53話 第二観測者
黒い炎が揺れる通路。
床も天井も熱を帯び、剣先すら歪んで見える。
レナが汗をぬぐう。
「暑っ……」
前方に玉座が現れる。
そこに座る影。
黒衣。
長い脚。
赤い仮面。
足を組み、拍手している。
「歓迎しよう、人間」
「私は第二観測者――アザル」
レナが剣を抜く。
「また仮面!」
アザルは笑う。
「君のような弱者を見ると、少し安心する」
レナの額に青筋が浮かんだ。
「よし、殴る」
一方、白い回廊。
静かで、美しい。
雪のような光が降り、床は鏡面。
その中央に、一人の少女が立っていた。
白髪。
青い瞳。
フィリアと同じ顔。
フィリアの足が止まる。
少女は微笑んだ。
「久しぶり」
「私の失敗作」
フィリアの声が低くなる。
「……記録個体」
少女は礼をした。
「第二観測者補佐機、ミラー」
「あなたを作った元型です」
空気が凍った。
ノヴァは壁も床も無視して進んでいた。
邪魔な扉。
ぺし。
崩壊。
閉じる通路。
ぺし。
消滅。
襲い来る機兵。
ぺしぺしぺし。
まとめて停止。
パウは背中で揺れていた。
「ぱうぅ……」
乗り物酔いである。
レナ視点
アザルが指を鳴らす。
炎が人型となり、十、二十、百と現れる。
「人間は数で押されると脆い」
レナは剣を肩に乗せた。
「それ、前に散々見たわ」
床を蹴る。
最前列へ突撃。
斬る。
蹴る。
投げる。
炎兵たちが次々と砕ける。
アザルが目を細める。
「……成長している?」
レナは笑った。
「毎回ノヴァの横にいると、嫌でも鍛えられるのよ!」
フィリア視点
ミラーが手を上げる。
空間に無数の氷槍が出現した。
フィリアと同じ技。
「あなたの全ては私の模倣」
「勝てる理由がある?」
フィリアは無表情のまま前へ出る。
「ある」
「私は今、お腹いっぱい」
ミラーが一瞬止まる。
理屈が分からなかった。
その隙に、フィリアの氷槍が倍の数で放たれた。
ノヴァがたどり着いた先。
巨大な円形空間。
天井のない深淵。
中央に浮かぶ、赤い巨大核。
その前に一人。
白い長衣。
顔には何もない。仮面すらない。
ただ、目だけが無数に並んでいる。
第一観測者。
「待っていた」
その声だけで空間が揺れた。
パウがノヴァの背に埋まる。
「ぱう……」
第一観測者はゆっくりと両腕を広げる。
「私は観測の始まり」
「君たちの物語は、ここで終わる」
ノヴァは一歩前へ出る。
小さな幼体のまま。
だがその背後に、白銀の神狼の影が立ち上がった。
終わるのは、どちらか。
赤い深淵の上に浮かぶ円形足場。
中央には脈打つ巨大核。
その前に立つ第一観測者。
白い長衣。
顔はなく、代わりに無数の目。
見ている。
過去も。
現在も。
未来さえも。
そんな圧力だった。
レナもフィリアもいない。
ここはノヴァ一匹の戦場。
パウは背中で震えていた。
「ぱう……」




