51話 総動員令
同じ頃。
王都アルセリアでは、王女エリシアが玉座の間に立っていた。
王冠は被っていない。
戦時の外套だけを纏い、国中の伝令兵を前に命じる。
「全都市へ通達してください」
「天より災厄が来る」
「王都単独ではなく、大陸全土の戦いです」
近衛隊長が拳を胸へ当てる。
「はっ!」
次の瞬間、伝令兵たちが一斉に駆け出した。
馬。
飛竜。
転移門。
魔導通信。
ありとあらゆる手段で、大陸へ報せが飛ぶ。
鉄都グランバルド
鍛冶都市。
巨大な炉の前で、髭だらけのドワーフ王が笑う。
「空から敵だと?」
「なら空まで届く銃を打つぞ!」
工房の鐘が鳴り響く。
溶鉄が流れ、砲身が鋳造され始めた。
森都エルシアナ
精霊樹に囲まれた森の都市。
エルフの長が静かに目を閉じる。
「星より来る敵……」
「弓兵隊を集めなさい」
無数の森の民が枝から枝へ駆け、精霊矢の準備が始まる。
海都マレシア
港湾国家。
提督が海図を投げ捨てた。
「海戦じゃない?知るか!」
「艦砲を陸へ向けろ!」
戦艦の砲塔が一斉に王都方面へ回る。
学術都市ルミナス
魔術学院群。
老院長が杖を掲げた。
「学生も教授も総員出動!」
「単位は後で考える!」
学生たちが歓声を上げた。
王都の広場
民衆が広場に集まり、空を見上げる。
まだ赤い星は遠い。
だが確実に大きくなっている。
エリシアは城壁の上に立ち、民へ語りかけた。
「恐れは当然です」
「ですが、私たちは一人ではありません」
「この世界には、戦う者たちがいます」
人々の視線が空へ向く。
光の柱の先。
ノヴァたちがいる。
一方その頃。
ノヴァたちは光の中を進んでいた。
上下も左右もない空間。
星々の帯が流れ、光の道が伸びている。
レナが浮かびながら叫ぶ。
「酔う酔う酔う!」
フィリアは平然としていた。
「慣れ」
「慣れる場面じゃない!」
パウは回転している。
ノヴァだけは、前足で光の床を踏みしめていた。
ちゃんと走っていた。
やがて前方に現れる巨大な影。
赤黒い外殻。
城塞のような塔群。
惑星ほどではないが、都市など比べ物にならぬ質量。
その表面には無数の砲門と目のような窓。
天獄城ラグナロク。
レナの声が震える。
「……でかすぎる」
フィリアも珍しく眉を寄せた。
「想定以上」
ノヴァの耳が立つ。
でかい。
叩きがいがある。
王都では、各都市からの援軍が次々到着し始めていた。
騎士団。
魔導師団。
飛竜部隊。
艦砲列車。
精霊弓兵。
大陸中の戦力が、赤い星を迎え撃つため集う。
エリシアは剣を抜き、空へ掲げる。
「全軍、戦闘準備!」
同時に、光の航路の先でノヴァが接近する。
小さな幼体フェンリルが、星の城へ飛び込んだ
光の航路が終わる。
その先に広がっていたのは、地面ではなかった。
赤黒い金属の大地。
脈打つ壁。
空へ伸びる塔。
血管のように走る光路。
天獄城ラグナロク――その外殻表面だった。
ノヴァたちは着地する。
重力はある。
だが空はない。
見上げれば、曲面の彼方まで城が続いている。
レナがゆっくり顔を上げた。
「……これ、城っていうか世界じゃない?」
フィリアは短く答える。
「敵地」




