48話 グランド・ノヴァ
レナは竜の腹下へ滑り込み、胸部の赤核を見上げる。
高い。
届かない。
その時、ノヴァが頭上から竜の角を蹴った。
巨大竜がわずかによろめく。
胸部が下がる。
一瞬の隙。
レナは地面を蹴った。
全力跳躍。
剣を両手で握りしめる。
「これでぇぇ!!」
渾身の突きが赤核へ刺さる。
ひび。
確かな手応え。
ドラグノスが初めて苦鳴を上げた。
「虫けらがァ!!」
竜の全身から赤雷が噴き出す。
レナが吹き飛ぶ。
ノヴァも空中へ弾かれる。
フィリアの防壁に亀裂が走る。
ドラグノスの胸核は割れかけていたが、まだ砕けない。
むしろ内部から、さらに濃い赤光が漏れてくる。
フィリアの声が鋭くなる。
「第二核がある!」
レナが地面に転がりながら叫ぶ。
「何個入ってんのよ!」
ノヴァは着地し、静かに胸核を見つめる。
外殻。
内核。
再生能力。
面倒だった。
一個ずつでは遅い。
全部まとめて壊す。
ノヴァはその場に座る。
レナが起き上がり、息を呑む。
「その座り方……」
フィリアが防壁をさらに厚くする。
「全員伏せて」
兵士たちが慌てて地面に伏せる。
エリシアも窓辺から身を引く。
パウだけがノヴァの隣に座った。
「ぱう!」
やる気満々だった。
夜空に雲はない。まだ日は昇らない
なのに、空が白く染まる。
王都上空に、ひとつの巨大な光点が現れた。
これまでの流星群とは違う。
一つだけ。
だが月ほどもある白い星。
レナが乾いた声で言う。
「数減ったぶん、嫌な予感しかしない」
フィリアが見上げる。
「圧縮型……」
ノヴァが咆哮した。
白き巨星が、ゆっくりと落ち始める。
その名は――
――グランド・ノヴァ――
白き巨星が、王都の夜空を埋める。
月ほどの大きさ。
静かに。
確実に。
落ちてくる。
広場の誰もが言葉を失った。
兵士たちは伏せたまま震え、王城の窓から人々が顔をのぞかせる。
レナだけが叫んだ。
「でかすぎるってぇぇ!!」
フィリアは即座に氷防壁を三重展開する。
「文句は後で」
ドラグノスが初めて狼狽した。
「馬鹿な……! 都市ごと消す気か!?」
ノヴァは真顔だった。
違う。
敵だけ消す気である。
ドラグノスは八枚翼を広げ、赤雷を空へ放つ。
何百本もの雷槍が巨星へ突き刺さる。
だが白い星は揺るがない。
表面の氷層がわずかに削れるだけ。
レナが呟く。
「止まらない……」
フィリアが訂正する。
「止めさせない」
ドラグノスは王都上空へ飛び上がる。
巨体が空を覆い、巨星へ体当たりする。
衝突。
轟音。
夜空に衝撃波が広がり、竜が吹き飛ぶ。
鱗が砕け、翼が千切れ、赤い血のような光が散る。
ドラグノスが絶叫する。
「この程度で――!」
その時。
ノヴァが地上から跳んだ。
白い影が、竜の胸元へ一直線。
空中。
ドラグノスの胸核が開く。
内側に第二核。
さらにその奥に第三の光。
レナが叫ぶ。
「やっぱり何個もある!!」
ノヴァは迷わない。
ぺし。
胸核へ。
ぺし。
第二核へ。
さらに奥へ潜り込み――
ぺし。
三連肉球。
静寂。
ドラグノスの目が見開かれる。
「な……」
全身に白い亀裂が走った。




