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54話 第一観測者


「君は興味深い」


第一観測者の声が、頭の内側へ直接響く。


「獣であり、神核であり、物語の外にある。だからこそ危険だ」


無数の目が一斉に開く。

その瞬間。

ノヴァの周囲の景色が変わった。

森。

転生した最初の森だった。

寒さ。

飢え。

孤独。

幼い自分。

第一観測者の声が続く。


「君の心を折れば、体はただの器」


森の中。

飢えた幼体ノヴァがうずくまっている。

誰もいない。

助けも来ない。

暗い記憶。

だが現在のノヴァは、その幻を見下ろいた。

確かに辛かった。

でも。

あの後、レナにご飯をもらった。

フィリアと出会った。

パウも増えた。

つまりこの幻は、途中までしか知らない。

ノヴァは思う。

浅い。

ぺし。

目の前の森が砕け散った。

幻覚終了。

第一観測者の無数の目が、初めて揺れる。


「……なぜだ」


第一観測者が一歩下がる。


「恐怖も、孤独も、痛みも効かない?」


ノヴァは首を傾げる。

効く。

でもそれ以上に、今がある。

ご飯もある。

第一観測者には理解できなかった。

数式にも未来視にも載らない感情。

第一観測者が両腕を広げる。

空間そのものが止まる。

落ちていた塵が静止。

脈打つ核も停止。

音も消える。

ノヴァの足も止まった。


「終わりだ」


第一観測者が近づく。


「君を切り分け、解析しよう」


指先がノヴァの額へ伸びる。

その時。

ぺし。

動けないはずのノヴァの前足が動いた。

第一観測者の手を叩く。

時間停止領域に白い亀裂が走る。

全停止空間が砕け散った。

第一観測者の声が乱れる。


「ありえない……!」


ノヴァは静かに立つ。

自分でも理屈は知らない。

でも、効かない。

それだけだった

白銀の神狼の影がさらに巨大化する。

空間の天井へ届くほどに。



レナ到着

その時、横壁が爆発した。

黒焦げの壁を突き破ってレナが転がり込む。


「着いたぁぁ!」


後ろでは第二観測者アザルが半分埋まっていた。


「しつこい人間だ……」


レナは親指を立てる。


「勝ってないけど、負けてもない!」



フィリア到着

反対側の壁が凍りつき、砕ける。

そこからフィリアが歩いてくる。

後方ではミラーが氷漬けで逆さ吊りだった。


「処理完了」


フィリアは無表情。


「会話が長かった」




第一観測者が周囲を見回す。

未来視したはずの流れと違う。

仲間が集結している。

想定外。

レナが剣を構える。


「一人で格好つけるの禁止ね」


フィリアが冷気を纏う。


「同意」


パウがノヴァの背から顔を出す。


「ぱう!」


ノヴァは少しだけ尻尾を振った。

第一観測者が絶叫する。

巨大核と接続。

全身が赤い光へ変わり、無数の目が空間全体に増殖する。


「ならば世界ごと観測し尽くす!!」


巨大核が暴走を始める。

ラグナロク全体が揺れた。

レナが叫ぶ。


「時間切れ!」


フィリアが即答する。


「まとめて壊す」


全員の視線がノヴァへ向く。

ノヴァは静かに座った。

レナが乾いた笑いを漏らす。


「やっぱりそれよね……」


天獄城全体の空が、白く染まり始めた。

天獄城ラグナロク全域に警報が響く。

赤い塔群が軋み、外殻が割れ、無数の砲門が暴走する。

第一観測者は巨大核と一体化し、空間そのものへ広がっていた。

壁に目。

床に目。

天井に目。

見られている。

どこからでも。

レナが鳥肌を立てる。


「うわ、ほんとに嫌なタイプ……」


フィリアは冷静だった。


「視線ごと壊す」


ノヴァは座っている。

集中していた。

パウはその隣で同じ姿勢をしていた。

意味は分かっていない。


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