60話 覚醒
氷に閉ざされた戦場で、レナとフィリアがルナグラムを押しとどめていた。
レナの剣撃は速い。
怒りに燃え、今までで最も鋭い。
フィリアの氷魔法は重い。
建物ほどの氷槍が次々と降り注ぐ。
だが。
ルナグラムは黒槍一本で全て捌いていた。
斬り払い。
受け流し。
踏み砕く。
圧倒的だった。
「悪くない。だが、相棒を失った主では火力が足りない」
その一言で、レナの剣がぶれる。
倒れたノヴァの周囲には、砕けた石と赤い水が広がっている。
呼吸は浅い。
傷は深い。
体は冷え、視界は暗い。
それでも聞こえていた。
レナの怒声。
フィリアの氷の音。
王都の人々の祈る声。
「白き守護狼……」
「立ってくれ……」
「お願いだ……」
ノヴァは薄れる意識の中で思う。
立たなきゃ。
まだ、終わってない。
まだ――ご飯も残ってる。
その時。
胸の奥。
ずっと深い場所で、何かが脈打った。
白銀の力ではない。
もっと古く。
もっと温かく。
もっと眩しい何か。
転生した時から眠っていた核。
神狼でも、獣でも、人でもない。
ノヴァ自身の力。
どくん。
黄金の鼓動。
噴水跡から、細い金の線が立ち上る。
次の瞬間。
爆発するように黄金の光柱が空へ伸びた。
夜が昼になる。
王都全域が金色に照らされる。
レナが足を止める。
「……え?」
フィリアも振り向く。
「覚醒」
ルナグラムの表情が初めて変わる。
「これは……」
瓦礫が浮く。
水が蒸発する。
氷が輝く。
その中心で、ノヴァがゆっくり立ち上がる。
幼体のまま。
大きさは変わらない。
だが毛並みは白銀から、淡く輝く金へ。
瞳は黄金色に燃え、傷口は光と共に塞がっていく。
折れていた前足も元に戻る。
レナが呆然と呟く。
「……金ぴかになった」
フィリアは少し考えて言った。
「高級感ある」
人々が声を上げる。
「立った!」
「治ってる!」
「金色だ!」
エリシアは胸元で手を組む。
「奇跡……」
老人学者は泣いていた。
「研究資料が増えるぅ……」
黒槍の騎士は、静かに槍を構え直す。
その目に初めて戦意が宿る。
「ようやく本命か。先ほどまでは幼獣の戯れ。今の貴様は、討つ価値がある」
レナがすぐ言い返す。
「負け惜しみ?」
「事実だ」
「感じ悪っ!」
ノヴァは何も言わない。
言葉は話せない。
ただ、一歩前へ出る。
その足跡に黄金の紋様が広がる。
石畳のひびが修復され、砕けた広場すら再生していく。
破壊だけではない。
癒しと再生の力。
フィリアが目を細める。
「攻守に回復……ずるい」
レナは拳を握る。
「最高じゃない!」
ルナグラムが消える。
黒槍が閃く。
さっきノヴァを貫いた神速の一撃。
だが今度は違う。
ノヴァの黄金の前足が、静かに上がる。
ぺし。
黒槍が止まる。
いや。
槍そのものが、黄金に染まり始めていた。
ルナグラムの瞳が開かれる。
「……何?」
ノヴァの第二ラウンドが、始まった。




