う。
「エネルギー不足。肉が必要」
レナは笑いながら泣いた。
「分かってるわよ」
王都の英雄は、その夜もやっぱりご飯で復活する。
歓声はまだ続いていた。
「白き守護狼に栄光を!」
「月の騎士を倒したぞ!」
「肉を持ってこい!」
最後の声だけ妙に現実的だった。
広場の中央では、レナの足に頭を乗せたノヴァがぐったりしている。
黄金の輝きはまだ体表に残っていた。
淡く。
揺らめくように。
フィリアがしゃがみ込み、じっと観察する。
「出力低下」
光がほどける
ノヴァの毛並みを包んでいた黄金の粒子が、夜空へ溶けるように消えていく。
黄金色だった瞳も、少しずついつもの澄んだ色へ戻る。
金色の足跡模様も薄れ、石畳から消えていった。
人々がざわつく。
「光が消えていくぞ……?」
「大丈夫なのか?」
エリシアも心配そうに近づく。
「ノヴァ、具合は……」
ノヴァは顔だけ上げる。
ふぁあ……。
大きなあくび。
心配する必要はなさそうだった。
最後の一筋の黄金が尻尾の先から抜ける。
次の瞬間。
そこにいたのは、いつものノヴァ。
白銀の毛並み。
幼体サイズ。
少し丸いお腹。
戦場をひっくり返した存在とは思えない、もふもふした小さなフェンリルだった。
レナが思わず笑う。
「戻った戻った」
フィリアは頷く。
「通常ノヴァ」




