58話 ルナグラム
レナはへたり込む。
「よかった……」
フィリアは淡々と服のほこりを払う。
「月は保全された」
エリシアは遠くから胸をなで下ろした。
ノヴァは再び月を見る。
壊すのは駄目。
なら。
もっと小さく壊せばいい。
レナが再び顔を上げる。
「まだ何か考えてる!?」
ノヴァの瞳が光る。
月面の一点。
黒槍の騎士ルナグラムがいる場所だけを、正確に砕けばいい。
フィリアがその顔を見て呟く。
「嫌な学習をした」
その頃、月。
黒い槍を地面に突き立て、ルナグラムは王都を見下ろしていた。
「来るか、白き獣」
次の瞬間。
月面の彼の足元に、小さな白い光点が現れた。
ルナグラムの笑みが消える。
「……は?」
王都の塔の上で、ノヴァが静かに座り直した。
今度は、超精密照準型メテオ・ノヴァの構えだった。
王都の尖塔。
ノヴァは座る。
静かに。
真剣に。
その視線は夜空を越え、月面の一点へ固定されていた。
黒槍の騎士ルナグラム。
そこだけ壊す。
今回は理解している。
月そのものは駄目。
レナが息を切らしながら横に座り込む。
「学んでくれて助かった……」
フィリアは腕を組む。
「成長した」
ノヴァは少し誇らしかった。
一方その頃。
ルナグラムは月の荒野に立っていた。
黒槍を肩に担ぎ、王都を見下ろす。
「来るなら来い」
余裕だった。
地上から月面を正確に攻撃するなど、不可能。
常識では。
その時。
足元に白い点が灯る。
砂が浮く。
岩が震える。
ルナグラムの眉が動いた。
「……ほう」
王都上空に、白い星が一つだけ現れる。
小さい。
今までのメテオ群よりずっと小さい。
だが密度が違う。
圧縮された白光が、空間そのものをきしませている。
老人学者が震える声で言う。
「小さい方が危険ですぞ……」
レナが頷く。
「なんとなく分かる!」
ノヴァが咆哮した。
白い一点が、音もなく消える。
発射。
王都から月まで。
人なら想像もできぬ距離。
だが白い一点は、夜空を一直線に貫いた。
星々の間を抜け、月面へ。
ルナグラムが槍を構える。
「面白い!」
黒槍が振り抜かれる。
月面に黒い半月状の斬撃が走る。
白点と衝突。
無音。
次の瞬間。
月面の一角が吹き飛んだ。
巨大な白煙が上がり、砂塵が宇宙へ散る。
王都からも、月に白い花が咲いたように見えた。
民衆がどよめく。
「月が爆発した!?」
「してない、欠けただけ!」
煙の中から影が歩いてくる。
ルナグラム。
鎧は砕け、肩口が抉れていた。
だが立っている。
黒槍も健在。
彼はゆっくり笑った。
「いい」
「非常にいい」
月面を蹴る。
フィリアの瞳が鋭くなる。
「来る」
月からの急襲
夜空に黒い線が走る。
流星のような速度。
いや、槍そのもの。
ルナグラムが月から王都へ跳んでいた。
王都上空へ落下する黒槍の騎士。
その衝撃だけで都市が危ない。
エリシアが命じる。
「市民を避難させて!」
フィリアは両手を広げる。
王都全体を覆う氷の天蓋が展開された。




