57話 月にいる? なら月ごと壊そう
ルナグラムが消えた。
次の瞬間、ノヴァの目前。
黒槍が一直線に突き出される。
速い。
レナの目では追えない。
フィリアの氷壁すら間に合わない。
だが。
ノヴァの前足が上がる。
ぺし。
槍先と肉球が触れた。
王城全体が揺れた。
衝撃で天井のシャンデリアが落ちる。
窓ガラスが砕け、外壁に亀裂が走る。
レナが叫ぶ。
「食堂でやる規模じゃない!!」
ルナグラムは数歩下がり、初めて笑った。
「いい。実にいい」
黒槍を回し、肩に担ぐ。
「今夜は挨拶だけにしておこう」
「準備しろ、白き獣」
「次は、月で待つ」
その言葉と同時に、姿が霧のように消える。
窓の外には、月だけが浮かんでいた。
沈黙。
そしてレナが叫ぶ。
「なんで皆すぐ月に呼ぶのよ!!」
フィリアは壊れた壁を見る。
「今のは本気じゃない」
エリシアも駆けつけ、青ざめる。
「王城の食堂が……」
ノヴァは割れた床の中央に立っていた。
じっと月を見る。
丸く、遠い光。
その向こうに、次の敵がいる。
そして思う。
また遠い。
少し面倒だった。
王城の食堂。
壊れた床。
砕けた窓。
倒れた机。
そして中央で、ノヴァは月を見上げていた。
遠い。
高い。
面倒。
レナは頭を抱えている。
「なんで敵って毎回アクセス悪い場所にいるの……」
フィリアは静かに瓦礫をどける。
「性格」
エリシアは職人たちに修復指示を出していた。
「まず食堂を直してください……」
誰もが次の戦いを考えていた。
どうやって月へ行くか。
どうやって敵を倒すか。
どうやって王都を守るか。
その時。
ノヴァの耳がぴんと立つ。
ひらめき
月。
敵がいる。
遠い。
行くのが面倒。
なら。
ノヴァは思った。
月を壊せばいい
レナが嫌な予感で振り向く。
「その顔やめて」
フィリアも気づく。
「待って」
ノヴァはすでに窓辺へ走っていた。
王城の塔へ一気に駆け上がる。
屋根。
壁。
尖塔。
あっという間に最上部。
ノヴァは月へ向かって座る。
集中姿勢。
王都中の人々がざわめく。
「白き守護狼がまた構えたぞ!」
「今度は何だ!?」
レナが塔の下から叫ぶ。
「だめぇぇぇ!!」
フィリアは氷の足場を作りながら上へ急ぐ。
「止める」
月へ向けて
夜空が白く染まり始める。
雲が逃げる。
風が逆巻く。
星々が揺れる。
ノヴァの背後に、白銀の神狼の幻影が現れる。
今までで最大。
王都全体を包むほどの巨影。
エリシアが青ざめる。
「まさか本当に……?」
老人学者は膝から崩れた。
「月は潮と暦と農作に関わるのですぞぉ!」
誰もが止めたい。
でも誰も止められない。
ノヴァに白い光が集まる。
一つの星。
いや、星そのもののような質量。
レナがついに塔へ到達し、飛びついた。
「待ちなさいぃぃ!!」
ノヴァの胴体にしがみつく。
フィリアも反対側から抱える。
「それは駄目」
ノヴァは不満そうに唸る。
敵がいるのに。
月ごと消せば早いのに。
レナが必死に叫ぶ。
「敵倒して世界の自然壊すの本末転倒!!」
フィリアも真顔で言う。
「夜が困る」
ノヴァは少し考えた。
夜がなくなると寝づらい。
それは困る。
光がすっと消えた。
全員が安堵する。




